フリーランス新法とは? 施行される時期と下請け法との違い
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令和5年4月28日、フリーランスの取引を適正化して、安定した労働環境を整備するために、発注者への業務委託の遵守事項などを定めた「フリーランス新法」が成立しました。
取引上の不公平や不利益を被る機会の多いフリーランスを保護するための法律であり、業務委託などでフリーランスなどの外注業者を利用している企業では、フリーランス新法の内容に従って取引を進めていかなければなりません。
本コラムでは、フリーランス新法の内容や下請法との違いなどについて、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスの弁護士が解説します。
1、フリーランス新法とは
まず、フリーランス新法の概要や成立の背景などを解説します。
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(1)フリーランス新法の概要
フリーランス新法の正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)」です。
フリーランス新法は、フリーランスの取引の適正化、安定した労働環境整備を目的として、発注者に業務委託の遵守事項などを定めた法律です。
具体的には、発注者に対して、以下のような措置をとることを求めています。- 書面などでの契約内容の明示
- 報酬の60日以内の支払い
- 募集情報の的確な表示
- フリーランスの利益を損なう不当な扱いの禁止
- ハラスメント対策
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(2)フリーランス新法が成立した背景
フリーランスの多くは、個人事業主として業務を行っているため、企業で雇用されている労働者のように労働基準法による保護がされていません。
そのため、企業との取引においては、フリーランスの方は不当な契約や安価な報酬で酷使されてしまう可能性があります。
また、フリーランスは、特定の企業との取引に依存しているケースが多く、「契約を切られてしまうかもしれない」という不安から不当な条件でも受け入れざるを得ないことも多々あるのです。
内閣官房日本経済再生総合事務局が公表しているフリーランス人口の試算によると、令和2年の時点で462万人のフリーランスが存在します。
働き方の多様化が進みフリーランスの人数は今後も増加が予想されることから、フリーランスが安心して働ける環境整備をするために、フリーランス新法が制定されるに至ったのです。 -
(3)フリーランス新法の保護対象
フリーランス新法では、同法による保護の対象者を「特定受託事業者」と定義しています。
特定受託事業者とは、業務委託の相手方事業者であり、以下のいずれかに該当する者をいいます。- 個人であって従業員を使用しない人
- 法人であって代表者以外の役員が存在せず、かつ従業員を使用しないもの
ただし、従業員を雇っている場合であっても短期間の一時的な雇用であれば、特定受託事業者にあたります。
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(4)フリーランス新法の施行時期
フリーランス新法は、令和5年2月に閣議決定され、同年4月28日の参議院本会議で可決され成立した法律です。
現時点で、まだ未施行の法律ですが、フリーランス新法の成立から1年半以内には施行される予定であるため、遅くとも令和6年の秋ごろまでには施行される見込みです。
また、フリーランス新法の施行まで猶予があるので、フリーランスなどの外注業者を利用している企業としては、早めに対策を進めていくことが大切です。
2、企業側が留意しなければならなくなること
フリーランス新法の施行により、フリーランスに業務を委託する企業は以下の点に注意する必要が生じます。
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(1)書面などでの契約内容の明示
企業がフリーランスに業務委託をする際には、契約内容や条件(業務や成果物の内容、報酬金額、支払期日など)を書面またはメールで明示することが義務付けられます。
これまで口頭での業務委託をしていた企業では、契約書面の作成の準備を進めていくようにしましょう。 -
(2)報酬の60日以内の支払い
企業は、フリーランスから物品や成果物を受領した日から60日以内に報酬を支払わなければなりません。
そのため、支払い日を「月末締め、翌々月末払い」と設定している場合には、報酬の支払いが60日を超過するとフリーランス新法に抵触する可能性があることに注意してください。 -
(3)募集情報の的確な表示
企業がSNSやクラウドソーシングサイトなどで業務委託先の募集をする場合には、募集内容は正確かつ最新の情報にしなければなりません。
多くのフリーランスからの申し込みを受けるために、虚偽の内容や誤解を招く内容を表示することは禁止されるのです。 -
(4)フリーランスの利益を損なう不当な扱いの禁止
企業がフリーランスとの間で一定期間以上にわたる業務委託を行う場合には、フリーランスが不利益を受けないようにするために、以下の行為が禁止されます。
- フリーランス側に帰責性のないケースでの成果物の受領拒否や返品
- フリーランス側に帰責性のないケースでの報酬の減額
- 相場に比べて著しく低い報酬の決定
- 正当な理由なく指定商品を購入させたり、役務の利用を強制したりすること
- 発注者のために金銭、サービスなどの経済的利益の提供を求めること
- フリーランス側に帰責性のないケースでの委託内容の変更ややり直し
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(5)ハラスメント対策
フリーランス新法では、労働者と同様にハラスメント対策や出産・育児・介護への配慮も求められています。
企業がフリーランスと長期間にわたり継続的な業務委託をする場合には、育児や介護をしながら業務に従事できるよう必要な配慮が義務付けられます。
また、長期的な業務委託でない場合にも、これらの配慮をする努力義務が課されるのです。
さらに、ハラスメント対策として、フリーランスからの相談に応じて適切な対応をするための必要な措置を講じる義務も課されます。
3、下請法との違い
以下では、フリーランス新法と下請法の違いを解説します。
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(1)下請法とは
下請法の正式名称は「下請代金支払遅延等防止法」です。
下請法は、発注者である親事業者と下請業者との間の取引の公正を図り、下請業者の利益を保護することを目的に定められた法律です。
下請法は「独占禁止法の特則」として位置づけられています。
独占禁止法は、特定業種で独占的立場にある事業者が自らの地位を濫用し、新規業者の参入を阻んだりするなどの弊害を防止する法律です。
独占禁止法が業者間の横の関係を規制する法律であるのに対して、事業者間の縦の関係を規制するのが下請法になります。 -
(2)フリーランス新法と下請法との違い
フリーランス新法と下請法の大きな違いとしては、保護対象に資本金による制限があるかどうかという点が挙げられます。
下請法では、親事業者が資本金1000万円を超え、下請業者が資本金1000万円以下の場合にしか下請法は適用されません。
これに対して、フリーランス新法では、資本金による制限がありませんので、フリーランス新法のほうが保護の対象が広いといえるのです。
なお、その他のおおまかな規制内容については、フリーランス新法と下請法はおおむね共通しています。
4、弁護士に相談すべきケース
以下では、フリーランス新法に関して弁護士に相談すべきケースを紹介します。
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(1)フリーランスとの業務委託を利用している
フリーランスに対して業務委託をしているという企業は、フリーランス新法が施行されるまでにフリーランス新法の内容に従った取引体制を整備していく必要があります。
フリーランス新法に違反した場合には、公正取引委員会、中小企業庁長官、厚生労働大臣による助言、指導、報告徴収、立入検査などの履行確保措置が行われます。
また、命令違反や検査拒否などがあれば50万円以下の罰金に処せられるリスクもあるのです。
このようなリスクを回避するために、法律の専門家である弁護士のアドバイスやサポートを受けながら体制の整備を進めていきましょう。 -
(2)この機会に法務体制の強化をしたい
企業経営において、法務体制を強化することは企業の利益を守ることに直結します。
フリーランス新法の施行に伴う体制整備を進めている企業も、この機会に法務体制の強化も検討するとよいでしょう。
法務体制の強化を図るためには、顧問弁護士を利用することをおすすめします。
顧問弁護士であれば、企業の実情に応じた最適な法務体制の整備を図ることができます。
また、問題が発生したとしても直ちに相談や対応することができますので、トラブルが深刻化する前に問題を解決することができるのです。
さらに、企業内に法務部を設置するコストに比べれば、顧問弁護士を利用したほうが安上がりともいえます。
フリーランス人口の増加とともにフリーランスとの取引上のトラブルも増加することが予想されますので、トラブルに適切に対応したり未然に防止したりするためにも、顧問弁護士の利用をご検討ください。
5、まとめ
フリーランス新法の成立により、これまで不利な立場に置かれていたフリーランスの地位が向上することになります。
フリーランスと取引をする企業としては、フリーランスとの取引内容を見直すなどして、不当な扱いにならないよう注意することが必要になります。
企業の経営者や担当者で、フリーランス新法の実施に向けた対応についてお悩みを抱えている方や顧問弁護士の利用をお考えの方は、まずはべリーベスト法律事務所にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています