配置に基準はある? 違法にならないよう対処するための注意点

2023年05月18日
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配置に基準はある? 違法にならないよう対処するための注意点

2021年度に東京都内の総合労働相談コーナーに寄せられた相談のうち、出向・配置転換に関するものは1088件でした。

会社が行う労働者の配置転換は、労働契約上の根拠がない場合または濫用に当たる場合は違法・無効となります。労働者側とのトラブルを避けるためにも、適法性の判断が難しい配置転換を行う際には、事前に弁護士へご相談ください。

今回は労働者の配置転換について、適法・違法の判断基準や過去の裁判例などを、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスの弁護士が解説します。

(出典:「個別労働紛争の解決制度等に関する令和3年度の施行状況について」(東京労働局))

1、配置転換とは

「配置転換」とは、労働者の職務内容・所属部署・勤務地などが相当長期間にわたって変更されることをいいます。

  1. (1)配置転換の具体例

    配置転換は、会社の状況に応じてさまざまな目的で行われます。たとえば、以下のような目的で配置転換が行われるケースがよく見られます。

    ① 労働力の偏りを解消するための配置転換
    人員の余っている部署から、慢性的な人員不足に陥っている部署へ配置転換を行い、労働力の偏りの解消を試みます。

    ② 多様な職務を経験させるための配置転換
    将来的に会社の要職を担ってもらうため、多様な職務を経験させる目的でジョブローテーションを行います。総合職の労働者が主な対象となります。

    ③ 伸び悩む従業員に刺激を与えるための配置転換
    現在の部署で仕事のやり方や自らの成長度合いなどに悩んでいる労働者について、視野を広げさせて刺激を与えるために配置転換を行います。

    ④ 適材適所化を目的とする配置転換
    能力や性格が現在の業務に向いていないと思われる労働者を、適性があると思われる部署に配置転換して、適材適所の人員配置を図ります。

    ⑤ ハラスメントの当事者を引き離すための配置転換
    セクハラやパワハラの加害者と被害者を引き離すため、いずれか一方を他部署に配置転換します。
  2. (2)配置転換と出向・転籍の違い

    配置転換は、同じく人事異動である「出向」や「転籍」と比較されることがあります。

    配置転換・出向・転籍は、以下のように区別されます。

    ① 配置転換
    従業員の配置の変更で、職務内容または勤務地が相当の長期間にわたって変更されることをいいます。会社と労働者の間の契約関係に変化はありません。労働契約上の根拠があり、かつ濫用に当たらない場合には、労働者の同意がなくても配置転換を行うことができます。

    ② 出向
    会社との雇用契約を維持しながら、相当長期間にわたって職場を別の会社へと移す人事異動です
    労働協約において出向があり得る旨が定められており、出向者の利益に配慮したルールや取り扱いが設けられていれば、労働者の同意がなくても出向を命ずることができます(最高裁平成15年4月18日判決参照)。

    ③ 転籍
    現在勤めている会社との雇用契約を終了させ、新たに別の会社と雇用契約を締結させる人事異動です
    労働者を転籍させるには、当該労働者の個別同意が必須となります。

2、配置転換の有効性の判断基準

配置転換については、会社の裁量が比較的広く認められているものの、常に認められるわけではありません。配置転換が認められるのは労働契約上の根拠があるものに限られるほか、労働契約上の根拠があっても、濫用的な配置転換は違法・無効となります。

  1. (1)配置転換が認められるのは、労働契約上の根拠がある場合のみ

    配置転換が認められるのは、労働契約上の根拠がある場合に限られます

    「正社員」の場合、人事権の範囲が特に制限されておらず、「業務上の必要性がある場合、配置転換を命じることがある」などの広く配置転換を認める内容が定められていることが多いです。このような取り扱いには、終身雇用を前提とした「総合職」採用の考え方が色濃く反映されています。

    これに対して、近年では働き方が多様化し、勤務地・職務・勤務時間を限定した雇用契約を締結する従業員が増えています(「限定正社員」または「多様な正社員」)。
    (参考:「勤務地などを限定した「多様な正社員」の円滑な導入・運用に向けて」(厚生労働省))

    限定正社員(多様な正社員)について、雇用契約上の限定に反する配置転換がなされた場合には、その配置転換命令は無効となります。

    また、正社員と同様に、契約社員やパートなどの非正規社員についても、労働契約上の根拠がない場合には無効になります。たとえば、転勤がないことを条件として雇用契約を締結している非正規社員に、転勤を伴う配置転換を命ずるケースは無効となります。

  2. (2)濫用的な配置転換は、労働契約上の根拠があっても無効

    労働契約上の根拠があっても、その人事権の行使が権利の濫用に当たる場合は、その配置転換は無効になると解されています

    配置転換が権利の濫用として無効になり得るのは、たとえば以下のようなケースです。

    • 配置転換を行う業務上の必要性がない場合
    • 配置転換が不当な動機や目的に基づく場合(個人的な嫌がらせ、退職強要など)
    • 配置転換によって、労働者が通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負う場合


    配置転換が人事権の濫用に該当するかどうかは、その配置転換が行われた目的や背景事情などを基に、総合的な観点から判断されます。

3、配置転換が無効とされた裁判例・有効とされた裁判例を紹介

配置転換命令(転勤命令、異動命令)が無効とされた裁判例と、有効とされた裁判例をそれぞれ紹介します。

  1. (1)配置転換が無効とされた裁判例

    ① 大阪高裁平成18年4月14日判決
    精神障害を患う妻と、高齢の母を介護する労働者に対して、会社が遠方への転居を伴う配置転換を命じた事案です。
    大阪高裁は、当該配置転換命令は労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものと認定し、人事権の濫用として無効と判示しました。

    ② 札幌高裁平成21年3月26日判決
    障害を持つ両親を、妻・妹らとともに介護していた労働者に対して、遠方への転居を伴う配置転換を命じた事案です。
    札幌高裁は、配置転換について業務上の必要性を肯定しつつ、その一方で、当該配置転換命令は労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものと認定し、人事権の濫用として無効と判示しました。
  2. (2)配置転換が有効とされた裁判例

    ① 最高裁平成11年9月17日判決
    転居を伴う配置転換によって、同じ会社で共働きの妻と3人の子どもと別居せざるを得なくなった労働者が、会社に対して転勤命令無効確認と損害賠償を請求した事案です。

    原判決は、転勤命令の業務上の必要性を肯定する一方で、以下の事情などを挙げ、転勤命令を適法と判示しました。
    • 転勤すべき時期がすでに到来していたこと
    • 転勤先が元の住居地域から新幹線で2時間程度の位置にあること
    • 家族用社宅ないし単身赴任用住宅を提供すること、従前の例にこだわらず別居手当を支給すること、持ち家の管理運用を申し出るなど、会社は単身赴任と家族帯同赴任のいずれに対しても、一応の措置をしたこと

    最高裁は原判決を支持し、労働者側の上告を棄却しました。

    ② 最高裁平成12年1月28日判決
    通勤に片道1時間45分程度を要する事業所への転勤命令を拒否して欠勤を続けた労働者が、無断欠勤を理由とする、会社の懲戒解雇処分の無効を訴えた事案です。
    労働者側は、子どもの保育園への送迎に支障が生じることを主張しました。

    しかし最高裁は、他にも同程度以上の通勤時間を要する従業員が多数存在することや、転居を希望すれば入居可能な住居が多数存在することなどを指摘しました。
    そのうえで、労働者側の不利益は必ずしも小さくないものの、通常甘受すべき程度を著しく超えるとまではいえないとして、転勤命令は人事権の濫用に該当しないと判示し、労働者側の上告を棄却しました。

4、労働者とのトラブルは弁護士にご相談を

会社が労務管理を行うに当たっては、労働法令に基づくさまざまなルールを順守しなければなりません。会社がルール違反を犯した場合、労働者側から責任追及を受け、時間的・経済的に大きなダメージを受けるおそれがあるので要注意です

労働者を配置転換する際にも、法令・裁判例に基づく注意点が多くあります。労働者とのトラブルや、コンプライアンス違反によるレピュテーションの毀損などを防ぐためには、事前に弁護士へ相談するのが安心です。

また、実際に労働者とトラブルになってしまった場合には、速やかに弁護士へ相談することをおすすめいたします。弁護士は、協議・労働審判・訴訟などの各手続きを通じて、労使紛争の早期・円滑な解決に向けて尽力することが可能です。

人事労務に関するトラブルの予防策・対処法について、会社として万全を期すためにも、まずは弁護士にご相談ください。

5、まとめ

労働者の配置転換は、労働契約上の根拠がない場合や、労働者が被る不利益が通常甘受すべき程度を著しく超える場合などには無効となります。安易に配置転換を行うと、労働者との間でトラブルに発展する可能性があるので、事前に弁護士へご相談いただくのが安心です。

ベリーベスト法律事務所は、人事労務に関する企業からのご相談を随時受け付けております。残業代・懲戒処分・人事異動・ハラスメントなど、労働者との間で問題になりやすい論点について、会社の状況に合わせた具体的なアドバイスを行い、労使紛争のリスクを抑えられるようにサポートいたします。

人事労務について、いつでも相談できる弁護士をお探しの企業経営者・担当者の方は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。

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