逮捕状が発行されたらどうなる? 逮捕の前兆や流れを弁護士が解説
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足立区が公表している令和5年度の刑法犯認知件数は4222件でした。前年度よりも115%増となっており、やや増加傾向にあります。
刑事事件を起こしてしまった人がまず不安を抱くのは、「逮捕されるかどうか」ということでしょう。また「逮捕状が発行されてしまうとどうなるのか」「逮捕状されるときは事前の通知があるのか」「逮捕を阻止する方法はないのか」という点が気にかかる方も多いと思います。
本コラムでは、逮捕状が発行されるまでの流れやその後の流れ、逮捕状の発行を阻止するための対策などについて、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスの弁護士が解説します。
1、逮捕状とは?発行されるまでの流れ
まず、映画やドラマなどでもたびたび登場する「逮捕状」について、逮捕の意味や逮捕状が発行されるまでの流れとともに解説します。
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(1)「逮捕」と「逮捕状」の意味
「逮捕」といえば「警察が犯人を捕まえること」というイメージを抱かれる方も多いでしょう。
しかし、正確には、逮捕とは「罪を犯した疑いがある人について、正しい刑事手続きを受けさせる目的で、逃亡や証拠隠滅を防ぐために身柄を拘束する強制手続き」となります。
つまり、警察に逮捕された段階では、犯罪の容疑はあるものの「犯人」と断定できません。
法律上、犯人となるのは刑事裁判を経て有罪が確定した時点からです。
ただし、犯人であると確定しないとはいえ、逮捕されるとさまざまな自由が制限されることになります。
警察署の留置場に収容され、外出や連絡などは許されず、逮捕直後では家族との面会さえも認められません。
非常に強い効力をもつ手続きであるため、日本国憲法第33条では、一部の例外を除いて「権限を有する司法官憲が発し、かつ理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ逮捕されない」と定められています。
この「司法官憲が発する令状」が「逮捕状」です。
憲法でいう司法官憲とは裁判官を指すので、逮捕状とは「裁判官による逮捕の許可状」ということになります。 -
(2)逮捕状が発行されるまでの流れ
逮捕状が発行されるまでの一般的な流れは次のとおりです。
- ① 被害者からの届け出などで警察が事件を認知する
- ② 容疑者の特定や被害の裏付けなどの捜査が進められる
- ③ 警察が疎明資料をまとめて裁判官に逮捕状の発行を請求する
- ④ 逮捕の必要があると認められる場合は、裁判官が逮捕状を発行する
逮捕状の発行を請求できるのは、刑事訴訟法第199条2項の規定によって、検察官または警部以上の階級にある司法警察員に限られています。
ただし、現に罪を犯している最中や罪を犯した直後の現行犯であれば、一般の人であっても逮捕状なしで現行犯逮捕を行うことが可能です。
逮捕状の請求から発行までにかかる時間は、おおむね数時間程度です。
裁判所には令状請求を審査する裁判官が常駐しており、複数の請求で混雑しているなどの状況がなく請求内容に問題や疑問点がない場合には、逮捕状はかなり素早く発行されるものだと考えておきましょう。
ただし、逮捕状の発行には、容疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由と、逮捕によって身柄を拘束しなければ逃亡・証拠隠滅を図るおそれがあるという必要性を明らかにして示さなければなりません。
事件の内容が明白な場合には捜査にさほどの時間はかかりませんが、容疑者の特定に至る経緯が複雑であったり、外部の機関や公務所に照会して情報を得なければ犯罪を疎明するのが難しかったりすると、捜査に時間がかかることになります。
事件が発生した当日に逮捕状が請求・発行される場合もあれば、逮捕状請求までに数カ月あるいは1年以上の時間がかかる場合もあります。
2、逮捕に前兆はある? 実際に逮捕されてしまったあとの流れ
警察に逮捕されてしまうと、長期にわたって、一般社会から隔離されることになります。
もし逮捕の危険が迫っているなら、「家庭や仕事の都合があるので、事前に知らせてほしい」と希望する方もおられるでしょう。
以下では、逮捕状の発行や逮捕状の執行を事前に知ることができるかどうかについて解説します。
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(1)逮捕状の発行通知や逮捕状執行の前兆はない
逮捕状の請求を受けた裁判官が対象者に向けて「あなたに対する逮捕状の請求を受理した」「あなたに対する逮捕状を発行した」と通知する制度はありません。
また、逮捕状の発行を受けた警察が「明日、あなたを逮捕しに行く」と知らせてくることもないのです。
逮捕は、容疑者の逃亡や証拠隠滅を防ぐための手続きであるため、事前に通知すれば逃亡や証拠隠滅の危険を高めてしまうことになります。
逮捕状の発行通知や逮捕状執行の前兆もないので、罪を犯した以上は「いつ逮捕されてもおかしくない」という状態におかれるものだと考えましょう。 -
(2)逮捕状が発行されたあとの流れ
逮捕状の有効期限は7日間です。
7日間以内であれば基本的にはいつでも執行可能ですが、容疑者の行方がわからなくなったなど不測の事態に備えて、事件が判明した翌日には逮捕状執行に向けて捜査が動き出すことが一般的です。
警察官が逮捕状を示して、逮捕の理由となっている罪名、いつ・どこで・どのような罪を犯したのかという被疑事実の要旨などを読み上げたうえで「逮捕する」と告げれば、その時点で逮捕状が執行されたことになります。
逮捕状が執行されると、その瞬間から身柄拘束が始まるため、家族や会社に連絡を取ったり、警察署に行く前に用事を済ませたりすることは認められません。
ただちに警察署へと連行されて、警察の段階で48時間以内、送致されて検察官の段階で24時間以内、合計72時間以内の身柄拘束を受けることになります。
さらに、検察官の請求によって勾留が認められると10~20日間の身柄拘束を受けるので、逮捕から数えると最大23日間にわたる身柄拘束によって社会から隔離されてしまうことになるのです。
また、逮捕・勾留による身柄拘束が終わっても、検察官が起訴に踏み切ればさらに被告人としての勾留を受けるので、刑事裁判が終結するまで釈放されることはないのです。
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3、逮捕状の発行を阻止したい! 有効な対策とは?
逮捕状が発行されてしまえば、警察は当日中、遅くとも翌日から数日以内に、警察は逮捕に踏み切ります。
逮捕されると最大23日間にわたる身柄拘束を受けるので、身柄拘束による不利益を避けるためには「逮捕状が発行される事態を阻止すること」が大切です。
以下では、逮捕状の発行を阻止するための対策を開始します。
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(1)被害者との示談交渉による解決を図る
逮捕状が発行される事態を阻止できるもっとも有効な対策は「被害者との示談交渉」による解決を目指すことです。
示談とは、加害者と被害者が話し合い、お互いが条件を提示して和解を目指すことです。
加害者は罪を犯したことを真摯(しんし)に謝罪したうえで被害者に与えた損害や精神的苦痛に対する示談金を支払い、被害者はこれに応じる代わりとして被害届や刑事告訴を見送ったり、すでに提出済みなら取り下げたり、刑事処罰を求めない旨を捜査機関等に伝えたりすることになります。
示談が成立したという事実は、被害者による「加害者を厳しく罰してほしい」という意向がなくなったことを示すものとして評価されます。
被害者からの刑事告訴がなければ刑事裁判を提起できない「親告罪」の事件であれば取り下げによって事件が確実に終結するほか、親告罪にあたらない「非親告罪」の事件であっても、被害者の協力を得られなくなると捜査が続けられなくなり、事件が終結する可能性が高くなります。
したがって、警察が逮捕状の発行を請求するまでに被害者との示談が成立すれば、逮捕状の発行を阻止することが期待できるのです。 -
(2)警察に自首・任意出頭する
単に犯罪の容疑があるだけでは、逮捕は認められません。
逮捕には、容疑のほかにも「逃亡・証拠隠滅を防ぐには身柄を拘束しなければならない」ということが必要になります。
つまり、「逃亡や証拠隠滅を図るおそれがない」と判断されたら、罪を犯したのが事実であっても逮捕の要件は満たされないことになるのです。
逃亡・証拠隠滅を図るおそれを否定するために有効な方法が、警察が認知していない事件をみずから申告する「自首」や、すでに捜査中の事件についてみずから出頭する「任意出頭」です。
いずれの方法でも、みずから警察に出向いて罪を犯した事実を告げたうえで取り調べや証拠品の提出などの捜査には素直に応じる姿勢を示せば、逃亡や証拠隠滅を図るおそれを否定できる可能性が高まります。
ただし、この場合は警察にみずから「罪を犯した」と申告することになるので、捜査の対象となる事態は避けられません。
4、逮捕に不安を感じているなら弁護士に相談
刑事事件を起こしてしまうと、いつ逮捕されてしまうのかもわからない状況に陥ります。
長期にわたる身柄拘束を受けて社会から隔離されてしまえば、事件前の生活を取り戻すのは難しくなるため、逮捕を避けるための対策は欠かせません。
逮捕に不安を感じているなら、ひとりで悩むのではなく、弁護士に相談してください。
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(1)迅速な示談交渉による逮捕の回避が期待できる
罪を認めている事件であれば、逮捕を避けるうえで有効な手段となるのは、被害者との示談です。
ただし、犯罪被害者の多くは加害者に対して強い怒りや嫌悪といった感情を抱いており、加害者からの示談の申し入れを受けても快く応じてもらえるとは限りません。
また、示談に応じてもらえたとしても、過度に高額な示談金の支払いを要求されて、交渉が難航する事態も考えられます。
さらに、被害者が見ず知らずの相手である場合には氏名や連絡先がわからず、示談を申し込むこと自体ができないこともあるのです。
被害者との示談交渉を進めたいなら、弁護士に対応を依頼してください。
公平・中立な立場の弁護士が窓口となって交渉の場に立つことで、被害者の怒りや警戒心を和らげられて、安全な交渉を実現できる可能性が高まります。
また、弁護士は、同じような事件における示談金の相場も知り尽くしているので、過度に賠償金を支払わず適切な金額で示談を成立させることが期待できます。
さらに、被害者の氏名や連絡先がわからない場合でも、弁護士であれば警察や検察官にはたらきかけることができるため、情報を入手できる可能性があるのです。 -
(2)自首や任意出頭への同行を依頼できる
「罪を犯したことは事実なので捜査を受ける事態は仕方がないとしても、逮捕は避けたい」と望むなら、自首や任意出頭も選択肢として検討することになるでしょう。
ただし、自首には法律上の厳格な要件があるため、本人が「自首にあたる」と思っていても法律的には自首が成立しない、といった場合が多々あります。
また、全面的に捜査に協力する姿勢を示して任意出頭しても、警察が聞く耳をもたないまま逮捕に踏み切る、といった事態が起こる可能性もあるのです。
自首や任意出頭を考えているなら、ひとりで決断して行動に移すのではなく、まずは弁護士に相談してください。
弁護士に依頼すれば、警察署に同行してもらえます。
また、自首や任意出頭をするとすぐに事情聴取や取り調べが行われますが、この時点では任意の手続きであるため、いつでも自由に退席が認められます。
警察官からの質問で返答に迷うときや、暴言や暴行などの不当な扱いを受けた場合にも、弁護士が同行していれば、庁舎内に待機している弁護士に報告して対応を相談することができます。
5、まとめ
逮捕状が発行されると、ほとんど日をおかず、逮捕状執行のために警察官がやってきます。
そして、逮捕されると身柄を拘束されて、最大23日間にわたって社会生活から隔離されてしまうことになります。
そのため、逮捕状が発行されてしまう前に事件解決に向けた行動を起こすことが大切です。
刑事事件を起こしてしまい逮捕に不安を感じている方は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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