労働者から不当解雇で訴えられた! 会社がとるべき対応とは
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東京都では、労働相談情報センターで労働者および使用者からの労働問題の相談を受け付けています。令和3年4月から令和4年3月までの1年間の相談件数は、4万5504件でした。そのうち解雇に関する相談は4693項目あり、全体で4番目に多い数字になっています。
会社が問題のある労働者を解雇したところ、後日、不当解雇だとして労働者から訴えられるケースは少なくありません。労働者を解雇する場合には、常に不当解雇のリスクが生じますが、解雇の要件や不当解雇にあたるケースなどを理解しておくことによって、労務リスクを減らすことが可能です。
今回は、不当解雇にあたるケースや労働者から不当解雇で訴えられた場合の対応などについて、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスの弁護士が解説します。
1、不当解雇とは? 解雇のリスク
そもそも不当解雇とはどのようなものなのでしょうか。以下では、不当解雇の概要と解雇のリスクについて説明します。
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(1)不当解雇とは
不当解雇とは、労働基準法や労働契約法が定める解雇の要件を満たすことなく、会社側の一方的な都合で労働者との労働契約を解除することをいいます。
解雇は、労働者にとっては、生活の基盤を失うほどの重大な処分になりますので、労働者保護の観点から法律上、解雇にあたっては厳格なルールが定められています。これらのルールを満たさずに労働者を解雇してしまうと、不当解雇を理由に労働者から訴えられてしまうおそれがありますので注意が必要です。 -
(2)労働者を解雇する際のリスクとは
労働者を解雇し、それが不当解雇と判断されてしまうと、以下のようなリスクが生じます。
① 職場への復職
解雇が不当解雇と判断された場合には、解雇は無効となります。解雇が無効になると会社と労働者との間の労働契約は、当初から有効に存在していたことになりますので、労働者に職場への復帰を認めなければなりません。
職場への復帰を認める際には、原則として、従前と同様の条件での職場復帰を認めなければなりません。不当解雇の争いをしたからといって、賃金を減額したり、一方的に降格するなどの処分は認められません。
② バックペイ
バックペイとは、会社都合で働けなかった期間に支払われなかった賃金相当額の支払いを意味します。不当解雇が認められると解雇は無効となりますので、労働者は、働きたくても働くことができない状態となります。このように会社都合で働くことができなかった期間については、実際に労務を提供していなかったとしてもその期間の賃金を請求することができます。
そのため不当解雇が認められると、会社は労働者に対して賃金の支払いをしなければなりません。
③ 慰謝料の発生
不当解雇の事案では、職場復帰およびバックペイが認められれば、労働者の損害は回復されたと考えられますので、それに加えて慰謝料が発生するケースはまれです。
しかし、不当解雇によって、労働者に著しい精神的苦痛が生じるようなケースについては、慰謝料の支払いが命じられることもあります。
2、不当解雇にあたるケース
以下では、不当解雇にあたる可能性のあるケースを紹介します。
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(1)十分な指導をせずに能力不足を理由に解雇したケース
労働者の能力不足は会社が労働者を解雇する際の理由の一つになりますが、実際に能力不足を理由とする解雇が有効と認められるケースは多くはありません。それは、能力不足を理由に解雇するためには、労働者の労力不足が雇用の継続を期待し難いほど重大な程度に至っていることが必要とされているからです。
労働者の指導・教育を行うのは、会社の責任ですので、十分な指導・教育をすることなく解雇を命じれば不当解雇になる可能性があります。また、労働者の能力に問題がある場合であっても、別の部署に配置転換することで能力を発揮できる可能性もあります。そのような場合においても、解雇を回避する措置をとらずに直ちに解雇すると不当解雇になる可能性があります。 -
(2)人員削減の必要性が乏しいにもかかわらず整理解雇したケース
会社の経営状態の悪化などによりやむを得ずに行われる解雇を「整理解雇」といいます。整理解雇は、他の解雇とは異なり、会社側の一方的な都合によって行われるものですので、解雇の要件は、より厳格に判断されます。
整理解雇の有効性は、以下の4つの要素を総合的に判断して決められます。- 人員削減の必要性
- 解雇回避努力の有無
- 解雇対象者の選定の合理性
- 解雇手続きの妥当性
人員削減が必要という理由で整理解雇を行ったにもかかわらず、同時に新規採用の募集を行っているようなケースでは、人員削減の必要性があったとはいえず、不当解雇と判断される可能性があります。
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(3)軽微な非違行為にもかかわらず懲戒解雇したケース
労働者の秩序違反や非違行為を理由に解雇することを「懲戒解雇」といいます。懲戒解雇は、懲戒処分として行われる処分の1つであり、もっとも重い処分となります。
懲戒処分では、労働者の行為が就業規則に規定されている懲戒事由に該当するかという判断だけでなく、非違行為と比較して選択した処分が相当であるかどうかも重要となります。軽微な非違行為であるにもかかわらず、懲戒解雇という重い処分を選択してしまうと、不当解雇にあたる可能性が高いです。
3、労働者から不当解雇を主張された場合の対応
労働者から不当解雇を主張された場合には、以下の対応が必要になります。
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(1)労働者との話し合い
解雇をした労働者から不当解雇である旨の主張がでた場合には、まずは労働者との話し合いを行います。会社には労働者を解雇するに至った理由や経緯があるはずですので、解雇の理由をしっかりと説明し、労働者の納得を得るように努めるようにしましょう。
また、労働者から解雇理由証明書の請求があった場合には、解雇理由を漏れなく記載して、交付することも大切です。解雇理由証明書に解雇理由が書けないようなケースでは、不当解雇となる可能性が高いため注意が必要です。 -
(2)労働審判
労働者が会社との話し合いで納得できない場合には、裁判所に労働審判の申し立てを行うことがあります。
労働審判の申し立てがなされた場合には、裁判所からその旨の書面が届きます。書面が届いたら、中身を確認し、労働者がどのような理由で不当解雇を訴えているのかを把握します。労働者の主張に反論がある場合には、答弁書を作成し、会社側の主張を裏付ける証拠とともに裁判所に提出します。
労働審判では、当事者双方から事情が聞かれ、話し合いでの解決が模索されます。一定の解決金の支払いによる解決の合意ができた場合には、調停成立によって手続きは終了となります。合意に至らず調停不成立になった場合には、審判が下されます。
審判に不服がある場合には、2週間以内であれば異議の申し立てをすることで、審判は無効となり訴訟手続きに移行します。 -
(3)訴訟
労働審判に対する異議申し立てがあった場合または労働者から訴訟提起があった場合には、裁判によって解雇の有効性が判断されます。
裁判は、話し合いの手続きではなく、当事者からの主張立証に基づいて、裁判官が判決により解雇の有効性を判断する手続きです。そのため、会社側に有利な主張を認定してもらうためには、法的根拠に基づいて説得的な主張を展開するとともに、主張を裏付ける証拠の提出が不可欠となります。
訴訟手続きは、非常に専門的かつ複雑な手続きですので、専門家である弁護士に依頼して進めていくようにしましょう。
4、労働者とのトラブルを弁護士に相談するべき理由
以下のような理由から労働者とのトラブルは弁護士に相談することをおすすめします。
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(1)不当解雇のリスクを減らすことができる
不当解雇を理由に労働者から訴えられてしまうと、それに対応するために時間と手間を割かなければなりません。万が一、不当解雇であると認められてしまえば、バックペイなどの金銭的負担も生じてしまいます。このように不当解雇の争いが生じることは、会社にとって大きなダメージとなりますので、事前に回避することが重要となります。
労働者を解雇する前に弁護士に相談することで、解雇の有効性や解雇する際に必要になる手続きなどをアドバイスしてもらうことができますので、不当解雇のトラブルが生じるリスクを軽減することができます。 -
(2)解雇した労働者の対応を任せることができる
労働者から不当解雇の訴えがなされた場合には、まずは、労働者との話し合いによる解決を目指すことになります。しかし、当事者同士の話し合いでは、感情的な物言いになってしまうこともあり、それにより交渉が決裂してしまうこともあります。
弁護士に依頼をすれば、会社の代理人として労働者との対応をしてもらうことができます。弁護士であれば法的根拠に基づいて冷静に労働者の対応が可能ですので、解雇の有効性を労働者に納得してもらえる可能性が高くなります。
万が一、話し合いで解決できない場合でも弁護士が引き続き労働審判や不当解雇訴訟の対応もしてくれますので、安心して任せることができます。
5、まとめ
労働者から不当解雇を訴えがなされると、会社にはさまざまなリスクが生じます。そのようなリスクを回避するためには、顧問弁護士を利用するなどして不当解雇のリスクを軽減することが大切です。
また、すでに労働者との間で解雇トラブルが生じている場合には、弁護士に対応を依頼することでスムーズに解決できる可能性があります。また、これから解雇しようという場面でご相談を頂ければ、より適切な方法で労働者に退職勧奨をすることにより、リスク回避を行える可能性も高いです。
労働者の解雇や労務トラブルでお困りの企業は、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスまでお気軽にご相談ください。
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