介護離婚で後悔しないためのポイントと注意点を弁護士が解説
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足立区の統計資料によると、令和4年度に離婚届が受理された件数は1622件でした。離婚された方の中には、ご自身の両親や義両親の介護をきっかけとして、夫婦の関係が破綻して離婚された「介護離婚」も含まれていると考えられます。
本コラムでお伝えすることは、大きく以下の3つです。
・ 介護離婚とは、離婚に至る理由
・ 介護離婚で後悔しないためにも、まずは知っておくべき注意点
・ 介護を理由に離婚をすることはできるのか
介護をきっかけに離婚を考えている方やお悩みを抱えている方に向けて、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスの弁護士が解説します。
1、介護離婚とは
介護離婚とは、介護のストレスが原因で離婚する場合をいいます。自身の両親や、夫婦のどちらかの介護を理由とするケースもありますが、一般的には、義両親の介護を理由として離婚するケースが多いでしょう。
介護は、家族全員の問題であり、本来であれば協力して行うべきものです。しかし、仕事などを理由に、片方だけに介護を押し付けられてしまうケースもあります。
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(1)熟年離婚との違い
似たような言葉として、熟年離婚があります。熟年離婚というと、中高年や高齢者の夫婦が離婚する場合を指すと思うかもしれませんが、実はそうではありません。
熟年離婚に明確な定義はありませんが、一般的には、結婚生活が20年以上経過した後の離婚を指すことが多いです。介護の問題に直面する場合は、夫婦生活が長期にわたっていることも少なくないので、介護離婚であるとともに熟年離婚である場合が多くなるでしょう。 -
(2)介護離婚に至る理由
介護離婚に至る理由としては、介護の負担だけではなく、次のような事柄も要因になると考えられます。
- 誰にも感謝されない
- 夫や兄弟姉妹、親族の協力が得られない
- 両親(義両親)と不仲
- 自分の時間がない
- 心身ともに疲れてしまった
- 夫婦間の不仲
これらの理由から、介護をしたくないという気持ちが大きくなり、離婚を考えるようになってしまいます。
たとえ自身の両親であっても、誰にも感謝もされず、夫や親族の協力がない状況であると、誰にも相談できず、ひとりで疲れ切ってしまうでしょう。また、そもそも両親と不仲であったり、義両親の介護が必要になったりしたときに夫婦間が不仲であると、「介護したくない」と考えることもあるかもしれません。
2、介護離婚で後悔しないために考えるべきことと注意点
現実問題として、離婚をすると今後の生活に大きな影響が出ます。そこで、介護離婚をする前に考えるべきことやるべきこと、注意点を解説します。
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(1)介護離婚をする前に考えること
離婚をする前に、離婚後の生活について考えなければなりません。離婚をすると自身で生計をたてなければならないので、仕事に就いていない場合は仕事を探す必要があります。また、住居をどうするのか、財産分与や、子どもがいれば養育費についてなど、考えるべきことは多岐にわたります。
そうした、さまざまな問題が起こることを踏まえて、どのように離婚準備を進めていくべきかを、しっかりと考えましょう。 -
(2)介護離婚する前にすべきこと
介護離婚を決意したら、離婚を切り出す前に今後の生活の準備を始めましょう。たとえば、新しい住居を探したり、仕事を探したり、新しい生活の基盤を用意します。
また、離婚にあたっては、さまざまな費用が発生する可能性があります。そこで、しばらく生活できる程度の貯金をするなど、今後の生活を見据えた準備が必要となります。 -
(3)介護離婚の注意点
介護離婚の際に、特に注意すべき点としては、大きく
① 民法上の義務違反をしないこと
② 年金分割
③ 財産分与
の3つがあります。
- ① 民法上の義務違反をしないこと
「民法上の義務」とは、一般的には、貞操義務(不倫をしないこと)や夫婦間・親族間の扶助義務、同居義務などが該当します(民法752条)。
その中でも、介護疲れの場合に思わず違反してしまうおそれがあるのが、同居義務違反です。加えて、未成年者を連れて、配偶者の同意を得ることなく勝手に別居を始めてしまうと、共同親権導入後、親権についての協議の際に不利になる可能性もあります。別居したい場合は、しっかりと話し合ったうえで進めるほうがよいでしょう。
なお、話し合えない状況であれば、離婚することを前提として、弁護士から適切なアドバイスを受けることをおすすめします。 - ② 年金分割
従来、専業主婦は年金を受給することができませんでした。しかし、平成19年に年金分割制度ができたことで、専業主婦も、離婚後に夫の年金を分割して受けとることができるようになりました。年金は将来のことであるため忘れがちな内容ですが、今後の生活のためにもしっかりと年金分割の手続きをしましょう。
年金分割の請求期限は、離婚成立後2年となりますので、注意が必要です。
年金分割の対象となるのは、婚姻期間中の保険料納付額に対応する、厚生年金と共済年金の部分です。夫が独身時代に支払っていた年金分は、年金分割の対象外となります。さらに、受給年齢にならなければ受けとることができないため、注意が必要です。 - ③ 財産分与
財産分与とは、結婚生活中に夫婦で築き上げた財産を、それぞれの貢献に応じて分けることをいいます(民法768条1項)。割合としては、原則として2分の1ずつとされています。
早く離婚したいという気持ちが強くなると、財産分与の計算が正確に行われない場合もあります。しかし、今後の生活を支える資産にもなるため、しっかりと財産を開示し合い、話し合って清算するようにしましょう。
- ① 民法上の義務違反をしないこと
3、介護を理由に離婚できるケース・難しいケース
離婚をしたいと思っても、すぐに離婚できるとは限りません。そこで、どのようなケースであれば離婚ができるのか、また離婚が難しいケースについても解説するので、ご自身の現状と照らし合わせてみましょう。
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(1)配偶者との話し合いで離婚できるケース:協議離婚・調停離婚
夫婦間の話し合いで離婚ができる場合(協議離婚)には、お互いに納得したうえで離婚が成立するため大きな問題が起こらないことが多いでしょう。協議離婚の際には、財産分与や養育費などの離婚条件についても、双方が合意した条件になります。合意の際には、公正証書を作成するようにしましょう。
しかし、早く離婚したいという焦りや、夫婦間のパワーバランスから主張ができないなどの理由で、本来もらえるはずだった財産や慰謝料などを請求せずに終わってしまうケースもあります。そのため、離婚を切り出す前に弁護士に相談し、しっかりと準備をしてから離婚の話し合いを始めるようにしましょう。
なお、話し合いでは離婚同意できなかった場合は、離婚調停を申し立てることができます。調停は裁判所の手続きですが、調停委員を介した話し合いにより解決を図るものなので、双方が調停で合意すれば離婚が認められます。 -
(2)介護を理由に離婚できるケース:離婚裁判
夫婦間の話し合いや調停で離婚ができなかったとしても、法定離婚事由がある場合には裁判で離婚を求めることができます。法定離婚事由とは、民法上定められている離婚条件のことです。5つある条件のいずれかに該当すれば、離婚が認められます。
- 配偶者の不貞行為があった
- 配偶者から悪意の遺棄があった
- 配偶者の生死が3年以上明らかではない
- 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがない
- その他婚姻を継続し難い重大な事由がある
介護離婚においては、5つ目の「その他婚姻を継続し難い重大な事由がある」として離婚できる可能性があります。しかし、離婚事由に該当するのかを一般の人が判断するのは難しいため、弁護士に相談するのがよいでしょう。
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(3)離婚が難しくなるケース
離婚が難しくなる可能性があるケースとしては、配偶者が離婚に同意していないケースと自身が有責配偶者のケースです。
まず、配偶者が離婚に同意していないケースです。前述したように、話し合いで離婚が成立しない場合は、訴訟を提起し離婚を求めることになります。訴訟で離婚を求めるためには、法定離婚事由があることを立証しなければなりませんので、一定の証拠が必要となります。また、裁判になった場合は、多くの費用と時間がかかることになります。
次に、自身が有責配偶者の場合です。有責配偶者とは、不貞行為(不倫)をしている、DVの加害者、同居義務違反があるなどの場合が該当します。
この場合、離婚ができないわけではありませんが、慰謝料の支払いを求められる可能性があるほか、訴訟に至った場合は、有責配偶者からの離婚請求として離婚が認められない可能性もあるでしょう。
このようなケースでは、弁護士に相談し適切なアドバイスを受けることをおすすめします。
4、介護離婚について弁護士に相談するべき理由
介護に疲れ離婚を考えたとしても、何も準備をせずに離婚を切り出すのは得策とはいえません。離婚を考えているのであれば、弁護士に相談してみるのがよいでしょう。離婚について弁護士に相談すべき理由を解説します。
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(1)適切な条件を提示することができる
弁護士に相談すべき一番の理由は、適切な条件で離婚できる可能性が高まるためです。「介護がつらく、少しでも早く解放されたい」と思っているかもしれません。しかし、いざ離婚できたとしても、今後の生活に困ってしまうのでは後悔が残るでしょう。
結婚生活が長い場合は、持ち家や車、貯蓄などの財産もあることが多いため、財産分与が複雑になる可能性があります。弁護士に相談すれば、財産分与はもちろんのこと、年金分割や養育費の問題など、状況に応じた適切なアドバイスを受けることができます。
今後の生活の見通しがたてば、安心した状態で離婚準備を進めることができるでしょう。 -
(2)相手との協議を弁護士に任せられる
配偶者である相手方との協議を弁護士に任せることができます。離婚を決意した場合、「もう顔も見たくない」「話もしたくない」と考える方が多いでしょう。そうした状況で、配偶者とのやりとりをすべて弁護士に任せられるのは、精神的な負担を大きく減らすことができます。
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(3)正当な慰謝料額を算出できる
介護問題だけではなく、配偶者にモラハラや不貞行為などの不法行為があった場合には、慰謝料を請求できる可能性があります。弁護士に相談することで、証拠集めのアドバイスや、正当な慰謝料額の算出など、全面的なサポートを受けることができます。
5、まとめ
日々の介護に疲れ、離婚しようと考えている場合は、一度冷静になって、今後の生活を見据えた計画をすることが大切です。
ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスでは、お客さまのご事情をしっかり伺い、今後の生活や離婚問題への対応方法について、親身になってアドバイスいたします。介護離婚をお考えの際には、当事務所にご相談ください。
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