相手が悪い場合でも財産分与は平等? 財産分与の種類と注意点
- 財産分与
- 離婚
- 財産分与
- 相手が悪い
足立区の令和3年度の離婚届受理件数は1546件でした。離婚を選択する理由のなかには、配偶者の不倫や暴力など、配偶者の言動がきっかけとなっている場合も少なくないでしょう。
離婚に至る原因が配偶者にある場合には、有責配偶者に対して、慰謝料請求をすることができますが、財産分与においてはどのような影響があるのでしょうか。相手が有責配偶者である場合、財産分与を有利に進めることができるのでしょうか。
今回は、有責配偶者と離婚をする場合の財産分与について、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスの弁護士が解説します。
1、相手が悪い離婚でも財産分与は平等になる?
相手に離婚の原因があるような場合にも財産分与は平等に行わなければならないのでしょうか。以下では、財産分与の概要について説明します。
-
(1)財産分与とは?
財産分与とは、夫婦が婚姻中に協力して築いた財産を離婚時に清算する制度です(いわゆる「精算的財産分与」)。財産分与の対象となる財産は、夫婦が協力して築き上げた財産に限られ、このような財産を「共有財産」といいます。共有財産に該当し得る財産として、以下のものが挙げられます。
- 現金
- 預貯金
- 不動産
- 有価証券
- 退職金
- 生命保険などの解約返戻金
- 住宅ローンなどの借金
これに対して、婚姻前から所有していた財産や婚姻後であっても相続などで取得した財産については、夫婦の協力とは関係なく取得した財産となります。このような財産は、「特有財産」と呼ばれ、財産分与の対象外となります。
-
(2)配偶者の有責性と財産分与は別問題
財産分与は、夫婦の財産形成に対する貢献度に応じて、財産を分ける制度ですが、夫婦の財産形成における貢献度は、基本的には等しいと考えられています。そのため、財産分与の割合は、2分の1となるのが原則です。これは、夫が会社員、妻が専業主婦の家庭であっても変わりありません。
では、配偶者に不倫や暴力などの有責性がある場合、財産分与の割合はどのようになるのでしょうか。
この場合でも財産分与の割合は、2分の1から変わることはありません。配偶者に有責性があったとしてもそれは財産形成に対する貢献度とは無関係な事情ですので、不倫や暴力といった事情が財産分与の割合に影響を与えることはありません。そのため、「あなたのせいで離婚するのだから、財産は自分がすべてもらう」といった主張は認められにくいといえます。
2、財産分与の種類
財産分与は原則としては、どちらが離婚の原因を作ったかとは関係のない制度ですが、財産分与には、以下のような3つの要素があることも考えられています。慰謝料や離婚後の生活などを鑑みて財産分与の方法等を検討することも大切です。
-
(1)清算的財産分与
清算的財産分与とは、夫婦が婚姻中に協力して築いた財産を、夫婦の貢献度に応じて清算をする要素のことをいいます。清算的財産分与は、財産分与でメインとなる要素であり、一般的に財産分与という場合には、この清算的財産分与のことを指します。
-
(2)扶養的財産分与
扶養的財産分与とは、離婚後の生活が経済的に厳しい状況になる場合に、生活費などの補塡(ほてん)として考えられる要素です。扶養的財産分与が認められた場合には、一定期間、毎月一定額を支払うという方法によって行われることが多いといえます。
ただし、離婚後は、夫婦関係が解消されて他人になりますので、法律上の扶養義務は消滅します。そのため、扶養的財産分与が認められるのは、あくまでも例外的なケースであり、請求をすれば必ず認められるというわけではありません。 -
(3)慰謝料的財産分与
慰謝料的財産分与とは、配偶者に不貞行為や暴力といった有責事由があった場合に、慰謝料目的で支払われる財産分与です。
もっとも、一般的には、慰謝料と財産分与は、別々の項目として整理しますので、慰謝料的財産分与としてこれを加味することは多くありません。どのような名目で支払ったお金であるかで後日争いになることもありますので、慰謝料と財産分与は区別して請求していったほうがよい場合が多いです。
3、財産分与を有利に進めるためにできること
財産分与を有利に進めるためにも以下のポイントを押さえておきましょう。
-
(1)相手の財産を調査して、正確に把握してから請求する
前述のとおり、財産分与は、夫婦の共有財産を分ける制度です。そのため、その前提として、夫婦の共有財産をしっかりと洗い出す必要があります。自分の財産であれば正確に把握できますが、相手の財産となると夫婦であってもすべてを把握しているわけではないため、財産分与の前に相手の財産を調査しなければなりません。
まずは、相手に対して、すべての財産を任意に開示するように求めていきます。しかし、なかには、財産を隠したり、少なく申告したりするケースも考えられますので、弁護士に依頼をして調査を進めていくことをおすすめします。弁護士であれば、弁護士会照会という特別な調査方法を利用することができますので、それによって相手が隠している財産を明らかにすることができる場合があります。
また、調停や裁判になっている場合には、裁判所の調査嘱託という調査方法を利用することもできます。その場合には弁護士会照会では回答が得られなかった照会先からも、回答を得ることが期待できます。 -
(2)貢献度に応じて財産分与の割合を主張する
財産分与の割合は、原則として2分の1となりますが、これはあくまでも原則であり、2分の1以外の割合での財産分与が禁止されているわけではありません。
ご自身が共有財産形成に対する貢献度が高いという事情がある場合には、しっかりとその事情を主張していくことによって、2分の1とは異なる割合での財産分与を実現することができる可能性があります。
財産分与の割合は、まずは夫婦の話し合いによって決めていきますが、話し合いでの解決が難しい場合には、調停や裁判によって判断してもらうことになります。その際には、弁護士のサポートが不可欠となりますので、少しでも有利な割合での財産分与を希望する場合には、弁護士に依頼をすることをおすすめします。 -
(3)慰謝料と財産分与は分けて考える
慰謝料的財産分与として、財産分与と慰謝料を一緒に請求していくこともできます。しかし、財産分与と慰謝料の問題を一緒にして考えると、どちらの項目にいくら支払われたのかが不明確になってしまいます。金額を曖昧にしてしまうと、本来もらえるはずの金額よりも少ない金額での財産分与になってしまうおそれもあります。
そのため、財産分与と慰謝料の双方を請求する場合には、財産分与にまとめて請求するのではなく、別々に請求していくようにしましょう。
4、財産分与における注意点とは
財産分与をする場合には、以下の点に注意が必要です。
-
(1)取り決めをした内容は書面に残しておく
夫婦間の話し合いによって財産分与の合意が成立した場合には、口頭での合意で終わらせるのではなく、必ずその内容を書面に残しておくようにしましょう。そして、分与される財産の支払いが将来にわたる場合には、その書面は、公正証書の形にしておくことをおすすめします。
公正証書とは、公証役場の公証人が作成する公文書のことをいいます。公正証書にしておく最大のメリットは、相手に金銭債務の不履行があった場合に、裁判を起こすことなく直ちに強制執行の申し立てをすることができるという点です。
通常は、合意内容が書面で残っていたとしても、裁判によって判決を得てからでなければ強制執行をすることができません。しかし、公正証書は、裁判という過程をスキップすることができますので、時間と費用を節約することができます。 -
(2)財産分与は税金がかかる場合がある
財産分与によって財産をもらうことになったとしても、原則として贈与税が課税されることはありません。それは財産分与によって新たに財産を取得することになったわけではなく、元々ある夫婦の財産を分けただけだからです。
ただし、財産分与によって得た財産の額があまりにも過大な金額であった場合には、例外的に贈与税が課税される可能性がありますので注意が必要です。
なお、財産分与によって得た財産が不動産であった場合には、名義変更にあたって登録免許税や固定資産税といった税金が課税されます。 -
(3)離婚後の財産分与には期限がある
財産分与は、離婚と同時に行うのが通常ですが、離婚後に請求することも可能です。しかし、離婚後、財産分与の請求をする場合には、期限がありますので、離婚が成立した日から2年以内に権利を行使する必要があります。
2年を経過してしまうと財産分与を請求する権利が消滅してしまいますので、離婚後は、早めに財産分与の請求をしていくようにしましょう。
5、まとめ
配偶者が不倫や暴力などをしていた場合には、慰謝料請求が可能ですが、財産分与にそれらの事情が影響を与えることはありません。そのため、相手が有責配偶者だからといって、多くの財産分与を請求できるというわけではないのです。
財産分与は、離婚後の生活にも大きな影響を与える事項ですので、財産分与を有利に進めるためにも弁護士への相談をおすすめします。弁護士に相談をすれば、正確な財産調査を行うことができ、状況に応じた最適な財産分与を主張することができます。また、弁護士が代理人になることで、相手と交渉をする必要がなくなるといったメリットがあります。
離婚や財産分与をお考えの方は、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています