強制執行の通知が届いた! 差し押さえるものがない場合はどうなる?

2023年03月09日
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強制執行の通知が届いた! 差し押さえるものがない場合はどうなる?

足立区では消費生活相談に関する相談窓口を設けており、令和3年度の多重債務における相談件数は91件で、前年度と比較すると6件増加しています。

長期間借金の返済を滞納してしまうと、債権者が裁判所に強制執行の申し立てをして、債務者の財産を差し押さえることがあります。差し押さえは、債務者の財産を対象にして行う手続きですので、債務者に差し押さえるものがない場合には、強制執行を回避することができる可能性もあります。もっとも、強制執行を申し立てることのできる回数は一度きりというわけではありませんので、差し押さえを回避できたからといって放置するのではなく、借金問題の解決に向けて動くことが大切です。

今回は、差し押さえるものがない場合の強制執行の手続きと強制執行を回避するための対処法などについて、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスの弁護士が解説します。

1、支払いを滞納した場合、差し押さえはどのように行われる?

支払いを滞納した場合、どのような流れで差し押さえがなされるのでしょうか。以下では、滞納から差し押さえまでの一般的な流れについて説明します。

  1. (1)強制執行・差し押さえとは

    強制執行とは、債務者が任意に借金の返済をしない場合において、債務者の財産を差し押さえて、それをお金に換え、滞納している借金に充当する債権回収の手続きです
    債権者が裁判所に強制執行を申し立て、裁判所から債権差押命令や強制競売の開始決定等がなされると、債務者本人は当該財産の処分を禁じられ、債務者の意思にかかわらず強制的に換価されてしまいます。

  2. (2)滞納から差し押さえまでの流れ

    借金の返済を滞納した場合には、以下のような流れで財産の差し押さえが行われます。

    ① 電話・郵便での督促
    借金の返済を滞納すると、まずは債権者から電話での督促が行われます。そして、そのまま滞納を続けると、今度は、はがきや封書などの書面による督促に切り替わります。一括での支払いを求める請求書が届くこともあります。

    ② 差押予告通知
    電話や郵便による督促を無視していると、滞納者の自宅に債権者から差押予告通知が届きます。差押予告通知は、債権者からの最後通告ですので、指定された期日までに借金の一括返済を行わなければ訴訟提起や支払督促の申し立てがなされることになります

    ③ 裁判所からの支払督促、裁判
    債権者が債務者の財産を差し押さえるには、「債務名義」が必要になります。これは、公的機関が債権の存在を証明した文書で、裁判所の判決や仮執行宣言付き支払督促などがこれにあたります。
    差押予告通知後も返済を行うことができないと、債権者は、訴訟外での解決は困難だと考え、差し押さえに向けて、支払督促の申し立てや訴訟提起などの法的手段に踏み切ることになります。

    ④ 強制執行の申し立て
    支払督促や裁判によって債務名義を取得した債権者は、債務者の財産を差し押さえるために、強制執行の申し立てを行います。

2、強制執行で差し押さえを受ける財産の範囲

強制執行を申し立てればどのような財産でも差し押さえられるわけではありません。以下では、差し押さえができる財産とできない財産について説明します。

  1. (1)差し押さえできる財産

    強制執行で差し押さえることができる代表的な財産としては、以下の財産が挙げられます。

    ① 不動産
    債務者が土地や建物を所有している場合には、不動産を対象にした差し押さえがなされます。代表的なケースとしては、住宅ローンの返済を滞納した場合に、不動産を担保に取っている金融機関が行う不動産競売があります。
    なお、不動産執行によって自宅が差し押さえられてしまうと、住む場所を失ってしまうなどの支障が生じます。

    ② 債権
    債務者が有している債権も差し押さえの対象になります。債権のなかでも特に差し押さえがされやすいものとしては、会社から支払われる給与債権や銀行に預けている預金債権が挙げられます。ただし、給料については、後述するように一定範囲が差し押さえ禁止とされていますが、それ以外の部分であれば差し押さえが可能です。
    給料や預貯金は、生活していくために必要な財産ですので、それらが差し押さえられてしまうと、生活が成り立たなくなるおそれがあります。

    ③ 動産
    後述する差押禁止動産を除き、債務者の有する動産も差し押さえの対象になります。ただし、動産の差し押さえについては、一定程度価値のあるものでなければ差し押さえはされませんので、宝石、貴金属、ブランド品などがなければ動産執行の申し立てはなされないケースが多いです。
  2. (2)差し押さえできない財産

    強制執行で差し押さえることができない財産としては、以下の財産が挙げられます。

    ① 差押禁止動産
    債務者の生活に不可欠となる財産や宗教、教育、プライバシーなどの観点から以下の動産については、法律上、差し押さえが禁止されています。

    • 生活になくてはならない衣服、寝具、家具、台所用具、畳および建具、家電
    • 債務者の1か月間の生活に必要な食料と燃料
    • 66万円までの現金
    • 仕事に不可欠な器具
    • 実印
    • 仏像、位牌(いはい)
    • 系譜、日記、商業帳簿
    • 勲章
    • 学校での学習に必要な書類や器具
    • 発明または著作に係る物でまだ公表されていないもの
    • 義手、義足


    ② 差押禁止債権
    債務者の最低限の生活の確保のため、給料、賞与などの債権のうち差し押さえの対象になるのは、4分の1に相当する部分とされています。残りの4分の3については差し押さえが禁止されていますので、手元に残すことができます。ただし、給料などが44万円を超える場合には、33万円を超える部分が差し押さえの対象になります。

    また、債務者の生活のために支給されている以下のような公的給付についても差し押さえが禁止されています。

    • 国民年金などの各種年金の受給権
    • 生活保護受給権
    • 児童手当受給権


    もっとも、銀行口座に入金された場合は、通常の預金債権となるため、差し押さえの対象になり得る点には注意が必要です。

3、差し押さえる財産がなければ、強制執行はどうなる?

差し押さえる財産がない場合には、強制執行はどうなってしまうのでしょうか。

  1. (1)差し押さえ対象財産がない場合、強制執行はされない

    強制執行の申し立ての際には、債権者の側で、差し押さえの対象となる財産を特定したうえで申し立てを行わなければなりません。たとえば、「A銀行○○支店の普通預金口座」、「株式会社○○から支給される給料」のような内容です。
    しかし、債権者が、差押対象財産を特定できなかった場合や、債権者が特定した財産がそもそも存在していなかった場合には、差し押さえ自体が空振りに終わってしまい、財産の差し押さえがなされることはありません。たとえば、勤務先からの給与債権を差し押さえたとしても、すでに退職していた場合には、債権が存在しないことになるので、差し押さえができなくなります。

  2. (2)差し押さえができない場合のリスク

    債権者による差し押さえが空振りに終わったとしても安心してはいけません。差し押さえが空振りになったとしても、以下のようなリスクがありますので、注意が必要です。

    ① 債権回収を実現するまで何度も強制執行を受ける可能性がある
    強制執行の申し立ては、申し立て時点に存在する財産が対象になりますので、その時点で債務者に財産がなかった場合には、差し押さえは空振りに終わります。
    しかし、強制執行の申し立ては、一度だけしかできないものではありません。そのため、数年後債務者が財産を形成したタイミングで再度差し押さえがなされる可能性があります。

    ② 保証人に対して請求される可能性がある
    借金をする際に保証人を付けることがあります。債権者が、お金を貸した本人から回収ができないと判断した場合には、保証人に対して請求することになります。親戚や友人に保証人を頼んでいた場合には、自分の借金の滞納によって多大な迷惑をかけることになる可能性があります。

4、強制執行は回避できない? 強制執行の通知が届いた場合の対処法

強制執行の通知が届いた場合には、以下のような対処法を検討しましょう。

  1. (1)債権者との交渉

    債権者が裁判所に強制執行の申し立てをする前であれば、債権者と支払方法や支払時期について交渉することで、強制執行を待ってもらえる可能性があります。債権者との交渉によって解決を希望する場合には、できるだけ早いタイミングのほうが解決の可能性が高くなりますので、訴訟提起前のタイミングで話し合いを行うとよいでしょう

  2. (2)支払督促に対する異議申し立て

    支払督促とは、裁判所書記官が、債権者の申し立て内容だけを審査して、債務者に対して金銭の支払いを督促する手続きです。この段階では、債務者側の主張は一切できていないので、裁判所から支払督促が届いた場合には、2週間以内に裁判所に異議申し立てをして、通常の訴訟手続きに移行するようにしましょう。
    訴訟手続きでは、債権者からの請求内容について審理が行われるとともに、分割払いや減額などの返済計画の話し合いをすることもできます。和解の意向がある場合には、異議申し立てを行い、裁判の場で債権者と話し合いをするとよいでしょう。

  3. (3)弁護士に相談

    ひとりでは債権者と交渉を行うことが難しい、借金を返済していくことができないなどの状況にある場合には、早めに弁護士に相談をすることをおすすめします。

    弁護士に相談をすることによって、任意整理、自己破産、個人再生のなかから債務者に最適な債務整理の方法を提案できますので、効率的な借金問題の解決が可能となります

    任意整理とは、債権者との交渉によって返済方法や利息などの変更を求める方法です。自己破産とは、裁判所の手続きによって借金をゼロにしてもらう方法です。個人再生とは、裁判所の手続きによって借金を大幅に減額し、分割で返済をしていく方法です。
    それぞれ、債務整理の方法には、メリットだけでなくデメリットも存在しますので、専門家である弁護士に相談をして、最適な方法をアドバイスしてもらうことが必要です。

    また、債務整理手続きには、複雑な手続きが多くありますが、弁護士に依頼することで手続きを一任することができるので安心です。

5、まとめ

債務者に差し押さえるものがない場合には、強制執行は空振りに終わり、財産を差し押さえられることはありません。しかし、将来にわたって再度差し押さえを受けるリスクが潜んでいますので、安心して生活をするためにも早めに弁護士に相談をして、債務整理を行うことが大切です。

借金でお困りの方は、まずはベリーベスト法律事務所 北千住オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています