会社に無理やり退職届を書かされたら撤回できる? 具体的な対処法
- 不当解雇・退職勧奨
 
- 退職届
 - 書かされた
 
									
									令和6年、東京都の離職率は13.2%でした。退職の理由は、仕事が合わないことなどさまざまなものがありますが、なかには自分の意思に反して、会社に言われるがまま退職するケースもあるでしょう。
上司から退職を迫られ、自分から退職届を提出させられる状況に追い込まれてしまうこともあるかもしれません。自分から退職する意思がなかったとしても、退職届を提出してしまうと、自分から退職する意思があったとみなされてしまう可能性があります。
もっとも、意に反して退職届を提出してしまった場合は、退職の無効を主張できる可能性もありますので、弁護士に早めに相談するのがおすすめです。
今回は、会社に無理やり退職届を書かされたときの対処法について、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスの弁護士が解説します。																										
1、会社から退職届を書かされたら撤回できる?
会社から無理やり退職届を書かされたとしても、退職届は自ら退職を申し出る書面とみなされれば、労働契約を一方的に解約する旨の意思表示として扱われてしまう可能性があり、その場合は法的には撤回ができません。詳しく解説します。
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(1)原則、退職届の撤回はできない
退職届の提出は、法的には以下の2つの意味があります。
- 辞職の通知(いわゆる退職届)
 - 合意解約の申し込み(いわゆる退職願)
 
どちらに該当するかは、名称のみならず文面や経緯などを考慮して判断されます。後述する「退職の効力」が生じたあとは、不本意な退職の届け出であったとしても、原則として撤回することはできません。そのため、退職届を提出するかどうかは、慎重に検討する必要があります。
 - 辞職の通知(いわゆる退職届)
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(2)退職届を撤回できるタイミングは?
退職届は、退職の効力が生じる前であれば撤回することができます。退職の効力が生じる時期については、退職届が辞職の通知と、合意解約の申し込みのどちらに該当するかによって変わります。
①退職届が辞職の通知の場合
退職届が辞職の通知にあたる場合、法的には、労働者が会社との労働契約を一方的に解約する旨の意思表示として扱われます。この場合、労働者からの解約の意思表示が会社側に到達した時点で法的効力が生じますので、意思表示が到達する前であれば撤回可能です。とはいえ、退職届を提出すると会社に到達したことになりますから、退職届を提出したあとは基本的には撤回できないと考えて良く、退職届を提出するかどうかは慎重に判断する必要があります。ドラマ等で上司に退職届を提出したが、上司が会社に報告しておらず、会社に戻れたというようなシーンがたまにあったりしますが、あれは法的には労働者側の退職の意思が会社に到達してなかったと解釈することになるのでしょう。
②退職届が合意解約の申し込みの場合
退職届が合意解約の申し込みにあたる場合、労働者からの解約の申し込みに対して、会社が承諾した時点で退職の法的効果が生じます。そのため、決裁者が承諾する前であれば退職届を撤回することができます。ドラマ等で上司に退職届を提出したが、上司が了承してくれなかったというようなシーンがたまにあったりしますが、あれは法的には労働者側の合意解約の申し込みを会社が承諾しなかったと解釈することになるのでしょう。 
2、退職届を書かされた場合に生じる労働者側のデメリット
自分の意に沿わない退職届を書かされた場合、労働者側には以下のようなデメリットが生じます。
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(1)合意退職・自己都合退職扱いになる
たとえ不本意であったとしても、退職届を出した場合、法的には合意解約の申し込み・辞職の通知として扱われてしまいます。
あとから不当解雇であったと主張しても、退職届が提出されていると合意解約の申し込み又は辞職の通知があったものと解釈され、解雇による退職ではないとされてしまう可能性がありますので、裁判を起こしても労働者側の主張が認められない可能性があります。 - 
						
(2)失業手当の待機期間が長くなる
失業手当を受け取りたい場合、会社から解雇されたのか、自己都合退職をしたのかにより、受け取りまでの待機期間が変わってきます。会社から解雇された場合は「特定受給資格者」に該当しますので、失業から1週間の待機期間の経過後に、失業手当を受給することができます。
先述のとおり、不本意でも自身で退職届を出した場合は合意解約の申し込み又は辞職の通知があったものと解釈され、自己都合退職になります。自己都合退職の場合は、特定受給資格者には該当しませんので、原則として2か月の待機期間の経過後でなければ、失業手当を受給することができません。そのため、待機期間の2か月間、収入がなくなってしまうリスクがあります。 - 
						
(3)退職金が減額されることがある
会社の退職金規程の定めによりますが、一般的に会社都合退職の方が自己都合退職よりも退職金の金額が高くなります。というのも、会社の都合で労働者には退職してもらいたいので、退職してもらうために通常よりも高い退職金を提示することがあり得るからです。
実質的には解雇であるにもかかわらず、退職届を書かされて提出すると、これによって退職の効力が生じてしまい、会社としても通常よりも高い退職金を提示する必要性がなくなります。会社に退職を迫られて直ぐ退職届を退出してしまう場合と、なかなか退職届を提出しない場合とでは、最終的に受け取れる退職金の額も異なってくるかもしれません。 
お問い合わせください。
3、退職届を無理やり書かされた場合の対処方法
退職届を無理やり書かされて提出してしまった場合は、以下のような対処法を検討しましょう。
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(1)退職届を無理やり書かされた場合は無効を主張できる
労働者による退職の意思表示が、労働者の真意に基づくものでない場合には、退職の意思表示の無効を主張できる可能性があります。退職の意思表示の無効を主張できるケースとしては、主に以下の3つが挙げられます。
① 錯誤による取り消し
錯誤による退職とは、労働者の重大な思い違いにより退職の意思表示をすることをいいます。
たとえば、会社から懲戒事由に該当するため退職しなければ懲戒解雇になると言われて、退職届を提出したものの、そもそも懲戒事由に該当するような事情はなかった場合がこれにあたります(昭和電鉄電纜事件:横浜地川崎支判平16・5・28、富士ゼロックス事件:東京地判平23・3・30)。
② 詐欺・強迫による取り消し
詐欺による退職とは、労働者が虚偽の情報を伝えられ、誤信させられた状態で退職の意思表示をすることをいいます。
また、強迫による退職とは、労働者が不安に感じるようなことを告げられ、自由な意思表示ができない状態で退職の意思表示をすることをいいます。
たとえば、会社から長時間拘束されて執拗(しつよう)に退職を迫られたようなケースが、強迫による退職にあたります(石見交通事件:松江池益田支判昭44・11・18)。
③ 心裡留保による無効
心裡留保による退職とは、労働者が本心でないのに退職の意思表示をすることをいいます。
たとえば、会社を辞めるつもりがないにもかかわらず、退職の意思表示をする場合がこれにあたります(昭和女子大学事件:東京地決平4・2・6)。
心裡留保による退職は、基本的には退職に対する法的効力が認められますが、会社側が、退職について労働者の本心ではないことを認識していた場合には、退職の意思表示が無効になります。 - 
						
(2)違法な退職勧奨を理由に解雇の無効や復職を主張する
会社が労働者に対して退職を促すことを「退職勧奨」といいます。退職勧奨は、退職するかどうかの意思が労働者に委ねられている限り、原則として会社側から自由に行うことができます。
しかし、退職勧奨が執拗に行われ、社会的相当性を逸脱した態様によるものであった場合は、違法な退職強要にあたります。このような違法な退職強要により退職届を書かされた場合、労働者の真意に基づく退職の意思表示ではありませんので、不当解雇を理由に解雇の無効や復職を主張することが可能です。 - 
						
(3)違法な退職勧奨を理由に損害賠償請求をする
先述のとおり、退職勧奨が退職強要にあたる場合には、不法行為が成立しますので、会社に対して損害賠償請求を行うことができます(下関商業高校事件:最一小判昭55・7・10)。ただし、違法な退職強要と評価されても、常に損害賠償請求ができるわけではありません。違法な退職強要と評価される事案のなかでも、特に違法性が強い事案に限り請求することが可能です。
 
4、無理やり退職届を書かされた場合は弁護士へ相談を
会社から無理やり退職届を書かされたという方は、退職の意思表示の取り消しまたは無効を主張できる可能性がありますので、すぐに弁護士に相談するようにしましょう。以下では、弁護士に相談する主なメリットをご紹介します。
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(1)弁護士から適切なアドバイスを受けられる
会社に退職届を提出してしまったとしても、退職届を提出するに至った経緯によっては、復職が認められる可能性があります。復職を求めていく方法は、状況によって異なりますが、弁護士であれば、具体的な状況を踏まえて労働者がとるべき最善の方法をアドバイスすることが可能です。
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(2)退職の撤回をしてもらえる
先述のとおり、退職届の内容やタイミングによっては、退職の撤回が認められる可能性があります。退職の撤回が可能な事案であれば、弁護士が労働者の代理人として、退職の撤回の意思表示を行うことが可能です。弁護士が代理人となって対応することで、労働者個人で対応するよりも、退職の撤回が認められる可能性は高くなるでしょう。
ただし、退職届を提出してから時間がたてばたつほど、退職の撤回が認められる可能性は低くなりますので、早めに弁護士へ相談することが大切です。 - 
						
(3)退職届の無効・取り消しを主張してもらえる
退職届の撤回ができないタイミングであったとしても、退職届の提出が労働者の真意ではないときは、退職届の無効や取り消しを主張することができます。
弁護士であれば、労働者の代理人として退職の無効や取り消しを主張し、会社と交渉することが可能ですので、交渉によって生じる精神的な負担を軽減することが可能です。また、労働者個人で交渉しても真剣に取り合ってくれない会社の場合、弁護士が代理人として交渉することで、真摯(しんし)な対応に切り替わることが期待できます。
万が一、交渉で解決できない場合でも、弁護士が労働審判や裁判などの法的手続きにより、労働者の権利の実現に向けたサポートをしますので、安心してお任せください。 
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5、まとめ
					退職届を書かされて提出してしまうと、原則として撤回することができません。そのため、退職届を提出するかどうかは慎重に判断する必要があります。
					
					ただし、会社から無理やり退職届を書かされて提出したようなケースであれば、退職届の取り消しや無効を主張することで、会社への復職が認められる可能性があります。一方、退職届を提出してから長期間放置してしまうと、あとから退職を無効にするのが難しくなります。不本意な退職届を書かされたときは、なるべく早く弁護士に相談するようにしてください。
					
					不本意な退職届を書かされた、または書かされそうになっているという方は、まずはベリーベスト法律事務所 北千住オフィスまでお気軽にご相談ください。
				
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
 
			