労災申請後、不支給決定通知書が届いた! 納得できないときの対処法
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東京労働局のデータによれば、2021年に東京都内で発生した労働災害により、死傷した労働者は12876人(前年比2231人増)でした。そのうち死亡者数は77人(前年比38人増)で、特に建設業の死亡者数が多くなっています(28人)。
業務中や通勤中に事故に遭い、労災保険給付を請求したものの、労働基準監督署の審査に通らず「不支給決定通知書」が届く場合があります。労災保険の不支給決定通知書が届いた場合、不服があれば「審査請求」が認められます。
審査請求の期間は3か月と短いので、お早めに弁護士までご相談ください。今回は、労災保険の不支給決定通知書を受け取った場合の対処法などについて、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスの弁護士が解説します。
(出典:「令和3年労働災害発⽣状況を公表〜死亡者数は4年ぶりに増加、休業4日以上の死傷者数は4年連続増加〜」(東京労働局))
1、労災保険の不支給決定通知書とは
労災保険の「不支給決定通知書」とは、労働者が請求した労災保険給付につき、支給しないことを決定した旨を伝える労働基準監督署長発行の書面です。
各種の労災保険給付には支給要件が設けられており、労働基準監督署が審査のうえで、支給の可否を判断しています。審査の結果、労災保険給付の支給要件に該当しないと認定された場合には、申請した労働者に対して、労働基準監督署長の名義で不支給決定通知書が送付されます。
2、労災認定されなかった場合、医療費の負担はどうなる?
労災保険給付のうち、医療費をカバーする「療養(補償)給付」が不支給となった場合、医療費は自己負担となります。
ただし、健康保険を適用して自己負担額を抑えることができますので、保険者(健康保険組合・全国健康保険協会(協会けんぽ)など)に連絡して必要な手続きを取る必要があります。
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(1)労災認定されない場合は、健康保険を適用できる
業務上発生した労働者のケガや病気については、かつては健康保険の適用が一律不可とされていました。しかし、労災保険の療養(補償)給付が不支給となった場合、労災保険・健康保険のいずれの適用も受けられず、医療費が全額自己負担となってしまうのは労働者にとって酷です。
そこで、2013年10月1日から健康保険の給付範囲が改正され、労災保険の業務災害と認定されないケガや病気については、業務上発生したものであっても健康保険の適用を受けられるようになりました。健康保険を利用することによって、医療費の自己負担額を3割程度に抑えることができます。 -
(2)健康保険の適用を受けるための対応
労災認定を受けられなかったケガや病気の医療費について、健康保険を適用するためには、以下の方法で手続きを行いましょう。
- ① まだ医療費を支払っていない場合
医療機関の窓口で健康保険を適用してほしい旨を伝えましょう。
その際、労災保険の不支給決定通知書などを併せて提出します。 - ② すでに医療費を支払った場合
加入している健康保険の保険者(健康保険組合・協会けんぽなど)に連絡して、健康保険を適用してほしい旨を伝えましょう。
労災保険の不支給決定通知書などを提出したうえで、適用が認められれば、すでに支払った医療費のうち保険適用分の還付を受けられます。
- ① まだ医療費を支払っていない場合
3、労災認定の基準は?
労災認定を受けられるのは、「業務災害」と「通勤災害」のいずれかに該当する場合です。
特に、業務とケガや病気の間の因果関係が問題になりやすい脳・心臓疾患と精神障害については、厚生労働省が認定基準を策定・公表しています。
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(1)業務災害の要件
業務災害とは、業務上の事由によって生じた労働者の負傷・疾病・障害・死亡のことです。
「業務遂行性」と「業務起因性」の2つの要件を満たした場合に、業務災害が認定されます。- ① 業務遂行性
被災労働者と使用者との間に指揮監督関係があることを意味します。実労働時間中に起こった災害はもちろん、参加が事実上強制されている宴会や運動会であっても、業務遂行性の要件を満たし得ます。また、出張中の災害であっても、労働者として業務上の都合からそのような状態に置かれており、使用者による支配下にあることに変わりないため、業務遂行性を満たし得ます。 - ② 業務起因性
使用者の業務と労働者の負傷等の間に、合理的な原因・結果の関係(相当因果関係)があることを意味します。そのため、自然災害や犯罪行為などの外部の力に起因して生じた場合には、業務起因性が否定されます。もっとも、そのような自然災害などを受けやすい場所で働いていた場合など、業務に内在する危険が現実化したといえるときには、業務起因性を満たし得ます。
- ① 業務遂行性
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(2)通勤災害の要件
通勤災害とは、通勤中に生じた労働者の負傷・疾病・障害・死亡のことです。
以下の要件をすべて満たす場合に、通勤災害が認定されます。- ① 住居・就業場所・単身赴任先住居の間の移動中に発生したこと
以下のいずれかの移動中に発生した負傷等のみが対象となります。
(a)住居と就業場所の間の移動
(b)就業場所から他の就業場所への移動
(c)単身赴任先住居と帰省先住居の間の移動 - ② 業務と密接な関連のある移動中に発生したこと
移動の当日に就業する予定があった場合、または現実に就業した場合のみが対象となります。ただし、単身赴任先住居と帰省先住居の間の移動に限り、就業日の前日・翌日の移動も通勤災害の対象です。 - ③ 合理的な経路・方法による移動中に発生したこと
合理的な理由なく遠回りや寄り道をした場合は、移動経路からの「逸脱」や「中断」があったとされ、それ以降は通勤災害の対象から除外されます。 - ④ 移動が業務の性質を有しないこと
移動そのものが業務の一環である場合は、業務災害の認定対象です。 - ⑤ 通勤途上の災害が、自然現象や犯罪行為などの外部の力によって生じたものではないこと
ただし、そのような災害が生じやすい通勤途上の場合など、通勤に内在する危険が現実化したものといえる場合は、「通勤災害」に当たることがあります。
- ① 住居・就業場所・単身赴任先住居の間の移動中に発生したこと
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(3)脳・心臓疾患に関する労災認定基準
以下のいずれかに該当する脳血管疾患・虚血性心疾患については、厚生労働省が策定した脳・心臓疾患に関する労災認定基準が適用されます。
① 脳血管疾患- 脳内出血(脳出血)
- くも膜下出血
- 脳梗塞
- 高血圧性脳症
② 虚血性心疾患- 心筋梗塞
- 狭心症
- 心停止
- 解離性大動脈瘤(りゅう)
また、これらの脳血管疾患・虚血性心疾患について労災認定がされるのは、以下のいずれかの出来事・業務によって、労働者が明らかな過重負荷を受けた場合です。
- ① 異常な出来事
→突発的・予測困難な異常事態、急激で著しい作業環境の変化など - ② 短期間の過重業務
→発症前おおむね1週間に、日常業務と比べて特に負荷の重い業務に就労したこと - ③ 長期間の過重業務
→発症前おおむね6か月間に、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと
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(4)精神障害に関する労災認定基準
業務上の原因によると思われる急性ストレス障害やうつ病などについては、厚生労働省が策定した精神障害に関する労災認定基準が適用されます。
精神障害について労災認定がされるのは、以下の要件をすべて満たす場合です。- ① 『国際疾病分類第10回修正版(ICD-10)第V章』において「精神および行動の障害」に分類される精神障害を発病していること
- ② 対象疾病の発病前おおむね6か月間に、業務による強い心理的負荷が認められること
- ③ 業務以外の心理的負荷および個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと
4、労災保険の不支給決定に対する審査請求の方法
労災保険の不支給決定に納得できない場合は、審査請求による異議申し立てが認められています。
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(1)審査請求先は、労働局の労災保険審査官|口頭での審査請求も可能
労災保険の不支給決定に関する審査請求先は、各都道府県労働局の労働者災害補償保険審査官です。
審査請求の用紙は、労働基準監督署や都道府県労働局で交付を受けられますので、必要事項を記載したうえで労災保険審査官に提出します。
なお、審査請求は口頭でも行うことができますが(労働保険審査官および労働保険審査会法第9条)、事実関係を正確に伝えるためには、書面で審査請求を行うことが推奨されます。 -
(2)審査請求の期間は3か月|早めの対応を
審査請求の期間は、労災保険の不支給決定があったことを知った日(=不支給決定通知書の受領日)の翌日から起算して3か月間です(労働保険審査官および労働保険審査会法第8条第1項)。
この期間を経過すると、遅れたことの正当な理由を疎明しない限り、審査請求を行うことができなくなってしまうので、注意が必要です。
5、審査請求後に被災労働者が取るべき対応
労働保険審査官に対して審査請求を行っても、それが必ず認められるとは限りません。
もし審査請求に対する決定に不服がある場合には、さらに再審査請求・取り消し訴訟の手続きを取ることができます。
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(1)審査請求結果に不服の場合は、再審査請求
審査請求に対する労働保険審査官の決定に不服がある場合は、労働保険審査会に対して、再審査請求を行えます。
再審査請求の用紙は、審査請求と同じく、労働基準監督署や都道府県労働局で交付を受けられます。なお、審査請求とは異なり、再審査請求については文書である必要があります(労働保険審査官および労働保険審査会法第39条)。
再審査請求の期間は、審査請求に対する決定書の謄本が送付された日の翌日から起算して2か月間です(同法第38条第1項)。
審査請求よりも期間が短いので、早めの対応が必要となります。 -
(2)再審査請求結果に不服の場合は、取り消し訴訟
再審査請求に対する労働保険審査会の決定に不服がある場合は、裁判所に取り消し訴訟(行政事件訴訟法第8条)を提起して、決定の効力を争うことができます。
なお取り消し訴訟は、再審査請求を経ることなく、審査請求に対する決定についても行うことができます。ただし、不支給決定通知書を受領(じゅりょう)した段階で取り消し訴訟を提起することはできない点に注意が必要です(労働者災害補償保険法第40条)。
6、まとめ
労災保険の不支給決定通知書が送られてきたら、不支給の理由を確認したうえで、審査請求などによる異議申し立てを検討しましょう。
また、労災保険給付が受給できなくても、会社に対する損害賠償を請求できる可能性はありますので、弁護士へのご相談をおすすめいたします。
労災の被害に遭い、会社への損害賠償請求をご検討中の方は、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスにご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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