診断書を偽造したら逮捕される? 違法性と逮捕後の流れを解説

2024年04月30日
  • その他
  • 診断書
  • 偽造
診断書を偽造したら逮捕される? 違法性と逮捕後の流れを解説

病気や体調不良を理由に会社を休むことがあります。本当に病気や体調不良であれば問題ありませんが、会社にうそをついて休んでいる場合、会社から診断書を提出するよう求められると困ってしまう方もいるでしょう。そのような場合に、診断書を偽造しようと考える方もいるかもしれませんが、診断書の偽造は犯罪行為にあたりますので、絶対にしてはいけません。

本コラムでわかることは、大きく以下の3つです。
・診断書は医師のみが作成可能であり、偽造行為は違法にあたる
・診断書の偽造で問われる可能性のある罪
・診断書の偽造で逮捕される可能性や、会社から受けるペナルティー

今回は、診断書を偽造してしまった方に向けて、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスの弁護士が解説します。


刑事弁護・少年事件を北千住の弁護士に相談 刑事弁護・少年事件を北千住の弁護士に相談

1、診断書とは

診断書にはどのような効力や役割があるのでしょうか。以下では、診断書に関する基本的事項について説明します。

  1. (1)診断書の役割

    診断書とは、医師が作成して発行する公的な書類であり、症状についての所見、診断内容、治療内容などについて証明する書面のことです。診断書は、一般的に以下のような場面で必要になってきます。

    • 欠勤や休職をする場面
    • 精神疾患や障害によって業務内容の調整を依頼する場面
    • 公的な福祉制度を利用する場面
    • 労災保険や健康保険を利用する場面


    このように、診断書はさまざまな制度を利用する際に必要になってくる書面です。制度を利用することによって、特別な支援を受けることができるようになりますので、非常に重要な役割のある書面だといえます。

  2. (2)診断書の作成は医師のみが可能

    診断書は、上記のようにさまざまな場面で提出することになりますが、診断書を作成することができるのは、医師、歯科医師、獣医師のみに限られています(医師法19条2項、20条参照)。看護師や薬剤師などの医療従事者であっても診断書を作成することはできません。また、当然ですが一般の方では診断書を作成することはできません。

2、診断書を偽造する行為は違法?

診断書を偽造した場合には、どのような罪に問われるのでしょうか。

  1. (1)有印私文書偽造罪(有印私文書変造罪)

    医師でないにもかかわらず、医師の署名や印章を用いた診断書を作成した場合には、有印私文書偽造罪が成立します(刑法159条1項)。

    また、正式に発行された診断書であっても、その内容の非本質的部分に改変を加えた場合、有印私文書変造罪が成立します(刑法159条2項)。

    有印私文書偽造罪および有印私文書変造罪の成立には、「行使の目的」が要件とされています。そのため、偽造・変造した診断書を本物の診断書であるとして相手方に認識させまたは認識可能な状態に置く目的が必要になります。このような目的があれば、実際に偽造・変造した診断書を他人に行使したかどうかを問わず、犯罪が成立します。
    有印私文書偽造罪および有印私文書変造罪が成立した場合には、3月以上5年以下の懲役に処せられます。

    偽造・変造した診断書については、その記載内容や提出した本人の態度などから偽造や変造がばれることが多いでしょう。病院によって診断書の様式は異なりますが、他の労働者が提出した診断書と比べて不自然な点が見受けられる場合には、偽造や変造を疑われる可能性があります。また、提出者のSNSの投稿などから明らかにズル休みであるにもかかわらず、病気を理由とする診断書が提出された場合にも偽造や変造が疑われるでしょう。

  2. (2)偽造有印私文書行使罪

    偽造・変造をした診断書を会社に提出するなどして、文書の内容を相手方に認識させまたは認識可能な状態に置いた場合には、偽造有印私文書行使罪が成立します(刑法161条1項)。偽造有印私文書行使罪が成立した場合には、3月以上5年以下の懲役に処せられます。

  3. (3)詐欺罪

    偽造・変造をした診断書を会社に提出して、不正に賃金を受け取っていた場合や偽造・変造した診断書を保険会社に提出して不正に交通事故の保険金の支払いを受けた場合など、不正な金銭的利益を得ていた場合には詐欺罪が成立する可能性があります(刑法246条1項)。
    詐欺罪が成立した場合には、10年以下の懲役に処せられます。

3、診断書の偽造で逮捕される可能性はある?

診断書を偽造したことによって、逮捕される可能性はあるのでしょうか。

  1. (1)診断書の偽造によって逮捕される可能性

    診断書の偽造によって有印私文書偽造罪等が成立する場合であっても、すべてのケースで逮捕されるとは限りません。逮捕は、被疑者の身柄を拘束する重大な処分になることから、刑事訴訟法によって逮捕をすることができる要件が定められていますので、逮捕をするためには、法律上の要件に該当する場合に限られます。

    刑事訴訟法では、通常逮捕の要件として、以下の要件を定めています。

    • 罪を犯したと疑うに足りる相当な理由
    • 逃亡または証拠隠滅のおそれ


    逮捕をするかどうかにあたっては、犯罪の軽重も考慮されることになりますので、診断書を偽造して不正な金銭的利益を得ていたような場合には、比較的罪状も重いといえますので、逮捕される可能性が高くなります

  2. (2)刑事事件になった場合の流れ

    診断書の偽造に関して刑事事件になった場合の基本的な流れについて説明します。

    ① 身体拘束を受けた場合
    診断書の偽造によって逮捕された場合には、最大で72時間の身体拘束を受けることになります。その後、検察官が引き続き身体拘束の必要性があると判断すると、勾留請求を行います。裁判官が勾留を認めた場合には、10日間の身柄拘束となり、勾留延長が認められればさらに10日間身柄拘束を受けることになります。

    検察官は、勾留期間の満期までに被疑者を起訴するか不起訴にするかを判断することになります。不起訴処分となると、その時点で身柄が解放され、前科がつくこともありません。起訴されると、刑事裁判によって審理が行われ、その結果に応じた判決が言い渡されることになります。また、起訴された場合も、保釈されない限りは被告人としての勾留が続きます

    ② 在宅事件になった場合
    在宅事件の場合には、身体拘束を受けることはありませんので、普段通り生活を送ることができます。ただし、警察から取り調べのために出頭を求められた場合は、それに応じる必要があります。予定があるときは、出頭の日時を変更してもらうこともできますが、正当な理由なく出頭を拒んでいると逃亡や証拠隠滅のおそれがあるとみなされて逮捕される可能性もありますので注意が必要です。

    在宅事件は、身柄事件(身体拘束された場合)とは異なり、起訴または不起訴処分が出るまでの時間的な制約はありませんので、捜査が長引くケースでは処分が決まるまで1年以上もかかる場合もあります

  3. (3)刑事事件になりそうな場合には早めに弁護士に相談を

    刑事事件になってしまった場合には、身柄事件であるか在宅事件であるかを問わず、早めに弁護士に相談をすることをおすすめします。多くの方が刑事事件の当事者になるというのは初めての経験になりますので、警察から取り調べを受けたとしてもどのように対応すればよいかわからないはずです。

    警察での取り調べでは調書が作成されますが、対応がわからなければ、不利な内容の調書であるにもかかわらず、それに気付かずに署名してしまうかもしれません。作成された調書については、裁判の証拠になりますが、後日その内容を撤回することは困難ですので取り調べには慎重な対応が必要になります

    弁護士であれば、取り調べの対応や心構えなどについてアドバイスをすることができますので、安心して臨むことができるといえるでしょう。

4、刑事罰に問われなくても会社からペナルティーを受ける可能性が高い

会社に対して偽造した診断書を提出してしまった場合には、刑事罰に問われなかったとしても、会社からペナルティーを受ける可能性があります

虚偽の診断書を提出するという行為は、犯罪行為に該当しますので、就業規則上の懲戒事由に該当すると考えられます。懲戒処分としては、けん責、戒告、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇といった種類がありますが、どのような処分が下されるかは、行為の内容との関係で決められることになるでしょう。

偽造した診断書を1回提出した場合、直ちに懲戒解雇にはならないことも考えられますが、偽装した診断書を複数回提出して、会社から不正な賃金の支払いを受けていたような場合には、懲戒解雇となる可能性もあります。

弁護士に相談をすれば、刑事事件の対応だけでなく、会社との労働問題に関する対応も任せることができます。ひとりで対応することが不安だという方は、まずは弁護士に相談をするとよいでしょう。

5、まとめ

安易な気持ちから診断書偽造を行ってしまうことがあるかもしれませんが、診断書の偽造は、有印私文書偽造罪、同行使罪、詐欺罪などの犯罪が成立する可能性がある行為です。また、偽造診断書を会社に提出すると会社から懲戒処分を受ける可能性もあります。

このように診断書の偽造は、大きなリスクを伴う行為ですので、絶対に行ってはいけません。仮に、診断書の偽造をしてしまったという場合には、早めに弁護士に相談をすることをおすすめします。診断書の偽造によって刑事事件の当事者となってしまったという方は、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています