会社法が定める内部統制|金商法との違いやポイント
- 一般企業法務
- 内部統制
- 会社法
近時は会社における内部統制システムやコーポレートガバナンスなどに非常に関心が高まっており、十分な内部統制システムがない会社は、企業価値が損なわれるリスクをはらんでいます。
そのため、多くの会社経営層、企画部門、法務部門にとって、適切な内部統制システムの構築は喫緊の課題といってよいでしょう。
この記事では、内部統制システムの概要、会社法上の内部統制システムと金融商品取引法上の内部統制システムの違い、構築のポイントなどをベリーベスト法律事務所 北千住オフィスの弁護士が解説します。
1、会社法が定める内部統制とは
-
(1)会社法における内部統制システムの概要
会社法にいう内部統制システムとは、「株式会社の業務の適正を確保するために必要な体制」のことを指します。
具体的には、会社法362条4項6号において「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」が会社経営の基本にかかる重要な事項であるために、取締役会の専権に属するもの(=個々の取締役には委任できないもの)として定められているのです。
ここにいう「体制の整備」とは、内部統制システムの構築の基本方針を指すと解されています。
また、大会社についてはその社会的な影響力が大きいことによって、内部統制システムの構築が義務化されています。さらに、その内容の相当性について、監査役監査の対象とし、監査役の適切な権限行使による是正を図り、事業報告において株主に対して情報を開示することによって、株主による評価を可能としているのです。 -
(2)会社法における内部統制システムが推進される背景
会社法によって会社における内部統制を整備し、システムとして構築するべきであるという議論は、もともと会社法が旧商法より受け継いだ取締役が負う善管注意義務と忠実義務を実施するための具体的な方法としてみなされてきたことに由来します。
さらに、株主代表訴訟において、「取締役は取締役会の構成員として、また、代表取締役又は業務担当取締役として、リスク管理体制を構築すべき義務を負い、さらに、代表取締役及び業務担当取締役がリスク管理体制を構築すべき義務を履行しているか否かを監視する義務を負うのであり、これもまた、取締役としての善管注意義務及び忠実義務の内容をなす」(大阪地判平成12年9月20日)という裁判例が、その立法化を促進することになりました。 -
(3)内部統制システムの基本方針とは
取締役会においては「法務省令で定める体制の整備」の決定、すなわち内部統制システム構築の基本方針を定める必要があります。
詳細は会社法施行規則100条によって、その基本項目が定められています。
具体的には、おおむね以下の基本項目があります。- ① 取締役の職務の執行にかかる情報の保存及び管理に関する事項
- ② 損失の危険の管理に関する規程その他の体制
- ③ 取締役の職務執行が効率性をもって行われることを確保するための体制
- ④ 取締役及び使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制
- ⑤ 企業(グループ)における業務の適正を確保するための体制
- ⑥ 監査役の職務を補助すべき使用人及び当該使用人の取締役からの独立性に関する事項
- ⑦ 取締役及び使用人が監査役に報告するための体制その他の監査役への報告に関する体制
- ⑧ 監査役の監査が実効的に行われることを確保するための体制
①から⑤の項目は、内部統制システムを設置することが義務付けられている会社が共通して定めるべき内容です。
⑥から⑧の項目は、監査役を設置している会社において、①から⑤のほかに追加で定める必要がある項目になります。
なお、監査役を設置していない会社では⑥から⑧に代えて、⑨取締役が必要事項を株主に報告するための体制の整備が必要となります。 -
(4)内部統制システムの構築が義務となる会社
会社法上、内部統制システムは、大会社である取締役会設置会社においては構築が義務付けられています。大会社とは資本金が5億円以上または負債の額が200億円以上の会社の会社をいいます。
2、金融商品取引法での内部統制との違い
内部統制システムについては、会社法だけではなく、金融商品取引法でも内部統制システムの構築が求められています。それぞれの特徴と違いについて解説します。
-
(1)金融商品取引法における内部統制システムの概要
会社法では、すべての大会社である取締役会設置会社において、取締役会が「会社の業務の適正を確保するための体制」の整備にかかる事項を決定することを義務付け、かつ、その概要を事業報告において開示することになっています。
一方で、金融商品取引法上の内部統制システムは、上場会社などがその事業年度ごとに、「当該会社の属する企業集団及び当該会社に係る財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確認するために必要なものとして内閣府令で定める体制」について評価した「内
部統制報告書」を有価証券報告書とあわせて提出しなければならないとされ、加えて、内部統制報告書は、有価証券報告書に記載される財務諸表・連結財務諸表を監査する公認会計士等の監査を受けることが必要とされています。
金融商品取引法の内部統制システムは財務諸表が適正に作成・開示されているという「結果」のみでなく、その「体制」及び「過程」についても、外部の監査人の監査を受け、開示することが必要です。 -
(2)金融商品取引法と会社法における内部統制システムの相違
金融商品取引法上の内部統制システムと、会社法上の内部統制システムの違いは、大きく以下の4つの点が挙げられます。
- ① 目的の違い
- ② 基準の違い
- ③ 監査役の関与の違い
- ④ 独立監査人の違い
それぞれの概要についてご説明します。
① 目的の違い
会社法の内部統制システムは、取締役の善管注意義務と忠実義務が基礎となっていることから、以下の4つの目的すべてが対象領域になります。- 業務の有効性および効率性
- 財務報告の信頼性
- 資産の保全
- 事業活動に関わる法令等の順守
他方で、金融商品取引法の内部統制システムは、財務報告の信頼性の確保を目的とするものに限られています。
もっとも、内部統制の4つの目的は相互に関連しているために、財務報告に係る内部統制が有効なものであるためには、他の目的を完全に無視することはできません。
② 基準の違い
会社法の内部統制は、基本となる項目について会社法施行規則に定めがありますが、内部統制システムの具体的客観的な内容やその評価についての規定が存在しません。
これに対し、金融商品取引法では、事業年度末における財務報告に係る内部統制の有効性を評価した内部統制報告書の提出が求められています。
また、内部統制府令や内部統制監査基準、実施基準によって、財務報告に係る内部統制についての経営者の評価または監査人の監査において依拠することになる、客観的・具体的な評価基準が存在しています。
③ 監査役の関与の違い
会社法では、監査役が取締役の職務執行の適法性を監査する義務を負う結果、内部統制システムの整備・運用が監査の対象となっています。
これに対し、金融商品取引法の内部統制システムにおいては、監査役自身が財務報告に係る体制の有効性を監査することは想定されていません。
④ 監査人
会社法では、会計監査人が会社法上の内部統制の有効性の監査は行いません。
他方で、金融商品取引法の内部統制では、財務報告に係る内部統制の評価を記載した内部統制報告書の提出に際し、独立監査人の監査証明を必要とされています。
3、企業法務は弁護士へ相談を
資本金が5億円以上または負債の額が200億円以上の大会社(=取締役会設置会社)では、内部統制システムの構築が義務付けられており、その項目は多数にのぼります。
取締役は、経営環境や財政状態等に基づき、善管注意義務の履行手続として内部統制を整備しなくてはなりません。善管注意義務を十分に果たした内容になっているのかは、内部統制システムに知見のある弁護士へ相談することが重要です。
ベリーベスト法律事務所では、幅広い企業法務案件の実績があり、国内外のさまざまな分野の企業さまから随時相談を受け付けております。
4、まとめ
内部統制システムには、会社法上のものと金融商品取引法上のものがあります。会社法における内部統制システムでは、個社ごとに、善管注意義務の実行として十分なものを構築する必要があります。
ただし、金融商品取引法上の内部統制システムは、複雑な上にその基準が客観的かつ具体的に定められており、システムの構築にあたっては、法律上の理解が必要不可欠です。
ベリーベスト法律事務所では、内部統制システムについて取り扱いの実績があり、企業さまの環境に応じてきめ細やかなサポートが可能です。内部統制の構築についてお悩みの際は、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスへお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています