DV防止法における保護命令とは|違反すると逮捕される?
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足立区では、男女共同参画社会の実現を目指して行動計画を策定しており、DV(配偶者暴力)の防止に向けて積極的な姿勢を取っています。相談無料のDV被害に関する相談窓口が設置され、自治体として問題解決に向けた取り組みが行われています。
DVの防止において、自治体への相談や警察による事件化・検挙とともに重要な役割を担っているのが「保護命令」です。保護命令はDV被害者の安全を守るために発令されるものであり、法的な強制力をもつため、この命令に違反すると厳しい処分を受けます。
本コラムでは「保護命令」がどのようなものなのかを確認しながら、違反したら逮捕されるのか、逮捕されてしまった場合はどうすればよいのかを解説します。
1、「保護命令」とは?
DVの加害者として突然「保護命令」が下されれば、一体どんな命令なのかという疑問や、なぜ命令を受けなければならないのかという憤りを感じることもあるでしょう。
保護命令がもつ意味や法的な根拠を確認します。
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(1)保護命令の意味
保護命令とは、DV被害者が配偶者からさらなる暴力や脅迫によって生命・身体に重大な危害を受ける事態を防ぐために、地方裁判所が発する命令です。なお、生命等に対する脅迫以外の精神的な攻撃もDVですが、これは保護命令の対象ではありません。
DV被害者からの申し立てによって発令されるもので、申し立てに先立って配偶者暴力相談センターや警察に対して被害の相談や援助・保護を求めることになります。
ただし、配偶者暴力相談センターや警察への相談がない場合でも、被害の状況や禁止命令を求める事情を公正証書化し、申立書に添付することで申し立てが可能です。 -
(2)保護命令の根拠は「DV防止法」
保護命令は、配偶者からの暴力の防止および被害者の保護等に関する法律、通称「DV防止法」を根拠としています。
DV防止法は、「犯罪となる行為をも含む重大な人権侵害である」配偶者からの暴力を防止し、被害者を保護するために制定された法律です。配偶者からの暴力に関する通報や相談、保護、自立支援などの体制を整備する根拠となっており、その目的を達成するための有効な方法のひとつとして、保護命令が存在しています。
なお、DV防止法には「DV行為をはたらいてはならない」といった禁止規定や、DV行為そのものに対する罰則は設けられていません。国・地方公共団体・関係機関の義務や責任に関する規定が中心で、罰則が設けられているのは禁止命令違反と虚偽による保護命令申し立ての2つです。
2、保護命令によって禁止・命じられる行為5つ
保護命令は法的な強制力をもつ「命令」であり、背くことは許されません。
ここで挙げる5つの命令に背くと「保護命令違反」となります。
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(1)被害者への接近禁止命令
被害者の身辺のつきまといや、住居・勤務先などの付近を徘徊(はいかい)する行為が禁止されます。命令の効力は6か月です。
DV被害者の多くは、加害者からの接触に恐怖を感じています。加害者の恐怖におびえることのない平穏な生活は何よりも強い望みであり、さらなる被害を防ぐためにも、もっとも有効な対策なので、被害者への接近は厳しく禁止されるのです。 -
(2)被害者への電話等禁止命令
被害者に対する次の8つの行為は、発令から6か月にわたって禁止されます。
- 面会を要求すること
- 行動を監視していると思わせるような事項を告げ、またはその知りうる状態に置くこと
- 著しく粗野・乱暴な言動をすること
- 無言電話・連続した電話・FAX送信・電子メール送信
※親族の訃報を知らせるなど、緊急・やむを得ない場合を除く - 午後10時から午前6時までの間の電話・FAX送信・電子メール送信
※緊急・やむを得ない場合を除く - 汚物・動物の死体など、著しく不快または嫌悪の情を催させるような物を送付し、またはその知りうる状態に置くこと
- 名誉を害する事項を告げ、またはその知りうる状態に置くこと
- 性的羞恥心を害する事項を告げ、もしくはその知り得る状態に置き、または性的羞恥心を害する文書・写真・画像などを送付し、もしくはその知り得る状態に置くこと
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(3)被害者と同居する子への接近禁止命令
被害者と同居をしている未成年の子どもへのつきまといや、子どもが通っている学校などの付近を徘徊(はいかい)する行為が6か月にわたって禁止されます。ただし、子どもへの接近禁止命令は単体では発令できず、接近禁止命令と同時に発令されます。
なお、子どもの年齢が15歳以上の場合は、子ども自身の同意が必要です。 -
(4)被害者の親族等への接近禁止命令
被害者の親族や社会生活において密接な関係を有する者へのつきまといや身辺の徘徊(はいかい)が6か月にわたって禁止されます。
子への接近禁止と同様で、被害者自身への接近禁止命令と同時に発令する必要があるほか、親族・関係者の同意が必要です。 -
(5)住居からの退去命令
被害者と同居している場合に、その住居からの退去と、住居付近の徘徊(はいかい)が禁止されます。住居の所有・契約の名義は問わないので、マイホームや加害者名義で賃貸契約を交わしているアパート・マンションでも退去しなければなりません。
期間は2か月で、被害者は安全を確保できている間に引っ越しなどの避難を進めるケースが多いでしょう。
3、保護命令に違反すると逮捕される?
「保護命令違反」は、DV防止法において処罰の対象である2つの行為のうち、DV加害者を罰する唯一の規定です。警察庁が公開している「令和3年におけるストーカー事案および配偶者からの暴力事案等への対応状況について」によると、令和3年中に保護命令違反で検挙された件数は69件でした。やはり、保護命令に違反した場合は警察に逮捕されてしまうのでしょうか?
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(1)保護命令違反は逮捕される可能性が高い
罪を犯したことが事実でも、必ず逮捕されるわけではありません。逮捕には「逃亡または証拠隠滅をはかるおそれ」という逮捕の必要性が求められるため、これらが認められない場合は逮捕が認められないのが原則です。
ただし、保護命令はDV被害者の保護を目的として裁判所が発した「命令」であり、法的な強制力をもっているため、あえて違反する行為は極めて悪質であると評価されます。当然、被害者などへの接近はさらなる危害へとつながる可能性があるため、緊急的な対応として逮捕の必要性が認められるおそれが高いでしょう。 -
(2)保護命令違反の罰則
保護命令に違反すると、DV防止法第29条の規定によって、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられることになります。
違反時の状況によっては、暴行罪・傷害罪・未成年者略取罪といった別の犯罪が成立し、厳しく処罰される可能性もあるので、命令は厳守しなければなりません。
4、逮捕されたらどうする? すぐに取るべき対応
夫婦の間にはさまざまなトラブルが起こります。保護命令違反で逮捕されたときは、どのように対応すればよいのでしょうか?
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(1)弁護士に接見を依頼する
警察に逮捕されると、警察・検察官の段階で、最長で72時間にわたる身柄拘束を受けます。この期間は、親族・友人・会社の上司や同僚を含めて、誰との面会も認められません。逮捕された本人が面会できるのは弁護士だけです。
まずは早急に弁護士による接見を依頼し、今後の見通しや取り調べについてのアドバイスを受けましょう。また、突然逮捕されてしまうと、親族や会社側も「行方がわからない」「連絡が取れない」という事態になることが考えられますが、弁護士を介しての親族などへの連絡は可能です。 -
(2)早期釈放を目指したサポートを受ける
逮捕による身柄拘束の期間は最長で72時間ですが、引き続き身柄拘束をする必要が認められればさらに「勾留」という手続きが取られるおそれがあります。勾留は原則で10日間、延長されて10日間、合計で最長20日間もの期間になります。逮捕されたときから数えると最長23日間にわたる身柄拘束を受けるかもしれません。
弁護士のサポートがあれば、保護命令に違反した事情や背景を捜査機関にはたらきかけて勾留請求を見送らせる、裁判官に事情を説明して勾留請求の却下を求めるといった対策が期待できます。 -
(3)厳しい刑罰の回避に向けたサポートを受ける
保護命令違反には、厳しい刑罰が設けられています。刑罰を回避するためには、検察官による「起訴」の阻止がもっとも重要です。
保護命令に違反した事情や背景にやむを得ない事情があったことを客観的に証明して検察官にはたらきかけることで、検察官が起訴を見送って「不起訴処分」とする可能性もあるので、弁護士のサポートは欠かせません。
裁判官が量刑を判断する際にはさまざまな事情が考慮されるため、必ず懲役が言い渡されるわけではありません。DV加害者として反省する気持ちがあり、再犯防止に取り組んでいるという姿勢を示すことで、懲役に執行猶予がつく、罰金刑になる、などの可能性もあります。
弁護士のサポートを得ながら、二度とDV行為をしない旨の誓約書を裁判所に提出する、DV加害者としての更生カウンセリングを受けるといった対策を講じましょう。
5、まとめ
保護命令が発令されると、DV加害者は被害者への接近や連絡などが禁止されるほか、住居からの退去を命じられます。「しっかり話し合いたい」「自分の家に帰るのだから問題はないはずだ」といった理由を並べても、裁判所の命令に背けば逮捕され、厳しく処罰される可能性があるでしょう。
保護命令違反の容疑で逮捕されたとき、まず優先すべきは「弁護士の接見」です。
早い段階で弁護士がサポートを尽くすことで、早期釈放や厳しい刑罰の回避が期待できます。
保護命令違反に関するトラブルやお悩みを解決したいと望むなら、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスへご相談ください。経験豊富な弁護士がサポートします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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