男児にわいせつ行為をしたときに問われる罪や罰則を解説
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令和5年3月、足立区の路上で男子小学生の尻などを触った疑いで男が逮捕されました。罪名は「強制わいせつ罪」です。
わいせつ犯罪といえば、女性や女子が対象となるイメージが強いかもしれません。しかし、わいせつ罪に関する刑法の条文では、被害の対象は女性に限られていません。上記の事例のように、実際に男子へのわいせつ容疑で逮捕されるケースも多々存在しているのです。
本コラムでは、男児にわいせつ行為をしたときに問われる罪や刑罰について、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスの弁護士が解説します。
1、「強制わいせつ罪」は男児・女児を問わず成立する
以下では、「強制わいせつ罪」の概要や、男児への強制わいせつ罪が成立する理由を解説します。
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(1)強制わいせつ罪とは?
強制わいせつ罪は、刑法第176条に定められている犯罪です。
13歳以上の者に対し、暴行または脅迫を用いてわいせつな行為をした者を処罰の対象としています。
また、13歳未満の者に対してわいせつな行為をした者は、暴行または脅迫を用いなくとも、同様に処罰の対象になります。
刑法の条文に「13歳以上の者」「13歳未満の者」と明記されているとおり、本罪の保護対象には、男女・男児女児といった性別の区別はありません。
一般的にわいせつ犯罪の被害者の多くは女性・女児ですが、男性・男児が相手だからといって本罪が成立しないわけではないという点に注意してください。
本罪における「暴行または脅迫」とは、殴る・蹴るなどの暴力行為や「騒いだら痛い目に遭わせるぞ」といった脅し文句に限りません。
判例上、暴行または脅迫は、「被害者の反抗を著しく困難ならしめる程度」のものが必要とされています。そのため、暴行に至らない程度の捕まえる・押さえつけるなどの行為や、身体への接触がなくても、年齢差・性別・体格差などを考慮すると抵抗が難しい場合には、暴行・脅迫があったものと判断される可能性が高いといえます。
「わいせつな行為」とは、胸・尻・陰部などの性的な部位を触る、身体に触れる、衣服を脱がす、キスをする、首筋をなめるなどの性的羞恥心を害する行為です。
なお、これらの行為は、夫婦・恋人同士などの間でお互いが同意していれば罪にはなりませんが、暴行・脅迫があった、アルコールや薬物の影響を受けている、社会的・経済的な立場から断り切れないなどの状況があれば「お互いの同意があった」とはいえません。
令和5年7月13日には改正刑法が施行されて、強制わいせつ罪は「不同意わいせつ罪」へと改正されました。
従来の暴行・脅迫に加えてさらに犯罪が成立する要件が拡大されるだけでなく、性交同意年齢も16歳へと引き上げられる点にも注意しましょう。 -
(2)強制わいせつ罪で科せられる刑罰
強制わいせつ罪の法定刑は、6か月以上10年以下の懲役です。
不同意わいせつ罪へと改正されたあとも法定刑の重さに変更はありませんが、法定刑の種類は懲役刑から「拘禁刑」へと変わります。
拘禁刑は、従来の懲役刑と禁錮刑を廃止して、一本化したうえで、個々の受刑者の特性に応じた柔軟な処遇をとることで再犯防止の効果を高める目的をもつ新しい刑罰です。
2、男児・女児を問わず成立するわいせつ犯罪の種類と刑罰
以下では、相手が男児・女児を問わず成立する、強制わいせつ罪以外の、性犯罪と分類される類型の犯罪について解説します。
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(1)強制性交等罪
13歳以上の者に対し、暴行または脅迫を用いて性交・肛門性交・口腔性交をした者は、刑法第177条の「強制性交等罪」に問われます。
13歳未満の者が相手の場合は、暴行脅迫を用いていなくとも、また、合意があっても処罰の対象です。
強制わいせつ罪と同じく、本罪は「13歳以上の者」「13歳未満の者」を保護の対象としており、男女の別を問いません。
有罪判決を受けると、5年以上の有期懲役が科せられます。
3年を超える懲役には執行猶予がつかないので、原則としてかならず刑務所へと収容されてしまう重罪です。
なお、本罪は強制わいせつ罪と同じく令和5年7月13日施行の改正刑法によって「不同意性交等罪」へと変更になります。
要件が拡大される、法定刑が懲役刑から拘禁刑へと変更されるという点も同じです。 -
(2)都道府県の迷惑防止条例違反
公共の場所や乗物において、衣服の上から、または人の身体に直接触れる、いわゆる「痴漢」行為は、都道府県の迷惑防止条例違反となります。
東京都では「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」の第5条1項1号に規定がありますが、対象を「人」としているので男女・年齢の区別はありません。
たとえ男児が相手でも、性的に羞恥させたり、または不安を覚えさせたりするような痴漢行為は処罰の対象となるのです。
東京都での罰則は6か月以下の懲役または50万円以下の罰金です。
また、常習と認められた場合は1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられることになります。 -
(3)児童買春・児童ポルノ禁止法違反
18歳未満の児童について、金銭などの対償を供与して性交や性交類似行為などを行う「児童買春」や、児童の性的な姿態を描写した画像・動画などの「児童ポルノ」の製造・所持などは「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(通称:児童買春・児童ポルノ禁止法)」の違反になります。
本法における「児童」は18歳未満を対象としているものの男児・女児の区別はありません。
児童買春をした者は5年以下の懲役または300万円以下の罰金が科せられます。
児童ポルノに関する違反行為の罰則は、行為の内容によって異なります。製造、所持の場合は以下のとおりです。- 自己の性的好奇心を満たす目的で児童ポルノを製造した者:3年以下の懲役または300万円以下の罰金
- 自己の性的好奇心を満たす目的で児童ポルノを所持した者:1年以下の懲役または100万円以下の罰金
そのほか、第三者への提供目的による製造や所持、不特定多数への提供、公然陳列なども厳しく処罰されます。
3、加害者が女性でも罪に問われる
わいせつ犯罪といえば、加害者が男性、被害者は女性や女児といった構図が典型的です。
しかし、法律の定めに照らすと、加害者が女性・被害者が男性や男児といったケースでも犯罪が成立します。
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(1)実際に女性が加害者として罪に問われた事例
平成31年1月、スマホのオンラインゲームで知り合った小学6年生の男児を自宅に呼び出してわいせつな行為をした22歳の女性が強制性交等罪の容疑で逮捕されました。
この女性は、男児との性的な行為の様子をスマートフォンで撮影しており、児童買春・児童ポルノ禁止法違反の容疑も同時にかけられました。
同年9月には刑事裁判で判決が言い渡されました。
裁判官は「判断能力や性的知識が乏しいことにつけ込んだ犯行で悪質」と指摘しながらも、女性と男児がお互いに恋愛感情を抱いていた、今後は一切連絡を取らないことを条件に示談が成立しているなどの理由から、懲役3年・執行猶予5年の判決を言い渡しています。
本来、強制性交等罪は執行猶予の対象外ですが、この事例のように被告人にとって有利な事情が認められれば「刑の減軽」によって法定刑が減じられて、執行猶予が得られる可能性があります。 -
(2)加害者の性別は問わない
上記の事例で適用された強制性交等罪をはじめ、性犯罪にあたる犯罪の条文では、いずれも「~した者」を罰すると明記されています。
つまり、法律は加害者の性別を区別していないので、女性が加害者となった場合でも犯罪の嫌疑は免れられないのです。 -
(3)13歳未満なら同意があっても犯罪が成立する
上記の事例で注目すべきもうひとつのポイントは、対象の男児が当時12歳だったという点です。
改正前の刑法では、性交や性的行為に関して本人が同意できる年齢を13歳と定めており、13歳未満ではたとえ本人が同意を示したうえで行為におよんだとしても犯罪になります。
令和5年7月13日に改正刑法が施行されると、性交・性的行為に関して同意できる年齢が16歳へと引き上げられるので、今後は中学生や高校生の年代が相手となった場合でも同様に処罰されるという点は覚えておかなくてはなりません。
なお、相手が13歳以上16歳未満の場合は、被害者の誕生日を起算点に5歳差の範囲を超えている場合に限って処罰の対象となります。
これは、同年代同士の性的な行為を処罰の対象としないための措置です。 -
(4)性的な行為の主体性が問題になる
性交を含めて、性的な行為の多くは男性側が主体となるケースが大半です。
性交とは「男性の陰茎を女性の膣に挿入させること」で成立するので、女性が加害者となった場合、加害者に主体性があったのかという点は慎重に判断されなければなりません。
この事例では、相手が13歳未満だったので、たとえ女性側に主体性がなくてもお互いが合意のうえで性交等にいたった事実があれば犯罪が成立します。
しかし、たとえば男児側が主体的に性交等を求めて、女性が同意しないまま行為にいたったとすれば、強制性交等罪は成立しないことになるでしょう。
このように、女性が加害者となった場合は、とくに性的な行為への主体性が問題になります。
主体性がなければ犯罪そのものが成立しなかったり、主体性が薄ければ罪は免れられないとしても執行猶予が付される、または量刑が軽い方向へと傾くなどの有利な結果へとつながったりする可能性が高まります。
4、男児を相手にわいせつ行為をしてしまったときの解決策
男児を相手としたわいせつな行為に心あたりがある場合は、逮捕や厳しい刑罰を受ける危険があるため、速やかに弁護士に相談したうえで被害者との示談交渉を行いましょう。
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(1)素早い示談交渉が重要
男児を相手にわいせつな行為をしてしまったときの最も有効な解決策は、被害者との「示談」です。
示談が成立すれば、被害届や刑事告訴を阻止し、あるいは届出済みでも取り下げや取消しによる解決が期待できます。
示談交渉はスピード勝負です。
わいせつな行為があった日からごく近いうちに示談交渉をもちかければ、警察への届出よりも前に事件を解決できる可能性があります。
また、すでに警察が事件を認知していても、示談成立によって「被害者側が処罰を望んでいない」という評価につながり、警察限りで捜査が終結したり、検察官が不起訴処分を下したりする可能性を高められるでしょう。
検察官が不起訴処分とすれば、刑事裁判が開かれないので刑罰を受けません。
検察官が起訴に踏み切り、刑事裁判が開かれたとしても、判決の日までに示談が成立すれば、執行猶予などの有利な処分を得られる可能性を高められます。 -
(2)穏便な解決には弁護士のサポートが欠かせない
わいせつ事件の示談交渉は簡単ではありません。
本来、示談交渉は被害者本人と進めるものですが、被害者は法的な意思を示すことができない子どもなので、示談交渉は保護者である親が相手となるのが一般的です。
我が子が性的な被害に遭った親の多くは強い怒りを感じているので、示談を申し入れても相手にしてくれなかったり、過度に多額の賠償金の支払いを求められてしまったりして、交渉がうまく進まなくなる場合もあるのです。
このような事情を考えると、被害者側との示談交渉は弁護士にまかせたほうが安全です。
公平かつ中立な第三者である弁護士が窓口を務めることで、被害者側の警戒心を和らげ、円滑に示談交渉を進められる可能性を高められます。
また、経験豊富な弁護士であれば、過去に起きた同じような事例をもとに適切な賠償額を提示できるので、過度に高額な負担の回避にもつながるでしょう。
もし刑事事件に発展してしまった場合でも、弁護士に相談することで、警察・検察官による取り調べへの対応や、加害者にとって有利な事情を示す証拠の収集を依頼できます。
不起訴や執行猶予といった有利な処分を得るためには、弁護士のサポートは欠かせません。
5、まとめ
法律上、わいせつ犯罪の被害者の性別は問いません。
被害者は女性や女児で加害者は男性、という事例が一般的なイメージですが、男性・男児が被害を受けた場合や加害者が女性である場合にも、強制わいせつ罪などの犯罪が成立します。
男児へのわいせつ行為は、法律によって厳しく処罰されます。
逮捕や厳しい刑罰を避けるために、速やかに弁護士に相談しましょう。
わいせつ事件の解決は、ベリーベスト法律事務所にお任せください。
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