養育費はいらないと約束しても後から請求できる? 請求方法と注意点
- 養育費
- 養育費
- いらない
- 後から請求
離婚する際、一刻も早く離婚をしたいという思いから、「養育費はいらない」という条件で離婚を成立させてしまうことがあります。
しかし、離婚後の生活状況によっては、自分の収入だけでは子どもを養っていくことが難しい状況になることもあります。このような場合、すでに養育費はいらないと約束していても後から請求することはできるのでしょうか。
今回は、養育費を請求しない合意の有効性や、離婚時にはいらないとした養育費を後から請求する方法などについて、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスの弁護士が解説します。
1、「養育費はいらない」と言った場合、後から請求することは可能?
離婚時に「養育費はいらいない」という約束をした場合、養育費を後から請求することはできるのでしょうか。
-
(1)「養育費はいらない」という合意の有効性
「離婚時には経済的に困っていなかった」、「とにかく1日でも早く離婚をしたい」などの理由から養育費はいらないという合意をして離婚をすることがあります。
養育費は、必ず請求しなければならないというものではありませんので、このような合意も原則として有効なものとして扱われます。ただし、養育費はいらないという合意により、養育費の請求が一切禁止されるわけではなく、以下のような事情がある場合には、養育費を後から請求することができます。① 合意が成立したとはいえない場合
養育費はいらないという合意は、離婚協議書などの書面だけでなく口約束でも有効となります。
しかし、口約束での合意では、後日、そのような合意をしたことを客観的に証明することができず、合意の存在が認められないケースがあります。また、離婚時に感情的になってしまい「養育費はいらない」と言ってしまったケースでは、合意が成立したと評価できないケースもあります。
このように養育費はいらないという合意が成立したとはいえない場合には、離婚時に養育費の取り決めをしていなかったケースと同様に扱われますので、親権者は、養育費を後から請求することが可能です。
② 合意成立後に事情の変更があった場合
離婚時に養育費はいらないという合意をしたとしても、その後に事情の変更が生じれば、合意の効力は否定され、養育費を後から請求することができる場合があります。
事情の変更にあたるケースとしては、以下のケースが挙げられます。
- 離婚時には経済的に余裕があったため養育費はいらないという合意をしたが、その後、病気や失業によって経済的に苦しくなった
- 養育費の支払い義務者が無職などで養育費を支払う経済的余裕がないため、養育費はいらないという合意をしたが、その後、就職して経済的に余裕がでてきた
-
(2)合意が有効でも子どもからの扶養請求は可能
離婚をしたとしても、親子の関係は切れませんので、親は子どもを扶養する義務があります。また、反対に子どもは、親に対して扶養を求める権利を有しています。そのため、子どもは、親に対する扶養料請求権を行使することによって、養育費に相当する扶養料を請求することができます。
なお、扶養を受ける権利は処分できないとされていますので(民法第881条)、養育費の権利者と義務者との間で養育費はいらないという合意をしたとしても、そのような合意は、子どもとの関係では意味はありません。
2、養育費は過去の分も遡って請求できる?
過去の養育費についても遡って請求することはできるのでしょうか。
-
(1)養育費の取り決めがあれば請求可能
離婚時に離婚協議書、公正証書、調停調書などで養育費を具体的に取り決めしていた場合には、過去に遡って養育費を請求することができます。
ただし、長期間未払いになっている養育費がある場合には、時効によって権利が消滅しているケースもありますので注意が必要です。 -
(2)取り決めがなくても相手の合意があれば請求可能
離婚時に養育費はいらないという合意をしていた場合には、具体的な養育費請求権は、発生していませんので、過去の分を遡って請求することはできません。
しかし、養育費の支払い義務者が任意に支払うことが禁止されているわけではありませんので、支払い義務者が過去の養育費の支払いに応じてくれるのであれば、支払ってもらうことができます。そのため、まずは養育費支払い義務者との話し合いによって、支払いをお願いしてみるとよいでしょう。 -
(3)取り決めも合意もなければ過去の養育費を支払ってもらうのは困難
支払い義務者との話し合いでは解決できない場合には、家庭裁判所に養育費請求調停を申し立てることができます。
しかし、家庭裁判所の実務では、離婚時に養育費の取り決めのない事案については、具体的な請求権が発生していないとして、過去の分を遡って請求することを認めてはいません。そのため、養育費の取り決めや支払いの合意がない事案では、過去の養育費を支払ってもらうのは困難と言えるでしょう。
3、養育費を請求する方法と注意点
以下では、養育費を請求する方法と請求する際の注意点について説明します。
-
(1)養育費を請求する方法
後から養育費を請求する場合には、以下のような方法で行います。
① 話し合い
養育費が必要な状況になった場合には、まずは、権利者と義務者との話し合いを行います。離婚時に養育費はいらないという約束をしていた場合、いきなり支払いを求めてもなかなか応じてくれませんので、養育費が必要になった状況を説明して相手に納得してもらうことが重要です。
② 養育費請求調停
相手との話し合いで養育費の支払いに関する合意に至らない場合には、家庭裁判所に養育費請求調停の申し立てをします。
調停では、裁判所の調停委員を介して話し合いが進められますので、当事者同士の話し合いに比べて、スムーズな話し合いが期待できます。また、調停では、基本的には養育費算定表に基づいて金額が決められますので、収入に関する資料(源泉徴収票、給与明細など)を提出する必要があります。
③ 審判
調停は、基本的には話し合いの手続きにありますので、当事者の合意が得られない場合には、調停は不成立になります。調停が不成立になると、自動的に審判という手続きに移行し、家庭裁判所の裁判官が養育費の支払いの要否、金額などを判断してくれます。
養育費はいらないという合意をしていたとしても、その後の事情変更を主張立証していくことで、養育費の支払いを認めてもらえる可能性があります。 -
(2)養育費を請求する際の注意点
養育費を請求する際には、以下の点に注意が必要です。
① 養育費の請求権には時効がある
過去の未払い分の養育費がある場合には、一定期間が経過すると時効によって養育費を請求する権利が消滅してしまいますので注意が必要です。
当事者間で養育費の支払いの合意をしていた場合の時効期間は5年、調停や審判で養育費の支払いが決められた場合の時効期間は10年とされています。長期間未払いになっている養育費がある場合には、早めに請求していくことが重要です。
② 話し合いで決めた内容は公正証書にする
後から養育費を請求し、合意に至った場合には、口頭での合意で終わらせるのではなく、必ず書面に残しておくことが大切です。そして、その際には、公正証書にしておくのがおすすめです。
養育費の不払いがあった場合、一般的な合意書だと、調停や審判をしなければ、強制執行の手続きをとることができません。しかし、執行認諾文言付きの公正証書であれば、養育費の不払いがあったとしても、直ちに強制執行の申し立てを行い、相手の財産を差し押さえることが可能です。
将来の不払いのリスクに備えて、話し合いで決めた内容は公正証書にしておくようにしましょう。
4、養育費に関する問題を弁護士に相談するメリット
養育費に関する問題でお悩みの方は、弁護士に相談することをおすすめします。
-
(1)後から請求できるか判断してもらえる
養育費はいらないという合意をしていた場合には、原則として有効な合意として扱われます。しかし、一定の事情がある場合には、そのような合意があったとしても養育費を後から請求できるケースもあります。また、養育費ではなく子どもの扶養請求という形で扶養料を請求することも可能です。
養育費はいらないという合意があるからといって、養育費の請求を諦めるのではなく、まずは弁護士に相談してみましょう。法的観点から養育費請求の可否を判断しもらうことができます。 -
(2)養育費の請求手続きを任せることができる
養育費の請求をする場合には、相手との話し合いをする必要があります。しかし、離婚後に元配偶者と話し合いをしなければならないというのは精神的にも大きいなストレスになります。弁護士であれば本人に代わって相手との交渉をすることができますので、自分で対応するのは難しいという方は、弁護士に依頼するとよいでしょう。
また、相手との話し合いで解決できない場合には、家庭裁判所の調停や審判を利用することになりますが、弁護士に依頼すれば、調停や審判のサポートも受けることができます。
適正な養育費を請求していくためにも弁護士のサポートは不可欠ですので、まずは、弁護士に相談するようにしましょう。
5、まとめ
離婚する際に、養育費はいらないという合意があったとしても、後から請求して養育費を支払ってもらえる可能性はあります。どのようなケースであれば請求できるのかについては、法的判断が必要となりますので、まずは弁護士に相談するとよいでしょう。
経済的な状況が悪化したなどの理由で、後から養育費の請求をお考えの方は、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています