標準報酬月額に残業代は含むのか? 随時改定や注意点を弁護士が解説
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2022年度に東京都内の労働基準監督署が監督指導を行った4673事業場のうち、賃金不払残業があったものは476事業場でした。
従業員に対し適切に賃金を支払っているつもりでも、思わぬ不払いが発覚することがあります。たとえば、健康保険料・厚生年金保険料の基準となる「標準報酬月額」は、残業代が増えると増額されることがあるので注意が必要です。人事・労務担当者は、標準報酬月額に関する正しい取り扱いを理解しておきましょう。
本記事では、標準報酬月額と残業代の関係性などをベリーベスト法律事務所 北千住オフィスの弁護士が解説します。
出典:「長時間労働が疑われる事業場に対する令和4年度の監督指導結果を公表します」(東京労働局)
1、標準報酬月額とは?
標準報酬月額とは、健康保険料・厚生年金保険料の基準となる報酬額です。資格取得時の決定・定時決定・随時改定という3種類の方法によって決まります。
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(1)標準報酬月額は健康保険料・厚生年金保険料の基準となる
健康保険および厚生年金保険の保険料額は、標準報酬月額に応じて決まります。
標準報酬月額は、被保険者の給与収入額を基準とした切りのよい数字です。2023年12月時点において、健康保険については50等級、厚生年金保険については32等級に標準報酬月額が区分されています。
たとえば月額賃金が30万5000円の場合、標準報酬月額は30万円です。東京都ではこの場合、健康保険料および厚生年金保険料は以下の金額となります。- 健康保険料:3万円(22等級)
※介護保険第2号被保険者(40歳以上64歳未満)の場合は3万5460円 - 厚生年金保険料:5万4900円(19等級)
- 健康保険料:3万円(22等級)
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(2)標準報酬月額の決定方法・決定時期
標準報酬月額は、以下のいずれかの方法によって決まります。
① 資格取得時の決定(健康保険法第42条、厚生年金保険法第22条)
新たに被保険者の資格を取得した際には、以下の方法によって標準報酬月額が決まります。
- (a)月給・週給など一定の期間によって定められている報酬については、その報酬の額を月額に換算した額
- (b)日給・時間給・出来高給・請負給などの報酬については、その事業所で前月に同じような業務に従事し、同じような報酬を受けた人の報酬の平均額
- (c)(a)または(b)の方法で計算することのできないときは、資格取得の月前1か月間に同じ地方で同じような業務に従事し、同じような報酬を受けた人の報酬の額
- (d)(a)~(c)のうち2つ以上に該当する報酬を受けている場合には、それぞれの方法により算定した額の合計額
② 定時決定(健康保険法第41条、厚生年金保険法第21条)
標準報酬月額は、4月から6月までに支払われた賃金の1か月当たりの平均額を基準に毎年改定されます。
定時決定がなされた標準報酬月額は、9月分から健康保険料・厚生年金保険料に反映されます。
③ 随時改定(健康保険法第43条、厚生年金保険法第23条)
以下の3つの要件をすべて満たす場合には、定時決定を待たずに標準報酬月額が改定されます。
- (a)昇給または降給等により固定的賃金に変動があった
- (b)変動月からの3か月間に支給された報酬(残業手当等の非固定的賃金を含む)の平均月額に該当する標準報酬月額と、これまでの標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じた
- (c)3か月とも支払基礎日数(=日給制・時給制の場合は出勤日数、月給制・週給制の場合は暦日数)が17日(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日)以上である
2、残業代も標準報酬月額に反映される
労務の対価である金銭的価値は、そのほとんどが標準報酬月額に反映されます。残業代も、標準報酬月額の算定の基礎に含まれます。
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(1)標準報酬月額に反映されるもの|残業代も対象
標準報酬月額に反映されるのは、以下の賃金等です。残業代は、非固定的賃金として標準報酬月額に反映されます。
① 固定的賃金
支給額や支給率が決まっている賃金です。
(例)
- 基本給
- 役職手当
- 家族手当
- 住宅手当
- 通勤手当
② 非固定的賃金
支給額や支給率が決まっておらず、勤務状況などに応じて変動する賃金です。
(例)
- 残業代
- 歩合給
- 能率手当
- 宿日直手当
- 精皆勤手当
- 育児・介護休業手当
③ 年4回以上支給される賞与
年4回以上支給される賞与は、定期収入として標準報酬月額に反映されます。
(例)
- 決算手当
- 期末手当
④ 定期的に交付される現物支給品
現物支給品のうち定期的に交付されるものは、その価値を通貨に換算した上で標準報酬月額に反映します。
(例)
- 食券
- 住宅
- 被服
- 通勤定期券、回数券
- 自社製品
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(2)標準報酬月額に反映されないもの
会社が労働者に支給する金品であっても、以下のものは標準報酬月額に反映されません。
① 労務の対価でないもの
労務の対価ではない金品は、標準報酬月額に反映されません。
(例)
- 祝い金
- 見舞金
- 慶弔金
- 年金
- 恩給
- 健康保険の傷病手当金
- 労災保険の休業補償給付
② 臨時に受ける賃金
臨時に受ける賃金は定期収入に当たらないため、標準報酬月額に反映されません。
(例)
- 出張手当
- 出張旅費
- 大入り袋
- 年3回以下の賞与
③ 一定の要件を満たす現物支給品
現物支給品のうち、以下のものは標準報酬月額に反映されません。
- 食事や住宅で、本人からの徴収額が一定以上のもの
- 貸与される制服、作業衣
- 見舞品、記念品
3、標準報酬月額と残業代に関する注意点
会社における人事・労務管理に当たっては、標準報酬月額と残業代の関係性について、以下の事項に留意しておきましょう。
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(1)4~6月の残業代が増加すると、標準報酬月額が上がる
毎年行われる定時改定の際には、4月から6月までに支払われた賃金額が参照されます。
したがって、4月から6月までに多くの残業をし、残業代の金額が増えた労働者については、標準報酬月額が上がる可能性が高いです。 -
(2)残業代の支給割合を変更する場合は、随時改定の対象になり得る
標準報酬月額の随時改定は、昇給または降給等により固定的賃金に変動があった場合に行われます。
この点、時間数に応じて変動する残業代の金額は毎月不確定です。したがって、残業時間の増減によって変動したにすぎない場合は「固定的賃金に変動があった場合」に当たらず、随時改定の対象にはなりません。
しかし、残業代の支給割合が変更された場合には、随時改定の対象となります。
参考:「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集 随時改定について 問2」(日本年金機構)
労働者の待遇を向上させるため、就業規則において残業代の支給割合を変更する場合は、併せて標準報酬月額の随時改定が必要となり得る点に留意しましょう。
なお、労働基準法における経過措置の撤廃により、2023年4月以降は中小企業においても、月60時間を超える時間外労働に対して50%以上の割増賃金の支払いが義務付けられました。
従来は25%以上の割増賃金の支払いで足りるとされていたところ、上記の経過措置の撤廃に伴い、多くの中小企業において残業代の割増率の引き上げが行われています。
労働基準法における経過措置の撤廃に伴う割増率の引き上げについても、上記の考え方にしたがい、随時改定の対象になることがあります。前述の随時改定の3つの要件を満たす場合には、日本年金機構に対して随時改定の届出を行いましょう。
4、人事・労務管理に関する疑問点は弁護士へ相談を
労働者の給与や社会保険料の計算については、法律上のルールが複雑になっています。人事・労務管理に関する経験が十分でない場合は、正確に計算することは困難なケースが多いです。
弁護士は、法律上のルールを踏まえた上で、給与や社会保険料の計算方法について正確にアドバイスいたします。正しく給与や社会保険料を計算することは、労働者とのトラブルの予防にもつながります。
弁護士と顧問契約を締結すれば、人事・労務管理に関する疑問点をいつでも相談可能です。特に中小企業において、人事・労務管理に関するオペレーションに不安な点がある場合は、お早めに弁護士までご相談ください。
5、まとめ
健康保険料と厚生年金保険料の基礎となる標準報酬月額には、残業代の金額も反映されます。残業代の標準報酬月額への反映は、原則として定時決定の際に行われます。ただし、期中に残業代の支給割合を変更した場合には、随時改定の対象となることがあるのでご注意ください。
ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスでは、人事・労務管理に関する企業のご相談を随時受け付けております。また、顧問契約を締結すれば、その他の法律問題を含めていつでもご相談が可能です。
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