就業規則がないことによる企業側のリスク|作成時の注意点を解説

2022年12月26日
  • 労働問題
  • 就業規則ない
就業規則がないことによる企業側のリスク|作成時の注意点を解説

労働基準法では、一定の要件を満たす会社に対して、就業規則の作成とその届け出を義務付けています。反対にいえば、一定の要件を満たしていない会社では、就業規則を作成するかどうかは自由であり、就業規則を作成しないことも可能です。

しかし、就業規則を作成しないことによる、リスクやデメリットもありますので、就業規則を作成するかどうかは慎重に判断することが大切です。

今回は、就業規則がないことによる企業側のリスクについて、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスの弁護士が解説します。

1、就業規則がないことは違法か?

就業規則は、必ず作成しなければならないものなのでしょうか。

  1. (1)就業規則がなくても必ずしも違法ではない

    就業規則というと会社が必ず作成しなければならないものだと考える方も少なくありません。しかし、労働基準法では、一定の要件を満たす会社に対してのみ、就業規則の作成と届け出が義務付けられています。そのため、以下に述べるような就業規則の作成が必要なケースに該当しなければ、就業規則の作成義務はありません。

    就業規則の作成義務がないということは、就業規則を作成しなくてもよいですし、作成したとしても問題はありません。なお、就業規則の作成義務があるにもかかわらず、その作成および届け出をしなかった場合には、会社に対して30万円以下の罰金が科されます(労働基準法120条1号、89条)。

  2. (2)就業規則の作成が必要なケースとは

    労働基準法では、常時10人以上の労働者を会社が使用する場合に、就業規則の作成および行政官庁への届け出義務を課しています(労働基準法89条)。以下では、この要件の詳しい内容について説明します。

    ① 常時雇用される労働者とは
    常時雇用される労働者とは、常態として雇用されている労働者のことをいいます。一時的に労働者の人数が10人未満となることがあっても、通常は10人以上の労働者を雇用しているという場合には、常時雇用されている人数は10人以上とカウントします。

    また、労働者には、期間の定めなく働いている正社員だけではなく、パートタイマーや契約社員といった非正規社員についても含まれます。これらの非正社員も、労働基準法上の「労働者」であることに変わりがないからです。ただし、派遣社員については、派遣会社(派遣元)の雇用になりますので、派遣先の労働者の人数にはカウントしません。

    ② 10人以上は事業所ごとでカウントする
    就業規則の作成義務を判断する労働者の人数は、企業全体の労働者数ではなく、1事業場あたりの労働者の数を基準にカウントをします。すなわち、複数の事業場を有する企業では、常時雇用される労働者が10人以上であるかどうかは、事業場ごとに判断しなければなりません。

    そのため、同じ会社であっても、A事業場については就業規則の届け出が必要であるものの、B事業場では就業規則の届け出が不要になるというケースもあり得ます。

2、就業規則がない場合のリスクとデメリット

常時雇用される労働者が10人未満であれば、就業規則を作成しなくても法律上違法とはなりません。しかし、就業規則を作成しないことによって以下のようなリスクやデメリットがありますので、就業規則を作成する義務のない事業場においても、就業規則は作成するのが望ましいといえるでしょう。

  1. (1)懲戒処分を行うことができない

    会社は、労働者が企業秩序違反となる行為をした場合には、それに対して懲戒処分をすることができます。しかし、懲戒処分をする場合には、あらかじめ就業規則にどのような事由があった場合に、どのような懲戒処分をするのかを定めておくことが必要です(労働基準法89条9号)。

    就業規則がない場合には、懲戒処分をするための客観的な根拠がなくなってしまいますので、労働者に企業秩序違反行為があったとしても、懲戒処分をすることができなくなります。

  2. (2)労務管理が負担になる

    就業規則の内容は、会社と労働者との間の労働契約内容になります。そのため、就業規則を作成しておけば、労働者の労働条件を画一的かつ統一的に処理することができますので、労務管理をしやすくなるというメリットがあります。

    就業規則がない場合には、会社と労働者との労働条件は、個別の労働契約によって定めなければなりませんが、個々の労働者ごとに適用される労働条件が異なると、労務管理が負担になるといったデメリットが生じます

  3. (3)労使間でのトラブルの原因となる

    就業規則には、会社の基本的なルールである服務規律が定められるのが一般的です。服務規律の例としては、営業秘密や個人情報の扱い、セクハラ・パワハラの禁止、副業の禁止などが挙げられますが、このような基本的ルールが定められていないとルールを理解していない労働者との間でトラブルが生じる可能性があります

    会社と労働者との間で、基本的なルールについての共通認識を持つためにも、就業規則は不可欠なものといえます。

  4. (4)助成金を利用することができない場合がある

    企業が利用することができる助成金にはさまざまなものがありますが、助成金のなかには、就業規則の整備が支給要件になっているものもあります。そのため、就業規則を作成していない場合には、助成金を活用することができないケースもあるでしょう。

3、就業規則作成におけるポイントと注意点

就業規則を作成する場合には、以下の点に注意が必要です。

  1. (1)就業規則の記載事項

    就業規則には、必ず記載が必要になる「絶対的必要記載事項」、定めをおく場合に記載が必要になる「相対的必要記載事項」、記載するかどうかは任意である「任意的記載事項」の3種類があります。

    ① 絶対的必要記載事項
    絶対的必要記載事項は、就業規則に必ず記載しなければならない事項ですので(労働基準法89条1号~3号)、そのうちのひとつでも欠いた場合には、30万円以下の罰金が科されることになります。絶対的必要記載事項にあたるものとしては、以下のものが挙げられます。

    • 始業および就業の時刻、休憩時間、休日、休暇
    • 賃金の決定、計算および支払い方法、賃金の締め切りおよび支払い時期、昇給に関する事項
    • 退職に関する事項


    ② 相対的必要記載事項
    会社で、以下のような制度を設ける場合には、その内容を就業規則に記載する必要があります(労働基準法89条3号の2~10号)。

    • 退職手当に関する事項
    • 臨時の賃金等、最低賃金額に関する事項
    • 労働者の食費、作業用品その他に関する事項
    • 安全および衛生に関する事項
    • 職業訓練に関する事項
    • 災害補償や業務外の傷病扶助に関する事項
    • 表彰、制裁の種類および程度に関する事項
    • その事業所の労働者のすべてに適用される事項


    ③ 任意的記載事項
    上記以外の事項については、就業規則に定めるかどうかは会社が自由に決めることができます。たとえば、服務規律、制定趣旨、企業理念、用語の定義などが就業規則の任意的記載事項にあたります。

  2. (2)従業員に対する周知が必要

    作成および届け出をした就業規則については、従業員に対して周知しなければなりません(労働基準法106条1項)。周知の対象となるのは、正社員だけでなくパートタイムやアルバイトなども含むすべての労働者です。周知する方法としては、以下の3つの方法があります。

    • 事業所の見やすい場所への掲示または備え付け
    • 労働者への書面の交付
    • パソコンなどにデジタルデータとして記録し、いつでもアクセスできる状態にする


    従業員への周知が不十分であった場合には、30万円以下の罰金が科されるだけでなく(労働基準法120条1号)、就業規則が無効となり、会社に有利な規定を適用することができなくなってしまうおそれもありますので注意が必要です

  3. (3)雇用形態別に作成しておく

    会社によっては、正社員に適用される労働条件と、アルバイト、パートタイマー、契約社員に適用される労働条件が異なるという場合も少なくないでしょう。就業規則が一種類しか作成されておらず、正社員と非正規社員の区別がなされていない場合には、非正規社員に対しても正社員と同一の労働条件が適用されてしまいます。

    たとえば、就業規則で「退職金を支給する」と規定されていれば、非正規社員に対しても退職金を支払わなければならなくなってしまいます。そのため、雇用形態に応じて労働条件が異なるという場合には、雇用形態別に複数の就業規則を作成する必要があるのです。

4、就業規則の作成や労務管理については弁護士に相談を

就業規則の作成や労務管理については、弁護士に相談をすることをおすすめします。

  1. (1)個別事情に応じた就業規則の作成が可能

    就業規則の作成義務がない事業所では、就業規則を作成していないということも少なくありません。しかし、前述のとおり、就業規則を作成することによって、労務管理が容易になるなどのメリットがありますので、作成義務のない事業所であっても就業規則を作成するのが望ましいといえます。

    弁護士であれば、各事業所の個別事情に応じた就業規則を作成することができますので、就業規則のひな形を利用するだけでは対応することができない問題についても対処することが可能です

  2. (2)就業規則の作成に必要となる手続きについてアドバイスできる

    就業規則を作成した場合には、管轄する労働基準監督署に届け出が必要になります。また、就業規則の規定を労働者との間の契約に反映させるためには、就業規則を労働者に周知することも必要です。

    せっかく作成した就業規則が労働者に適用されなくなってしまっては意味がありませんので、必要な手続きをしっかりと行わなければなりません。弁護士に相談をすれば、就業規則の作成に必要となる手続きについてアドバイスしてもらえますので、手続き上のミスが生じる心配はありません。

  3. (3)顧問弁護士を利用すれば気軽に相談ができる

    弁護士に相談というと何か問題やトラブルが生じた場合に利用するケースが多いかもしれません。しかし、企業が安定して発展を続けていくためには、トラブルを未然に防止するという視点が重要です。

    顧問弁護士を利用していれば、ささいな悩み事があったとしても気軽に相談をすることができますので、それによってトラブルの芽を未然に摘み取ることが可能となります。万が一トラブルが発生してしまったとしても、顧問弁護士であれば迅速に問題解決に向けて動くことができます。

5、まとめ

就業規則は、一定の規模以上の事業所では作成・届け出が義務となっていますが、それ以外の事業所では作成するかどうかは任意です。しかし、就業規則を作成しないことによって、さまざまなデメリットやリスクが生じますので、作成が任意とされている事業所であってもできる限り就業規則を作成しておくことが望ましいといえます。

就業規則作成や労務管理をお考えの方は、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています