残業100時間は当たり前? 違法性や未払い残業代の請求方法
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東京労働局によると令和6年度における過労死等の労災補償状況が、脳・心臓疾患の請求件数は158件、精神障害事案の請求件数では763件にのぼります。
過重労働は過労死や鬱病の原因のひとつに挙げられますが、残業が100時間を超えた場合、法的な問題はないのでしょうか。
この記事では、残業が100時間を超える場合の法的問題点や、一般的な過労死ライン、残業が100時間を超えても違法とならないケースなどについて、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスの弁護士が解説していきます。
1、残業100時間は当たり前? 違法性は?
残業が100時間近くあることは、当たり前のことではなく違法性が疑われます。過労死ラインを超えた労働時間であり、身体・精神に不調を来すリスクもあります。
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(1)残業が100時間に達することは原則として違法
結論としては、毎月の残業が100時間に達することは、法律に違反する可能性が高いです。
労働基準法では「1日8時間・週40時間」までの勤務を、法定労働時間として定めています。
後述するように、36協定を締結した場合は残業が認められますが、残業時間の上限は、原則として「月45時間・年360時間」です。100時間を超える残業時間は、この規制を大幅に超えることになり、当たり前とはいえません。 -
(2)36協定を結んでも残業時間には上限がある
労働基準法第36条の手続きに基づいて、会社と労働組合等が労使協定を締結すると、通常の勤務時間を越えた時間外労働や休日労働を行うことができます。
この労使協定を「36(サブロク)協定」といいます。
ただし、36協定を締結した場合でも残業時間には上限があり、通常「月45時間・年360時間」を越えることは認められません。
もし、1か月の残業時間が100時間を超えた場合、会社は、6か月以下の懲役、または30万円以下の罰金に処される可能性があります(労働基準法119条1号、36条6項2号)。
また、36協定に特別条項があれば、機械トラブルへの対応や、大規模なクレーム対応などの緊急の事情がある場合には、臨時的な長時間労働が認められますが、会社は次のルールを守って従業員を働かせる必要があります。- 時間外労働時間が年720時間以内
- 時間外労働と休日労働の合計が「1か月100時間」未満
- 時間外労働と休日労働の合計が「2か月平均」「3か月平均」「4か月平均」「5か月平均」「6か月平均」のすべてについて「1か月当たり80時間」以内
- 「1か月について45時間」を超える時間外労働が1年間で6か月まで
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(3)残業100時間は「過労死ライン」
残業が100時間に達する場合には、過労死ラインを超えている可能性があります。
そもそも、過労死とは、業務における過重な負荷による脳血管疾患または心臓疾患を原因とする死亡や、業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡のことを指します。
長い時間にわたり業務に従事すると、疲労が蓄積することから、医学的に脳・心臓疾患との関連性も強いと考えられています。脳・心臓疾患にかかる労災認定基準においては、時間外労働が月45時間を超えて長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価しています。
また、発症前1か月間におおむね100時間、または、発症前2か月間ないし6か月間にわたって1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働がある場合には、過剰な業務の影響で従業員が死亡したと評価される可能性が高くなります。
2、残業が100時間を超えても違法にならないケース
残業が100時間を超えると原則的には違法ですが、残業が100時間を超えていても違法とはならない、例外的なケースが2つあります。
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(1)使用者に該当する役員
従業員を雇用する「使用者」には、労働基準法上の労働者に当たらないため、残業規制は適用されません。
「使用者」とは、「事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者」と定義されています(労働基準法第10条)。
「役員」は、役員報酬を受け取って会社の経営を行う経営者であるため、労働基準法上の「使用者」に該当します。
実態としても、役員は雇用契約ではなく委任契約に基づき、広範な裁量の中で依頼された業務を行い、働く時間が決まっていないということが多いでしょう。 -
(2)管理監督者
管理監督者についても、労働時間の規定の適用が除外されています。
管理監督者とは、「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者」のことを指します(労働基準法第41条2号)。
管理監督者は役員とは異なり、従業員であるため、労働基準法の保護の対象ではありますが、労働時間、休憩・休日に関する規定の適用から除外されています(深夜の割増賃金は、管理監督者にも適用されます)。なぜなら、管理監督者は、重要な職務と責任を有しており、現実の勤務態様も労働時間等の規制になじまないと考えられているからです。
ただし、管理監督者は必ずしも名目上の管理職と一致するとは限りません。残業規制の適用を除外するための「名ばかり管理職」であるおそれもあります。
そのため、厚生労働省も管理監督者については、部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意であり、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきという立場に立っています。
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3、未払い残業代の請求方法
過剰な残業を強いる会社の場合、残業代が未払いであるケースも少なくありません。
ここでは、会社に未払いの残業代を請求する方法について解説していきます。
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(1)未払い残業代の計算、証拠集め
会社に対して未払いの残業代を請求するためには、未払いとなっている残業代が具体的にいくらなのかを計算する必要があります。
基本的には、残業代を請求する従業員の側で「何時から何時まで働いたのか」を証明できる証拠を収集して計算する必要があります。
残業時間を証明するための証拠としては、以下のようなものがあります。- タイムカード、勤怠表、出勤簿
- 交通系ICカードの通過時間の履歴
- 業務に関するメールの送信時間
- 労働時間が記載されている給与明細
- 家族に退勤を報告するために送ったLINEやメールの送信時間
未払残業代の請求の際の証拠・交渉材料となるため、できるだけ収集しておくとよいでしょう。
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(2)会社への請求・交渉
未払残業代を回収するためには、会社に請求する必要があります。
すでに会社を退職している方は、まずは会社に内容証明郵便(送付内容を証明する郵便局の有料サービス)を送付して残業代を請求しましょう。
会社が残業代に未払いについて、支払いを拒否したり一部しか認めなかったりした場合は、交渉が必要となります。話し合いの際には、労働事件の解決実績がある弁護士のサポートを受けると精神的負担も減り、相手との交渉も有利に進む可能性が高いでしょう。 -
(3)労働基準監督署への通報
会社が未払いの残業代を支払わない場合には、労働基準監督署に通報する手段もあります。
労働基準法には、「事業場に、この法律…に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる」と規定しています(労働基準法第104条1項)。
ただし労働基準監督署が行うのは是正勧告や行政指導などにとどまり、法的拘束力を持つものではありません。もし会社が従わない場合は、残業代支払いについて会社との交渉を別途行う必要があります。 -
(4)労働審判・通常訴訟
交渉をしても残業代が支払われない場合は、労働審判を申し立てる方法があります。
労働審判は、簡易で迅速な解決を目的とした裁判手続きで、最大3回の期日で解決することを目指します。
労働審判で合意が成立しなかった場合は、自動的に通常訴訟に移行することになります。
裁判所を利用する場合には、証拠に基づいた主張を適切に行う必要があるため、法律の専門家である弁護士に対応を依頼し、適切なサポートを受けることが重要です。
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4、未払い残業代を請求する際のポイント
在職中はもちろん、退職後であっても未払い残業代を請求することができます。ここでは、残業代請求を行う際の注意とポイントをお伝えします。
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(1)「3年」の消滅時効に注意する
未払残業代の請求については、時効に注意が必要です。
未払いの残業代があったとしても、現行法では「3年」の消滅時効があるため、原則として、それ以前のものについてはさかのぼって請求することはできなくなります(労働基準法第115条、同143条3項)。
なお、消滅時効は、将来的には5年まで延長される可能性があります。 -
(2)労働問題の実績がある弁護士を選ぶ
未払いの残業代請求を検討している方は、労働問題の解決実績がある弁護士に相談することをおすすめします。
労働問題の実績がある弁護士に相談すれば、残業代請求に必要な証拠の種類やその収集の方法などについて具体的なアドバイスを受けることができます。手元に有効な資料がない場合でも、会社に対して証拠開示を求めることもできます。
また、正確な未払残業代の算出、会社への請求についても、安心して手続きを進めることができます。さらに、労働審判や訴訟に発展した場合であっても引き続き対応を一任できます。
弁護士に相談することで、残業代トラブルについてスムーズに解決できる可能性が高まります。
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5、まとめ
残業が100時間を超えていることは当たり前ではなく、労働基準法など労働関連法令に反しているおそれがあります。また、過労死ラインを超えることになるため、心身に支障を来すおそれもあります。
労働時間が法律に違反しているおそれがある場合や、未払いの残業代が発生しているという場合には、弁護士にご相談ください。ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスには、労働問題の解決実績がある弁護士が在籍しております。トラブル解決に向けて、まずはお気軽にご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
