離婚時の財産分与で対象となる貯金・ならない貯金|調査する方法は
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令和4年度、足立区では1622件の離婚届が受理されました。1日あたり4.4件の離婚届が受理されたということです。
離婚をするためにはまず夫婦間の話し合いを行います。話し合いでは養育費や慰謝料といった「お金」に関する話し合いも重要です。そのなかでも「財産分与」という言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか?
財産分与は「夫婦が婚姻期間中に協力して築き上げた財産を、離婚時に夫婦で分けること」をいいます。財産分与の対象となる貯金には具体的にどういうものがあるのでしょうか? また自分が把握していない預金口座を相手が所持しているのか否かを調べる方法はあるのでしょうか?
財産分与をする際の注意点も合わせてベリーベスト法律事務所 北千住オフィスの弁護士が解説していきます。
1、離婚時の財産分与で対象になる貯金
夫婦の婚姻期間中に協力して築き上げた財産を離婚時に分ける「財産分与」ですが、対象になる貯金とならない貯金には、それぞれどのようなものがあるのでしょうか?
詳しくみていきましょう。
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(1)財産分与の対象になる貯金
財産分与は「夫婦が婚姻中に協力して築き上げた財産」が対象になります。これを「共有財産」といいます。
① 夫婦で貯めた貯金
婚姻期間に貯めた貯金は、夫婦共有のものはもちろんのこと、夫婦どちらかの名義の貯金も財産分与の対象になります。
また子ども名義の貯金も、夫婦の収入からお金を出して貯めた貯金である場合には財産分与の対象になるでしょう。ただし、親戚からもらったお年玉やお小遣いといったお金は子どもの特有財産(後述)であるため、財産分与の対象にはなりません。
② へそくり
配偶者には内緒にして貯めていたお金を「へそくり」といいますが、たとえば夫の収入から妻がひそかにいくらかへそくりにまわしていた場合、そのへそくりは財産分与の対象になります。 -
(2)財産分与の対象にならない貯金
財産分与の対象にならない貯金は「夫婦が婚姻中に協力して築き上げた財産ではないもの」です。これを「特有財産」といいます。
① 結婚前から貯めていた貯金
「結婚前に貯めていた貯金」は、「婚姻期間中の財産」でも「夫婦が協力して築き上げた財産」でもありません。そのため財産分与の対象外です。
② 贈与や相続で得たお金
婚姻期間中に、親や親戚からの贈与や相続で得たお金は「夫婦が協力して築き上げた財産」ではありません。そのため、贈与や相続で得たお金は財産分与の対象にならない特有財産になります。
③ 別居後に貯めた貯金
離婚が成立する前に別居をする場合、別居期間中に貯めたお金は「夫婦で協力して築き上げた財産」にはあたりません。そのため、別居後に貯めた貯金は財産分与の対象外です。
2、貯金・口座の有無がわからない場合
財産分与をするためには、対象となる財産・貯金を把握する必要があります。夫婦共有の貯金口座を確認したり、お互いの通帳を開示したりして財産分与の対象を確定させなければなりません。
しかし、なかには相手に通帳の開示を拒否されるケースや、そもそも相手に口座があるかどうかもわからないようなケースもあります。
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(1)相手に通帳の開示を拒否された場合
そもそも相手に通帳の開示を拒否されるおそれがある場合、別居する前の時点でまずは相手の通帳を探しコピーを取っておきましょう。
それができず、相手から実際に通帳の開示を拒否されてしまった場合には、以下の方法を検討してください。
① 弁護士会照会制度を利用する
弁護士会照会制度とは、仕事の依頼を受けた弁護士が職務を円滑に進めるために、必要な証拠や資料を収集する制度です。この制度を利用すると、金融機関に預金残高や取引状況の情報を開示するように請求することができます。
ただし、この制度は弁護士しか利用することはできません。また、情報の開示を求められた団体は基本的に開示を拒否することはありませんが、場合によっては拒否する団体もあるため、必ずしも情報を得られるとは限りません。
そこで利用する制度が、次にご紹介する「調査嘱託制度」です。
② 調停・審判で調査嘱託制度を利用する
「調査嘱託制度」とは、裁判所から金融機関に預金残高や取引状況などの情報開示を求める制度のことをいいます。この制度を利用するためには、以下の2つの要件を満たすことが必要です。それぞれ詳しくみていきます。・離婚調停の申立てを行う
1つ目の要件が「離婚調停の申立て」をしていることです。離婚が成立した後に、財産分与について協議をする場合には、財産分与請求調停・審判を申立てる必要があります。
調停・審判のためには財産分与の対象を確定させる必要があるため、「調査嘱託制度」を利用して金融機関から預金残高や取引状況などの情報の開示を請求します。
「調停」は当事者間だけの話し合いとは異なり、調停委員と裁判官という第三者と共に話し合いで紛争を解決する制度です。夫婦間での話し合いが決裂した後、家庭裁判所に「財産分与を請求したい」という申し立てを行い、調停委員や裁判官からのアドバイスを受けながら財産分与についての話し合いを進めていきます。
調停が決裂すると「審判」の手続きが自動的に行われ、裁判官が財産分与をどのような内容にするか審判を下すことになります。
・金融機関名や支店名の情報を取得する
2つ目の条件が、金融機関名や支店名を把握していることです。
調査嘱託制度を利用してどの金融機関のどこの支店に情報開示の請求をしてほしいのか、裁判所に伝えることができないと制度を利用することができません。そのため通帳のコピーはできない場合でも、相手の預金口座情報だけは確保しておきましょう。
裁判所から金融機関への情報開示請求は、ほとんどの場合、拒否されることはありません。 -
(2)口座の有無がそもそもわからない場合
銀行口座を相手が持っているかどうかもわからない場合の対処法をご紹介します。
① 家の中で通帳を探す
銀行口座がある場合は通帳やキャッシュカードが発行されるため、家の中にそれらがないかどうか探してみましょう。
② 郵便物を確認する
銀行からダイレクトメールやお知らせのはがきなどの郵便物が届くことがあります。そのため、身に覚えがない郵便物があるかどうかを確認するようにしましょう。
③ スマートフォンを確認する
相手のスマートフォンを勝手に見ることは犯罪になる可能性がありますが、一緒にいるときに画面を確認できるのであれば確認してみましょう。相手が銀行のアプリを利用している場合、その銀行に口座を持っている可能性が高いです。
お問い合わせください。
3、貯金の財産分与における注意点
貯金の財産分与の対象や相手の貯金口座の調べ方について解説してきましたが、貯金の財産分与をするときに気をつけておきたいことがいくつかあります。
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(1)財産分与は原則、折半になる
たとえば、夫が会社員で妻が専業主婦だった場合、主に夫が会社から得た給与によって夫婦の財産が築かれていることになります。このようなケースでは、夫が「自分が稼いだお金だから」と財産分与を拒否することもあるかもしれません。
しかし、夫婦生活中に築いた財産は妻の助力によって築き上げたものとなりますので、専業主婦であっても、原則、共有財産の半分を請求することが可能です。 -
(2)タンス預金も財産分与の対象になる
銀行口座に入っているお金ではなく、家に保管しているお金を「タンス預金」といいます。前述した「へそくり」は「タンス預金」の一種です。
タンス預金は銀行口座のお金とは違い、出金入金の流れや全部でいくらあるのかわかりにくいという特徴があります。しかし財産分与の対象にはなるので、財産分与をするときには必ず確認するようにしましょう。 -
(3)当選した宝くじや馬券も財産分与の対象になる
宝くじの当選金や馬券の賞金も財産分与の対象になります。宝くじや馬券の購入金を、夫婦の共有財産から出したか、特有財産から出したかは関係ありません。たとえば宝くじの購入金を夫の特有財産から出していたようなケースであっても、婚姻期間中に購入していれば、財産分与の対象として妻はその半額を請求することが可能です。
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(4)別居中に相手が貯金を使い込んだら、財産分与時に考慮される
別居をする場合、結婚してから別居するまでの財産が財産分与の対象になります。それにもかかわらず財産分与の予定の貯金を別居後、相手に使い込まれてしまった場合どう対処すればいいのでしょうか?
財産分与の基準時は、別居をしている場合は別居時点となるため、貯金を使い込まれた分は考慮せず、財産分与をするときに請求することが可能です。
たとえば財産分与の対象になる夫名義の貯金が1000万円あったにもかかわらず別居後夫が使い込んで700万円のみ残っていた場合を考えてみましょう。
この場合、元々請求予定だった500万円(1000万円の半額)を妻は夫に財産分与として請求することができます。 -
(5)婚姻前の口座を婚姻後も使い続けていた場合は注意が必要
婚姻前の口座を婚姻後も使い続けているケースでは、どこまでが婚姻前の貯金で、どこからが婚姻後の貯金なのか区別ができない場合があります。そうすると本来は財産分与の対象外であるはずの貯金が財産分与の対象になってしまうことがあるため注意が必要です。
それを防ぐためには、通帳に記帳して婚姻前の残高がいくらだったのかを証明できるようにしましょう。
4、財産分与は弁護士にご相談を
財産分与は対象となる財産を正確に把握することが大切です。しかし、相手が素直に財産開示をするとは限りません。
弁護士に相談することで財産を正確に把握するためのアドバイスを受けることができます。また、相手との交渉を代理してもらうと自分で行う交渉よりも良い条件で財産分与が成立する可能性も高くなるでしょう。
さらに弁護士会照会制度を利用して相手の財産を把握できるようになる可能性も高くなり、もし裁判になった場合も、手続きや対応を代わりに行ってもらうことが可能です。
そのため、財産分与をするときにはまず弁護士に相談するようにしましょう。
5、まとめ
財産分与をするには、まず財産分与の対象になる財産がいくらあるのか把握することが重要です。しかし通帳の開示を請求しても相手に拒否される場合や、そもそも口座の有無がわからないような場合もあるでしょう。
弁護士に相談することで、拒否された場合や口座の調べ方へのアドバイスを受けることができます。財産分与をするときはぜひベリーベスト法律事務所 北千住オフィスの弁護士にご相談ください。
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