夫婦の義務を放棄するとどうなるのかについて弁護士が解説
- その他
- 夫婦の義務
令和3年度に東京都足立区に寄せられた法律相談のうち、離婚に関するものは362件でした。
夫婦の義務を放棄すると、相手から離婚を請求される可能性があります。さらにそれだけでなく、相手から損害賠償請求を受けるリスクや、自分から離婚請求をしても認められなくなるリスクがある点に注意が必要です。
今回は、夫婦が互いに負う義務の内容や、夫婦の義務を果たさなかった場合のペナルティーなどについて、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスの弁護士が解説します。
(出典:「数字で見る足立 令和4年」(足立区))
1、夫婦の義務の種類・内容
夫婦が互いに負う義務には、主に以下の4つがあります。
- ① 同居義務
- ② 協力義務
- ③ 扶助義務
- ④ 貞操義務
-
(1)同居義務
夫婦は原則として、同居して共同生活を営む義務を負います(民法第752条)。正当な理由なく相手と別居することは、同居義務違反に当たります。
ただし、同居義務は比較的緩やかに捉えられており、以下のような事情があれば同居義務違反に当たらないと解されています。- 別居することについて夫婦の合意がある場合
- 仕事の都合で単身赴任する場合
- 家族の介護のために別居する場合
- 子どもの学業をサポートするために別居する場合
- DVやモラハラの被害から逃れるために別居する場合
-
(2)協力義務
夫婦は婚姻生活を送るに当たり、互いに協力する義務を負います(民法第752条)。
(例)- 子どもを協力して育てる
- 家事を協力して分担する
- 相手が病気になったら看病する
具体的にどのような形で協力すべきかについては、夫婦の事情によって千差万別です。適切な協力の形を、夫婦が互いに話し合って模索すべきでしょう。
-
(3)扶助義務
夫婦は互いに相手を「扶助」する義務を負います(民法第752条)。
「扶助」とは、相手に対して経済的援助を行うことを意味します。婚姻費用の分担義務(民法第760条)も、夫婦間における扶助義務の一環です。
夫婦間における扶助義務は、余裕がある場合に最低限の経済的援助を行う「生活扶助義務」ではなく、自分と同等の生活を保障する「生活保持義務」であると解されています。 -
(4)貞操義務
貞操義務とは、配偶者以外の者と性的関係を持たない義務を意味します。
法律の明文はありませんが、不貞行為が法定離婚事由(民法第770条第1項第1号)とされていることから、夫婦は互いに貞操義務を負うと解されています。
2、夫婦の義務を果たさないとどうなる?
上記の夫婦の義務を果たさないと、以下のリスクを負うことになる可能性があるので注意が必要です。
- ① 法定離婚事由に該当し、相手の離婚請求が認められる
- ② 相手から損害賠償を請求される
- ③ 自分から離婚請求をしても認められなくなる
-
(1)法定離婚事由に該当し、相手の離婚請求が認められる
夫婦の義務に違反した場合、以下の法定離婚事由に該当する可能性があります。
- 不貞行為(民法第770条第1項第1号) 貞操義務に違反し、配偶者以外の者と性的関係を持つことは「不貞行為」に当たります。
- 悪意の遺棄(同項第2号)、その他婚姻を継続し難い重大な事由(同項第5号) 同居義務に違反して勝手に別居する行為、協力義務に違反して相手を一切サポートしない行為、扶助義務に違反した生活費を全く負担しない行為などは「悪意の遺棄」に当たる可能性があり、「婚姻を継続し難い重大な事由」に当たるとされる場合もあります。
ご自身が法定離婚事由を生じさせた場合、相手は離婚を請求することができます。協議や調停において離婚を拒否しても、最終的には訴訟によって強制的に離婚が認められてしまうので要注意です。
-
(2)相手から損害賠償を請求される
正当な理由なく夫婦の義務を果たさないことは、「不法行為」に当たる可能性があります(民法第709条)。
不法行為をした場合、相手に生じた損害を賠償しなければなりません。
夫婦の義務に違反した場合の損害賠償は慰謝料の支払いが中心で、義務違反の内容・悪質性などに応じて100万円から300万円程度の慰謝料が認められることがあります。
もっとも、前述のとおり同居義務は比較的緩やかに捉えられており、協力義務も一定の履行方法があるわけではありませんから、単にこれらの義務に違反したというだけでは損害賠償請求が認められないこともありますので、ご注意ください。 -
(3)自分から離婚請求をしても認められなくなる
法定離婚事由を自ら作出した者は「有責配偶者」と呼ばれます。有責配偶者に該当する場合、訴訟を通じた離婚請求が非常に認められにくくなる点に注意が必要です。
有責配偶者からの離婚請求は、その責任の態様・程度を考慮したうえで、信義誠実の原則に照らして許される場合に限って認めるべきと解されています(最高裁昭和62年9月2日判決参照)。
別居期間が相当の長期間に及び、夫婦間に未成熟の子どもが存在しないなどの状況下では、有責配偶者からの離婚請求も認められる余地があります。しかし、このような事情が存在しなければ、有責配偶者からの離婚請求は認められないとされています。
長期間にわたって離婚が認められなければ、婚姻費用(生活費)を負担しなければならないなどの弊害が生じます。将来的に離婚を考えていたとしても、いたずらに夫婦の義務を放棄するのではなく、きちんと夫婦の義務を果たしながら離婚の可能性を模索すべきでしょう。
3、配偶者との離婚を考え始めた場合に行うべき準備
配偶者と将来的に離婚することを見据えた場合、以下の準備を徐々に整えていきましょう。
- ① 離婚後の生活費・住居の見通しを立てる
- ② 希望する離婚条件を検討する
- ③ 法定離婚事由の証拠を集める
-
(1)離婚後の生活費・住居の見通しを立てる
配偶者と離婚すれば、基本的には自力で生計を立てなければなりません。特に専業主婦(主夫)で収入がない方や、パートタイムで働いているにとどまる方は、生活費をどのように確保するかを検討しておくとよいでしょう。
また、得られる見込みの収入に見合った家賃の住居を確保することも必要になります。
離婚する前の段階から、安定した収入を得られる職業や、手頃な家賃の住居を探して目星を付けておくことがおすすめです。 -
(2)希望する離婚条件を検討する
配偶者と離婚するに当たって、取り決める必要がある条件は主に以下が挙げられます。
① 財産分与
夫婦の共有財産をどのように分けるかを取り決めます。夫婦いずれの名義であっても、婚姻中に取得した財産であれば、原則として財産分与の対象です(民法第762条第2項)。
② 慰謝料
いずれか一方が離婚の原因を作った場合に、慰謝料の支払いについて取り決めます。当該行為の内容・悪質性などに応じて、100万円から300万円程度の範囲内で合意するケースが多いです。
③ 親権
18歳未満の子どもについて、父母のどちらが親権を持つかを取り決めます。親の都合ではなく、子どもの利益をもっとも優先して考慮しなければなりません(民法第766条第1項)。
④ 養育費
親権者でない側が親権者に対して、子どもの養育に充てるために支払う費用の金額などを取り決めます。裁判所が公表している「養育費算定表」を参考にすることができます。
(参考:「養育費・婚姻費用算定表」(裁判所))
なお、突発的・臨時的に必要となる費用(医療費、進学費用など)については、毎月の養育費とは別に「特別費用」として請求できることがあります。
⑤ 面会交流
親権者でない親と子どもがどのように交流するかを取り決めます。
各離婚条件について、どのような内容を希望するかを事前に検討しておきましょう。その際、配偶者から反論を受けることも想定して、法的な観点から理論武装することが大切です。
これらの条件以外にも、離婚前の別居期間には、別居期間中の婚姻費用を請求することかができます。裁判所が公表している「婚姻費用算定表」を参考に検討しましょう。
(参考:「養育費・婚姻費用算定表」(裁判所)) -
(3)法定離婚事由の証拠を集める
配偶者による義務違反(不貞行為・悪意の遺棄など)が原因で離婚する場合には、法定離婚事由を立証し得る証拠を集めておきましょう。十分な証拠がそろっていれば、仮に配偶者が離婚を拒否しても、訴訟を通じて強制的に離婚することができます。
法定離婚事由を立証するために、どのような証拠が有効であるかは具体的な事情によって異なります。弁護士のサポートを受けながら、離婚を切り出す前の段階で十分な証拠の確保に努めるとよいでしょう。
4、離婚問題は弁護士にご相談を
離婚に関する問題にお悩みの方は、弁護士へのご相談がおすすめです。
弁護士は、協議・調停・訴訟の各手続きを通じて、好条件での離婚をスムーズに成立させられるようにサポートいたします。財産分与や慰謝料、養育費などの離婚条件を決めるに当たっては、具体的な事情などによって相手に請求できる金額が異なってくるため、弁護士に相談して適切な金額を算定してもらうとよいでしょう。
また弁護士に依頼をすれば、配偶者と直接やり取りする必要もなくなるため、精神的な負担も大幅に軽減されます。夫婦関係が悪化している状態の場合、互いの意見が対立してしまい、話し合いが進まないなど、ストレスとなることがありますが、弁護士なら本人に代わり交渉を進めることができます。調停や訴訟となった場合にも代理人としての対応が可能です。
夫婦関係の悪化などで配偶者との離婚を検討している方は、お早めに弁護士までご相談ください。
5、まとめ
夫婦が互いに負う義務には、主に「同居義務」「協力義務」「扶助義務」「貞操義務」の4つがあります。いずれかの義務に違反した場合、配偶者から離婚請求や慰謝料請求を受ける可能性があります。
配偶者との離婚を視野に入れている方は、弁護士へのご依頼をおすすめいたします。ベリーベスト法律事務所にご依頼いただければ、ご希望に添った条件で円滑に離婚を成立させられるように、経験豊富な弁護士が親身にサポートいたします。
配偶者との離婚を検討されている方は、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスにご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています