育休の給付金は収入扱いになる? 育休と婚姻費用や養育費、親権との関係

2023年09月26日
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育休の給付金は収入扱いになる? 育休と婚姻費用や養育費、親権との関係

令和4年度の東京都内の事業所を対象とした男女雇用平等参画状況調査によると、育休取得率は、男性が26.2%、女性が94.1%でした。前年度の調査と比較すると、男性の育休取得率は向上している一方で、女性の育休取得率は減少しています。

「育休中であったり育休を取得することを予定していたりするが、配偶者との離婚を検討している」という方は、育休が離婚条件に与える影響について気になるでしょう。たとえば育休中は雇用保険から育児休業給付金が支給されますが、養育費や婚姻費用の算定にあたっては、育児休業給付金は収入とみなされることになります。

養育費などの金額を決める際には、その点も考慮して話し合いを進めていく必要があるのです。本コラムでは、育休と婚姻費用・養育費との関係や離婚手続きの流れなどについて、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスの弁護士が解説します。

1、子どもがいる離婚で請求可能な費用

子どもがいる夫婦が離婚する際には、一方の配偶者は他方の配偶者に対して以下のような費用を請求することができます。

  1. (1)婚姻費用

    婚姻費用とは、夫婦が生活をしていくために必要になる費用であり、衣食住の費用や医療費、子どもの養育費、教育費、交際費などが含まれています

    離婚するまでは夫婦であることに変わりはなく、お互いに扶助義務を負っているので、離婚前に別居をするようなケースでは、収入の少ない側から収入の多い側に対して、婚姻費用を請求することができます。収入は、前年のものがベースになります。
    婚姻費用の金額などは、まずは夫婦の話し合いで決めることになりますが、話し合いによる解決ができない場合には家庭裁判所に婚姻費用分担請求調停の申し立てを行います。

  2. (2)養育費

    養育費とは、子どもの監護・養育に必要となる費用をいいます。
    婚姻費用には配偶者の生活費などが含まれていますが、離婚によって夫婦の扶助義務は消滅するため、養育費には配偶者の生活費は含まれていません

    養育費は、子の監護をする側から監護をしない側に対して請求することができます。
    まずは夫婦の話し合いにより養育費の金額などを決めますが、話し合いで解決できない場合には、離婚前であれば離婚調停、離婚後であれば養育費請求調停の申し立てをして養育費の取り決めを行うことになります。

2、育休の給付金は収入とみなされる?

以下では、育休中に雇用保険から支給される育児休業給付金が養育費や婚姻費用の算定にあたってどのように考慮されるかについて解説します。

  1. (1)養育費や婚姻費用の基本的な決め方

    養育費や婚姻費用を決める際には、一般的には、裁判所がホームページ上で公表している「養育費算定表」または「婚姻費用算定表」を利用します。
    これらは、養育費や婚姻費用の相場となる金額を簡単に把握するための表です。
    子どもの人数・年齢に応じて複数の表があり、夫婦双方の収入が交わる部分が養育費または婚姻費用の金額の相場となります。

    相場を知らずに話し合いをしていても、なかなか養育費や婚姻費用を決めることができず、不利な条件で合意してしまうおそれもあります。
    適切な金額を定めるためにも、算定表を用いながら、具体的な内容について話し合いを進めていきましょう

  2. (2)育休の給付金は収入として扱われる

    育休中は仕事をしていませんので、会社からは給料は支払われません。
    しかし、雇用保険に加入している会社員であれば、雇用保険から育児休業給付金が支給されます。

    このような育児休業給付金は、養育費や婚姻費用算定の際の収入として扱われる点に注意しましょう
    「仕事を休んでいるのだから収入はゼロとして計算すべきだ」と考える方もおられるかもしれませんが、実務上、育児休業給付金は養育費や婚姻費用算定の根拠となる収入に含まれるのです。
    ただし、育児休業給付金は、育児休業開始から180日目までは賃金の67%、181日目以降は賃金の50%が支給されるにとどまります。
    育休前に比べて養育費算定の根拠となる収入は低くなるので、原則として、育児休業給付金を受給したからといって、相手からもらうことができる養育費の金額が少なくなるということはありません。

3、親権と育休の関係

以下では、子どもの親権と育休の関係を解説します。

  1. (1)子どもの親権を判断する基準

    子どもの親権は、まずは夫婦の話し合いで決めることになります。
    しかし、話し合いではどちらが親権者になるかが決まらない場合には、調停や審判、さらに裁判などの法的手続きによっては決めることになります。

    裁判所では、以下のような基準に基づいて子どもの親権を判断しています

    ① 監護の継続性の原則
    離婚は、子どもにもストレスを与える出来事ですので、できるかぎり子どもへの影響を少なくすべきだと考えられています

    離婚により、引っ越しや転校することになれば、環境の変化により子どもは精神的にも多大なストレスを受けることになります。
    そのため、子どもの親権者には、現在子どもと一緒に生活し、監護を担っている人が指定されやすい傾向があります。
    これを「監護の継続性の原則」といいます。
    一般的に「親権が欲しいなら、別居する際には子どもを連れて行ったほうがよい」と言われているのも、監護の継続性の原則があるためです。

    ② 母性優先の原則
    幼い子どもにとっては母親による監護が不可欠となりますので、特段の事情がない限りは、幼い子どもの親権者には母親が指定されやすい傾向があります
    これを「母性優先の原則」といいます。

    「親権争いが生じた場合には母親のほうが有利だ」と言われているのも、母性優先の原則があるためです。
    ただし、父親にも十分な監護実績がある場合には、父親が親権を獲得できる可能性もあります。

    ③ 兄弟不分離の原則
    兄弟不分離の原則とは「2人以上の子どもがいる場合には、別々の親権者を指定するのではなく、兄弟が一緒に暮らせるよう一人の親権者にすべきである」というものです

    一緒に生活してきた兄弟姉妹は、精神的なつながりも強いため、離婚により別々に暮らすことになれば、精神的にも悪影響が及ぶおそれがあります。
    そのため、「兄弟不分離の原則」が存在するのです。

    ④ 子の意思の尊重
    親権者を判断する際には、子どもの意思も考慮したうえで、決められます

    子どもが15歳以上の場合には、子の意見聴取が法律上の義務とされています。
  2. (2)育休を取得したほうが親権者の判断では有利になる

    育休を取得するということは、一定期間、子どもの育児に専念するということです。
    親権の判断においては「子どもの監護実績がどの程度あるか」が重視されます。
    「仕事よりも子どもを優先して育休を取得した」という事情があれば、子どもへの愛情や監護実績が認められやすくなるでしょう

    親権争いになった場合には、父親と母親の双方が「自分のほうが育児に関わってきた」などの主張をすることが多いです。
    家庭内の監護状況を客観的に証明することは難しいため、裁判所などの第三者にとっても、「どちらの主張が正しいか」を判断するのは困難なことです。
    しかし、「育休を取得した」ということは、客観的に証明することができる事項ですので、育休を取得した証明書を提出することができれば、親権獲得が有利になるのです。

4、離婚の手続きの流れ

離婚をする場合には、以下のような流れで手続きを進めていきます。

  1. (1)協議離婚

    協議離婚とは、夫婦の話し合いで離婚を目指す手続きです
    離婚の際には、離婚するかどうかだけでなく、離婚する場合の条件(親権、養育費、慰謝料、財産分与など)についても話し合う必要がありますので、適切な条件で離婚するためには、専門家である弁護士のサポートが不可欠となります。

    弁護士であれば、本人の代わりに相手方との交渉を行うことができますので、相手方との交渉に伴う精神的な負担を軽減することができます。
    自分たちだけで話し合いをするのが難しいという場合には、弁護士に依頼しましょう。

  2. (2)調停離婚

    夫婦の話し合いで離婚がまとまらない場合は、家庭裁判所に離婚調停の申し立てをする必要があります
    離婚調停も話し合いの手続きですが、裁判所の調停委員が介入するため、冷静な話し合いを進めることができます。

    調停では、離婚に至る経緯や希望する離婚条件などを、調停委員を介して相手に伝えることになります。
    弁護士に依頼すれば、弁護士が調停期日に同行して調停委員への説得や書面の作成・提出を行うといったサポートを受けることができます。

  3. (3)裁判離婚

    調停でも解決できない場合には、最終的に家庭裁判所に離婚裁判を起こすことになります。
    裁判では、離婚するかどうかは裁判官が判断することになりますが、その際に重視されるのが「法定離婚事由」の有無です
    民法では以下の五つの事由を法定離婚事由と定めており、これらのいずれかの事由がなければ、原則として裁判で離婚を認めてもらうことはできません。

    • 不貞行為
    • 悪意の遺棄
    • 3年以上の生死不明
    • 回復の見込みのない強度の精神病
    • その他婚姻を継続し難い重大な事由


    裁判での離婚を視野にいれている場合には、そもそも裁判での離婚が可能であるかどうかを判断してもらうためにも、まずは弁護士に相談しましょう

5、まとめ

子どもが生まれた直後、または生まれる予定である場合には、多くの方は育休の取得を検討するでしょう。
育休を取得することによって育児休業給付金が支給されて、経済的な不安なく子育てに専念することができます。
また、もし離婚する場合にも、育休を取得したことは親権獲得に有利な事情として考慮される可能性があるため、育休は積極的に取得すべきだといえます。

育休中の離婚にあたっては、婚姻費用や養育費に関して考慮すべき事項が多々あります。
まずは、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスまでご相談ください

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