死後離婚とは? 選択した場合のメリットとデメリット
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婚姻は、配偶者の死亡によって解消します。しかし、配偶者が亡くなっても、配偶者の血族との間の親族関係(これを「姻族関係」といいます)は続きます。そのような場合には、姻族関係を終了する意思を表示することで、姻族関係を終了させることが可能です(民法728条2項)。
このように、配偶者の死亡後に姻族関係を終了させることを、「死後離婚」と呼ぶことがあります。死後離婚をすることにより、夫の両親の介護の負担から解放されるなどのメリットもありますが、「遺産相続や遺族年金に影響が生じるのではないか?」という不安を抱かれる方も多いでしょう。
本コラムでは、死後離婚とは何か、死後離婚を選択した場合のメリットとデメリットなどについて、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスの弁護士が解説します。
1、死後離婚とは?
まず、死後離婚という手続きの概要を解説します。
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(1)死後離婚により亡くなった配偶者の親族との関係を断つことができる
死後離婚とは、配偶者の死亡後に、配偶者の血族(父母、兄弟姉妹)との親族関係を終了させる手続きです。
死後離婚の正式名称は「姻族関係終了届」ですが、配偶者の死後に親族との関係を終わらせることができる手続きであることから、死後離婚と呼ぶことがあります。
婚姻すると、配偶者の血族との間で「姻族関係」が発生します。
配偶者が死亡したとしても、配偶者の血族との姻族関係が自動的に終了することはありません。
そのため、「姻族関係を終了させたい」と考えた場合には、死後離婚の手続きが必要になるのです。 -
(2)死後離婚と離婚との違い
通常の「離婚」は、配偶者の生前に行う手続きであり、離婚をすることにより、配偶者との婚姻関係は解消されます。
戸籍上も配偶者の戸籍から抜けて、新しい戸籍の編製を行うか、または、元の戸籍に戻るかを選択することができます。
また、「配偶者」(民法890条)という相続人としての地位も失うことになります。したがって、離婚すると配偶者が死亡しても遺産を受け取ることができなくなるほか、遺族年金を受け取る権利もなくってしまうのです。
これに対して、死後離婚は配偶者の死後に行う手続きであり、あくまで配偶者の姻族との関係を解消するためのものです。
「死後離婚」という言葉から、配偶者との間の婚姻関係も解消されるようなイメージを抱かれるかもしれませんが、実際には死後離婚によって配偶者としての地位が消滅することはありません。
そのため、死後離婚をしても、それまでと変わらずに遺産相続や遺族年金を受け取ることができます。
2、死後離婚のメリット
以下では、死後離婚のメリットを解説します。
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(1)義両親の扶養義務がなくなる
配偶者が死亡したとしても、配偶者の血族との姻族関係は終了しないため、法律上は、死亡した配偶者の両親の扶養義務が生じます(民法730条)。そのため、場合によっては義両親の介護や扶養をしなければならない可能性があります。
特に、夫が死亡した場合には、妻が夫の両親の介護も行うことになる事例が多々あります。残された妻としては、血の繋がっていない義両親の介護を行うことは、精神的にも肉体的にも大きな負担となるでしょう。
しかし、死後離婚をすれば姻族関係が解消されるため、法律上は、義両親の扶養をする義務がなくなるのです。 -
(2)義両親との同居の解消がしやすくなる
配偶者が亡くなる前から、義両親と同居していた場合には、配偶者が亡くなった後も義両親との同居が続くことが多いようです。
「同居の解消をしたい」と思っても、なかなか言い出すことができず、ずるずると同居が続く場合もあるでしょう。
お互いに良好な関係であればそれでも特に問題はないとしても、関係が良好でなかった場合には、間に入ってくれる配偶者を失い、より険悪な関係になってしまうおそれもあります。
死後離婚は、義両親に対して同居の解消を切り出すきっかけになります。
また、死後離婚によって法的な扶養義務がなくなれば、そもそも一緒に生活する必要性も少なくなるため、同居が解消しやすくなるでしょう。 -
(3)配偶者の遺産や遺族年金をもらうことができる
死後離婚は、配偶者との関係には一切影響は生じません。
そのため、配偶者が死亡した場合には、死後離婚をした後でも配偶者の相続人として遺産相続が可能です。
また、遺族年金の受給の場面においても亡くなった人の配偶者としての地位には影響は生じないため、引き続き遺族年金を受給することが可能です。 -
(4)お墓の管理をしなくてよくなる
慣習として、夫が死亡した場合には残された妻が祭祀承継者となって、お墓や仏壇などの管理を引き継ぐことがあります。
もともと不仲な夫婦であった場合には、夫が亡くなった後にも引き続きお墓や仏壇の管理をしなければならないことが負担やストレスに感じられてしまうでしょう。
死後離婚をすれば、通常は祭祀承継者として指定されることはないと考えられますので、お墓の管理などの負担を回避しやすくなります。 -
(5)夫婦関係に区切りをつけることができる
生前から夫婦仲が悪くて離婚を考えていた場合には、配偶者の死をきっかけに夫婦関係に区切りをつけたいと考える方もおられるでしょう。
死後離婚は、法律上は配偶者と「離婚」する方法ではありませんが、親族関係を解消することで、夫婦関係に対する気持ちとしての区切りもつけやすくなるでしょう。
3、死後離婚のデメリット
以下では、死後離婚のデメリットを解説します。
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(1)死後離婚が受理されるとその後に取り消すことができない
市区町村役場に姻族関係終了届を提出し、受理されてしまうと、それ以降は死後離婚を取り消すことができなくなってしまいます。
後悔することがないようにするためにも、死後離婚をするかどうかは慎重に判断することが大切です。 -
(2)亡くなった配偶者の親族に頼れない
死後離婚をすることで義両親の扶養をする必要がなくなるという点はメリットだとしても、ご自身が事故や病気により介護が必要になったときに義両親を頼ることができなくなってしまうという点はデメリットになります。
また、死後離婚は、亡くなった配偶者の親族の同意なく一方的に行うことができる手続きです。
一方的に関係を断ち切った場合には、義両親からの援助は期待できないでしょう。 -
(3)子どもとの関係が悪くなるおそれがある
死後離婚により、配偶者の親族との関係解消ができます。
しかし、子どもは配偶者の親族との間に血のつながりがありますので、妻が夫との親族との姻族関係を終了させたとしても、子どもと夫の親族との関係は解消することはできません。
子どもからすると「なぜお父さんの死後に離婚をするの?」といったような不信感を抱いて、残された親と子どもとの関係が険悪になってしまう事態も考えられます。 -
(4)自分のお墓の準備が必要になる
死後離婚のメリットとして、お墓や仏壇の管理の負担から解放されるという点が挙げられます。
しかし、自分が亡くなった後のお墓などは自分で探さなければならないという点がデメリットになります。
「配偶者との関係は良好であったものの、配偶者の親族との間でトラブルがあったために死後離婚をした」という場合には、愛していた配偶者とは別々のお墓に入らなければならないという点もデメリットになるでしょう。
4、死後離婚の手続き方法
以下では、死後離婚をするための手続きを解説します、
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(1)必要書類の準備
死後離婚の手続きには、以下のような書類が必要になります。
- 姻族関係終了届
- 戸籍謄本(亡くなった配偶者の死亡が記載されているものと本人のもの)
- 本人確認書類(免許証、保険証、マイナンバーカードなど)
- 印鑑
- 姻族関係終了届には、以下の記載事項がありますので、必要事項の記入を行います。
- 姻族関係を終了させる人の氏名、生年月日、住所、本籍
- 死亡した配偶者の氏名、死亡日、本籍
- 届出人の署名・押印
なお、死後離婚では、死亡した配偶者の親族の同意は必要ありません。
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(2)市区町村役場に提出
姻族関係終了届は、届出人の本籍地または住所地の市区町村役場に提出します。
姻族関係終了届の提出は、届出人本人だけではなく、使者による提出も可能です。
なお、姻族関係終了届の提出には期限は設けられていませんので、配偶者の死亡届の提出後であれば、いつでも提出することができます。 -
(3)旧姓に戻す場合には「復氏届」の提出
死後離婚をすることで配偶者の親族との関係は終了しますが、戸籍上は、引き続き亡くなった配偶者と同じ戸籍に入った状態となります。
そのため、死後離婚をしたとしても、姓が変わることはありません。
また、死後離婚のタイミングで、旧姓に戻す場合は、市区町村役場に「復氏届」の提出が必要となります。
さらに、子どもの姓や戸籍も変更したいという場合には、家庭裁判所に子の氏の変更許可申し立てを行わなければなりません。
5、まとめ
死後離婚をすることで、配偶者の親族との関係を解消することができます。
死後離婚の主なメリットは、義両親の介護や同居から解放されつつ、配偶者の遺産や遺族年金はこれまでと変わらずに受け取ることができるという点です。
配偶者の親族との関係で悩んでいる方は、死後離婚も選択肢のひとつとして検討してください。
離婚や遺産相続に関してお悩みを抱かれている方や疑問点がある方は、まずはベリーベスト法律事務所まで、お気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています