野良猫への餌やりは違法? 損害賠償を請求できる可能性や対処法
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東京都福祉保健局が公表している統計資料によると、令和2年に東京都動物愛護相談センターで収容された動物の数は660匹であり、そのうち猫の数は447匹にものぼります。東京都内でも多くの猫が保健所に収容されていることがわかります。
時々、野良猫に餌やりをしている人を見かけることがあります。餌やりをしている人は、「猫がかわいそうだから」などの理由で餌やりをしているかもしれませんが、近隣住民からするとふん尿被害などによって迷惑を被っていることもあります。このような被害が生じた場合には、野良猫に餌やりをしている人に対して、何か請求することはできるのでしょうか。
今回は、野良猫に餌やりをしている人がいた場合に、損害賠償請求ができる可能性や対処法などについて、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスの弁護士が解説します。
1、野良猫への餌やりは何が問題なのか
野良猫に対して餌やりをすることによって、以下のような問題が生じることがあります。
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(1)ふんや尿による悪臭
野良猫に餌やりをすると、野良猫がその地域に住みつくようになり、道路や庭先などでふんや尿をする場合があります。飼い猫と異なり、野良猫のふんや尿を処理する人はいないので、そのまま放置され、悪臭を発することになります。
また、猫のふんには、トキソプラズマなどの寄生虫の一種が含まれているので、子どもが知らずに触って口にしたり、目をかいたりしてしまうと、感染症を引き起こすリスクもあります。 -
(2)猫の鳴き声による騒音
野良猫は、夜中に活動的になるので、地域住民が寝静まった夜中に鳴き出すことがあります。また餌やりをしていると、1匹だけでなく複数匹の野良猫が集まってくることがあるため、猫の鳴き声による騒音被害も発生します。
特に、発情期の猫の鳴き声は非常に大きいため、野良猫の鳴き声で眠れないといった健康被害が生じるリスクもあるでしょう。 -
(3)車に足跡や傷をつけられる
野良猫は、どこか1か所でじっとしているのではなく、さまざまな場所を歩き回っています。非常に身軽ですので、車の屋根やボンネットにのぼることもあり、その際に足跡をつけられたり、爪で傷をつけられたりすることもあります。
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(4)ごみをあさられる
餌やりをしているといっても、野良猫としてはそれだけでは十分な食事ではないこともあるでしょう。その結果おなかをすかせた野良猫が餌を求めて徘徊(はいかい)し、ごみをあさるなどの行為をする場合があります。
ゴミ袋を破かれて、生ごみなどが散乱すると、衛生上問題が生じるだけでなく、悪臭などの被害も生じてしまいます。
2、野良猫への餌やりは違法?
野良猫への餌やりによって、さまざまな問題が生じるおそれがありますが、そもそも野良猫への餌やりは法律で禁止されていないのでしょうか。
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(1)動物愛護法
動物愛護法とは、正式名称を「動物の愛護及び管理に関する法律」といい、動物の愛護と適切な管理を目的とする法律です。
動物愛護法25条では、動物に対して餌を与えることで、騒音や悪臭の発生、毛の飛散、昆虫の発生により周辺の生活環境が損なわれた場合には、都道府県が原因者に対して、指導、勧告、命令を行うことができるとされています。
野良猫への餌やり自体を禁止しているわけではありませんが、野良猫に餌をあげることによって、このような被害が生じた場合には、餌やりが制限されることになります。
なお、都道府県からの命令に従わなかった場合には、原因者に対して50万円以下の罰金が科されることがあります(動物愛護法46条の2)。 -
(2)自治体の条例
動物愛護法以外にも、各自治体で制定されている条例によって、野良猫への餌やりが制限されている場合があります。野良猫への餌やりに関する条例を紹介します。
① 京都市動物との共生に向けたマナー等に関する条例
京都市では、「京都市動物との共生に向けたマナー等に関する条例」が制定されています。
同条例では、野良猫に対して餌やりをする場合には、適切な方法によって行うものとし、周辺住民の生活環境に悪影響を及ぼすような餌やりをしてはならない、としています。
餌やり自体を禁止するものではありませんが、不適切な方法で餌やりをした場合には、市長は勧告や命令をすることができ、それに応じない場合には5万円以下の過料に処せられることがあります。
② 和歌山県動物の愛護及び管理に関する条例
和歌山県では、「和歌山県動物の愛護及び管理に関する条例」が制定されています。
同条例では、野良猫に対して餌やりをする場合には、以下の事項を順守するように求めています。- 生殖することができない猫のみに餌やりを行うこと
- 時間を定めて餌やりを行うこと
- 餌やり後は、速やかに餌と水を回収すること
- 餌やりをする場所を汚さないこと
- 餌やりをする際に猫のトイレを設置し、ふん尿を速やかに処理すること
- 周辺住民に対して、事前に、野良猫への餌やりおよびその方法について説明するよう努めること
このような順守事項を守らない場合には、自治体による勧告が行われますが、それでも改善がなされない場合には、命令が出されます。自治体による命令にも従わなかった場合には、5万円以下の過料に処せられることになるのです。
③ 荒川区良好な生活環境の確保に関する条例
東京都荒川区では、「荒川区良好な生活環境の確保に関する条例」が制定されています。
同条例では、野良猫に餌やりをすることによって、鳴き声、ふん尿による悪臭、毛の飛散など、生活環境への被害を生じさせてはならないとしています。
本条例も、餌やり自体を禁止しているわけではありませんが、野良猫に餌やりをすることで、生活環境への被害が生じた場合には、自治体から勧告・命令がなされ、命令に従わなかった人に対しては、5万円以下の過料が科されます。
3、野良猫の餌やりに対して損害賠償を請求できるのか
野良猫に対して餌やりをしている人がいた場合、損害賠償請求をすることができるのでしょうか。
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(1)野良猫への餌やりによって被害が生じた場合には損害賠償請求が可能
前述のとおり、法律や条例では、野良猫への餌やり自体を禁止しているわけではありません。野良猫への餌やりは、動物愛護の精神に基づくものであるため、それ自体を理由として損害賠償請求をすることは難しいでしょう。
しかし、野良猫に餌やりをすることによって、野良猫がその地域に住みつき、周辺住民がふん尿、鳴き声などの被害を受けることがあります。
法律や条例では、周辺の生活環境への被害を生じさせることを取り締まっているので、餌やりによって、周辺の生活環境に被害が生じたような場合には損害賠償請求が可能なケースもあるといえます。具体的には、野良猫への餌やりの目的、頻度、周辺の生活環境への被害内容・程度などを考慮して、違法性が判断されることになるでしょう。 -
(2)損害賠償請求が認められた裁判例
野良猫への餌やりに関して、損害賠償請求が認められた裁判例を紹介します。
① 福岡地方裁判所 平成27年9月17日判決
この事案では、約8か月もの間、自宅の玄関前に餌を置くなどして野良猫に対する餌やりを継続したために、複数の野良猫がその地域に住みついてしまいました。
その結果、野良猫が周辺住民の庭に入り込んでふん尿をするなどして、悪臭などの被害を生じさせたため、被害を受けた周辺住民が餌やりをしていた人に対して、損害賠償を求めて訴訟を提起しました。
裁判所は、野良猫への餌やりについては、動物を愛護する精神からなされたものであり、直ちに非難するものではないとして、餌やりをした人の行動に一定の理解を示しました。しかし、周辺住民に対しても、生活の平穏や利益を侵害しないよう配慮する義務があるところ、本件では、周辺住民への被害を防止するための対策を取らなかったという点で違法性があるとして、損害賠償請求を認めました。
② 東京地方裁判所 平成22年5月13日判決
この事案は、集合住宅に住む人が、継続的に野良猫に餌を与え続けたため、野良猫のふん尿が住人の洗濯物に付着したり、庭の芝が枯れてしまったりするなどの被害が生じていました。
集合住宅の管理規約では、動物飼育禁止条項や迷惑禁止条項があることから、住宅管理組合は、何度も餌やりをする人に対して注意をしましたが、それでも餌やりをやめることがなかったため、野良猫への餌やりの中止および損害賠償を求めて訴訟を提起しました。
裁判所は、被告人が猫の不妊去勢手術の費用を負担するなど、一定程度の対策を講じたことは認めるものの、野良猫への餌やりは、集合住宅の管理規約違反であり、住民らへの配慮は通常受忍すべき限度を超えているとして、人格権を侵害したと認め、餌やりの中止と損害賠償請求を認めました。
4、迷惑な野良猫への餌やりは、どう対処するべきか
野良猫への迷惑な餌やりでお悩みの場合には、以下のような対処法を検討しましょう。
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(1)餌やりをしている人に注意する
野良猫の餌やりによって、周辺の生活環境に被害が生じている場合には、そのことを本人に伝えて、餌やりを止めてもらうよう求めましょう。
ただし、餌やり自体は問題ないので、餌やりそのものを非難するのではなく、それにより悪臭や騒音などの被害が生じていることを強調することが大切です。また、あまりしつこく注意をすると近隣トラブルになるおそれもあるので、注意が必要です。 -
(2)市区町村役場の担当窓口で相談する
動物愛護法や各自治体の条例において、餌やりによって周辺住民の生活環境へ悪影響を及ぼしてはならないと規定されているので、当事者同士で対応することが難しい場合には、市区町村役場の担当窓口で、被害状況について相談をして、対応してもらうとよいでしょう。
周辺の生活環境に被害が生じていると認められる場合には、自治体から指導、勧告、命令などの措置がなされ、それでも改善されないという場合には、罰則が適用されることになるので、一定の強制力はあるといえます。 -
(3)弁護士に相談をする
当事者同士の対応や自治体の対応によっても野良猫への餌やりをやめないという場合には、裁判などの法的な対応が必要になります。裁判になると主張を裏付けるための証拠が必要になり、手続きも非常に専門的なものであるため、適切に行うためには専門家である弁護士のサポートが不可欠となります。
そのため、野良猫に餌やりをする人への対応でお困りの際には、弁護士に相談をするということも有効な手段でしょう。
5、まとめ
野良猫への餌やり自体は禁止されていませんが、それによって周辺の生活環境に被害が生じている場合には法律や条例によって取り締まりの対象となっています。
ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスでは、野良猫への餌やりによる被害など、日常のなかで発生した法的なトラブルに関するご相談をお受けしております。お悩みを抱えている場合は、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスまでお気軽にご相談ください。
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