退職日を前倒しされた場合はどうなる? 解雇予告手当や注意点を解説
- 不当解雇・退職勧奨
- 退職日
- 前倒し
令和5年に都内の総合労働相談コーナーに寄せられた労働に関する相談は17万3947件でした。
退職予定の労働者(従業員)について、社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料など)を削減したいなどの理由から、会社が勝手に退職日を前倒しする例があるようです。
しかし、会社が勝手に退職日を前倒しすることは、原則として認められません。一方的に会社から退職日の前倒しを求められたら、対処法について弁護士にご相談ください。
本記事では、会社に退職日の前倒しを求められた場合の対処法や注意点などを、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスの弁護士が解説します。
出典:「令和5年度個別労働紛争解決制度の施行状況」(東京労働局)
1、退職日を前倒しされた場合は会社都合退職? 自己都合退職?
会社との間で決めた退職日が前倒しになった場合、その理由や経緯などによって、会社都合退職と自己都合退職のどちらになるかが変わります。
労働者の同意を得ずに、会社が一方的に退職日を前倒しした場合には、労働者の退職は「解雇」にあたるため、会社都合退職となります。
これに対して、労働者も同意したうえで退職日が前倒しされた場合には、退職の理由やきっかけによって会社都合退職か自己都合退職が決まります。
純粋に労働者が退職を希望している場合は自己都合退職ですが、会社の退職勧奨を受け入れた場合や、会社の違法行為や長時間労働などを理由に退職する場合は会社都合退職と判断されます。
会社都合退職は自己都合退職に比べて、雇用保険の基本手当の受給に関して優遇されるなどのメリットがあります。
2、会社に退職日の前倒しを求められた場合の対処法
会社に退職日の前倒しを求められた場合、労働者としては以下のような対応をとることが考えられます。
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(1)拒否する
会社から退職日の前倒しを求められても、労働者が承諾しなければ、前倒しはできません。
退職日が前倒しされれば、賃金を受け取れる期間も短くなります。すぐに転職先へ移ることができるならば問題ないですが、空白の期間ができてしまう場合には、生活に必要なお金を確保することが難しくなってしまうおそれがあります。
退職日を前倒しされると困る場合には、会社の前倒し要求に応じないでおきましょう。 -
(2)有給休暇の完全取得を求めて交渉する
退職日の前倒しを受け入れるとしても、労働者には、原則として付与されている有給休暇をすべて取得することができます。
有給休暇を完全に取得してから退職できるように、退職日の調整を求めて会社と交渉しましょう。 -
(3)解雇予告手当を請求する
会社が一方的に退職日を前倒しし、それを確定事項として労働者に伝えてきた場合には、会社の行為は解雇にあたる可能性があります。
会社が労働者を解雇する際には、30日以上前に解雇の予告をするか、そうでなければ解雇予告手当を支払わなければなりません(労働基準法第20条)。
退職日が前倒しされた結果として解雇にあたることとなった場合には、解雇予告期間が30日未満となっている可能性があります。この場合、30日に満たない日数分以上の平均賃金を、解雇予告手当として会社に請求できます。
解雇予告手当が適切に支払われていない場合は、会社に対して解雇予告手当の支払いを請求しましょう。 -
(4)不当解雇を主張する
前述のとおり、会社が一方的に退職日を前倒しすることは解雇にあたる可能性があります。
解雇には「懲戒解雇」「整理解雇」「普通解雇」の3種類があり、それぞれに応じた法律上の要件を満たしていなければ無効です。解雇の要件 ① 懲戒解雇
以下の要件をすべて満たすことが必要です。
- 就業規則上の懲戒事由に該当すること
- 懲戒解雇を行うことがある旨が、就業規則に定められていること
- 解雇について客観的に合理的な理由があり、解雇が社会通念上相当であると認められること
② 整理解雇
以下の4要件を総合的に考慮して、整理解雇の有効性が判断されます。
- 人員整理の必要性
- 解雇回避努力義務の履行
- 被解雇者選定の合理性
- 解雇手続きの妥当性
③ 普通解雇
以下の要件をいずれも満たすことが必要です。
- 労働契約または就業規則上の解雇事由に該当すること
- 解雇について客観的に合理的な理由があり、解雇が社会通念上相当であると認められること
実務上、解雇の有効性は非常に厳しく判断されており、上記要件を満たしていないとして解雇が無効となるケースも少なくありません。
会社による一方的な退職日の前倒しによる解雇についても、不当解雇を主張し、復職できる余地があります。また、復職はしないとしても、会社からある程度の解決金を得られる可能性もあります。
会社に対して不当解雇を主張する場合は、あらかじめ会社に対して解雇理由証明書の交付を請求し、会社が主張する解雇理由を確認しましょう。
そして、会社が主張する解雇理由の不合理な点に対して徹底的に反論すれば、不当解雇が認められる可能性があります。 -
(5)雇用保険の基本手当を受給する
会社によって一方的に退職日が前倒しされ、転職先も決まっていない場合には、賃金収入が途絶えてしまうことになります。
退職日の前倒しによって賃金を得られない期間が生じた場合には、ハローワークで手続きを行って、雇用保険の基本手当を受給しましょう。
雇用保険の基本手当は、失業中の労働者の生活を保障するために支給される金銭です。
自己都合退職の場合は、原則として申請日から7日と2か月が経過した時点より、会社都合退職の場合は申請日から7日間が経過した時点より、雇用保険の基本手当を受給できます。
雇用保険の基本手当の受給期間も、多くのケースで自己都合退職よりも会社都合退職の方が有利になっています。
雇用保険の基本手当は、ハローワークへの申請が早ければ早いほど、早期かつ長期間にわたって受け取ることができます。予期せぬ退職日の前倒しによって収入が途絶えてしまう場合は、早めに雇用保険の基本手当の申請を行いましょう。
お問い合わせください。
3、退職日の変更に応じる際の注意点
退職日の変更に応じるかどうかは、メリットとデメリットを比較したうえで慎重に判断しましょう。また、会社とのトラブルを回避するため、変更後の退職日を明記した退職届などを作成し、会社に提出しましょう。
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(1)メリットとデメリットを比較して判断する
会社による退職日前倒しの提案を受け入れることには、メリットとデメリットの両面があります。
退職日の前倒しを受け入れることのメリットとしては、転職の時期が早まる点が挙げられます。
すでに転職先が決まっている場合は、より早い段階から転職先の業務や職場に慣れることができるでしょう。また、転職前よりも転職後の待遇が良い場合には、退職日の前倒しを受け入れて早く転職先へ移った方がよいかもしれません。
さらに、退職後も会社との関係性を良好に保ちたい場合には、会社の要望をある程度受け入れることも検討した方がよいでしょう。
これに対して、転職先がまだ決まっていない場合には、退職日の前倒しを受け入れることにはデメリットが大きいと考えられます。空白期間ができてしまい、受け取れる賃金が減ってしまう可能性が高いからです。
雇用保険の基本手当を受給できるとしても、退職前の賃金に比べると収入は少なくなる点にご注意ください。
退職日の前倒しを受け入れるかどうかは、上記のメリットとデメリットを比較したうえで、ご自身の状況に応じて慎重に判断しましょう。 -
(2)退職日を明記した書面を作成する
退職日の変更を受け入れることを決めた場合は、変更後の退職日を明記した退職届などを作成して会社に提出し、提出した書面の写しを保存しておきましょう。
きちんと書面を残しておけば、退職日について会社と揉めるなどのトラブルを予防できます。
4、退職に関する会社とのトラブルは弁護士に相談を
会社から退職日の前倒しを求められるなど、退職に関するトラブルへの対応に悩んでいる方は、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士は、会社側の要求や対応の当否を法的な観点から検討したうえで、具体的な対処法をアドバイスできます。
会社側が不当解雇などの不適切な対応をした場合には、弁護士が法的根拠に基づいて是正を求めたり、補償を請求したりするなどのサポートを行います。
会社との交渉や労働審判・訴訟などの法的手続きについても、弁護士へ全面的に任せることができます。退職に関する会社とのトラブルが発生したら、お早めに弁護士へご相談ください。
5、まとめ
会社によって退職日が一方的に前倒しされた場合、法的には解雇の扱いとなる可能性があります。
解雇である場合は、労働者は会社に対して解雇予告手当を請求できることがあるほか、不当解雇として退職が無効であることを狩猟する方法もあります。
退職日を勝手に前倒しされたなど、会社との間で退職に関するトラブルが発生した場合には、弁護士のサポートを受けましょう。弁護士が法的な観点から対応することにより、労働者にとって有利に解決できる可能性があります。
ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスは、会社とのトラブルに関する労働者のご相談を随時受け付けております。退職に関してお悩みの際はお気軽にご相談ください。
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