同性間でも「わいせつ罪」は成立する|具体例や注意点を解説

2023年11月27日
  • 性・風俗事件
  • 同性
  • わいせつ
同性間でも「わいせつ罪」は成立する|具体例や注意点を解説

足立区では性的マイノリティ当事者を支援する施策をおこなっています。「あだちLGBT相談窓口」の開設や、令和3年4月からは「足立区パートナーシップ・ファミリーシップ宣誓制度」を導入するなど、多様な性を認め合うことのできる社会づくりが進められているのです。

性の多様化が認められつつある現代においては、「わいせつ」に関する罪の考え方も従来とは変わりつつあります。とくに、同性間におけるわいせつ行為についても罪が成立するということは多くの人にも認められるようになりました。

令和5年9月には、車の中で男が10代男性の下半身を触った疑いで警察に逮捕される事件が起きました。本コラムでは、同性間のわいせつ行為に適用される罪や刑罰、同性間でわいせつ行為が罪になる典型的なケースなどについて、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスの弁護士が解説します。

1、わいせつな行為に適用される罪

まず、わいせつな行為をした場合に適用される罪について解説します。

  1. (1)わいせつな行為には「不同意わいせつ罪」が適用される

    他人に対してわいせつな行為をはたらくと、刑法第176条の「不同意わいせつ罪」に問われます。

    本罪は、令和5年7月に刑法が改正されるまでは「強制わいせつ罪」「準強制わいせつ罪」という罪名でした。
    これらの法律には、暴行や脅迫を用いてわいせつな行為をしたり、相手の心神喪失や抗拒不能に乗じてわいせつな行為をしたりといった者を罰するという要件があります。
    しかし、この要件が存在すると、「嫌だ」と感じたが暴行・脅迫までは存在しなかった、心神喪失や抗拒不能といえるまでの状態ではなかったといった評価を受けた場合、たしかにわいせつな行為が存在しても加害者を罰することができないという点が問題視されてきました。
    そのため、令和5年7月の改正により強制わいせつ罪と準強制わいせつ罪を統合し、犯罪の成立要件を「同意していない」という点に絞った「不同意わいせつ罪」が生まれたという経緯が存在します

  2. (2)不同意わいせつ罪が成立する要件

    不同意わいせつ罪が成立する要件は、以下の3点です。

    • 「不同意」であること
    • わいせつな行為があったこと
    • 相手が16歳以上であること


    本罪の成立にあたって大きなポイントとなるのは、従来までの強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪とは異なり「不同意」という要件があることです。
    本罪における不同意とは、単に「同意していない」という意思表示がなされたという場合に限りません。
    次に挙げる8つの行為・事由が原因となって同意しない意思を形成・表示・全うすることが困難な状態は「不同意」としています

    • 暴行または脅迫
    • 心身の障害
    • アルコールまたは薬物の影響
    • 睡眠そのほかの意識不明瞭
    • 不意打ちなど、同意しない意思を形成・表明・全うするいとまが存在しない
    • フリーズなど、予想と異なる事態との直面に起因する恐怖や驚愕(きょうがく)
    • 虐待に起因する心理的反応
    • 経済的・社会的関係上の地位に基づく影響力による不利益の憂慮


    これらは、いずれも「同意する・しない」という意思を示すいとまがない、その判断ができない、本当の意思を示すことにためらいを感じるといったものです。
    「相手が本心から同意していない限り、わいせつな行為をすると不同意わいせつ罪に問われる可能性がある」と認識しておくべきでしょう。

    また、医療行為などを装って相手にわいせつな行為ではないと誤信させたり、人違いをしていることを悪用してわいせつな行為をしたりといった場合も、不同意わいせつ罪に問われます。

    不同意わいせつ罪が従来の強制わいせつ罪と大きく異なるもうひとつのポイントが「性的同意年齢」の引き上げです。
    性的同意年齢とは、性的な行為について自分自身で正しく認識し、同意する能力が備わる年齢を指します。

    令和5年7月の刑法改正まで、性的同意年齢は「13歳」とされていましたが、改正後は「16歳」に引き上げられました
    16歳未満が相手となった場合、たとえ本人から同意を得ていても性的に未成熟であり正しく理解したうえで同意したとはいえないので、わいせつな行為があると不同意わいせつ罪が成立します。
    なお、相手が13歳以上16歳未満の場合は、相手と加害者の年齢差が5歳以内であれば本罪に問われません。

2、わいせつな行為の典型例

不同意わいせつ罪は、不同意であること、性的同意年齢を超えていることを前提に「わいせつな行為」がある場合に成立します。
「わいせつな行為」とは、いたずらに性欲を興奮・刺激させて、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものという行為のことを指します。
簡単にいえば、性的に「いやらしい」と感じさせるような行為はわいせつな行為にあたる可能性が高いのです
具体的には、下記のような行為が「わいせつな行為」にあたります。

  • 胸や尻といった性的な部位を触る
  • 素肌に直接触れる
  • 抱きつく
  • 唇にキスをする
  • 首筋を舌でなめる
  • 服を脱がせて裸にする


これらは、夫婦や恋人同士などの間でお互いが同意したうえで交わすべき行為といえます。
そのため、見知らぬ人にいきなり抱きついて身体を触ったり、無理やりキスしたりするといった行為は犯罪になるのです。

なお、これらのわいせつな行為は、一般的に「性欲を満たしたい」という意図をもっておこなわれるものです。
裁判所も、法的に性的な意図がなければわいせつ罪は成立しないと考えていました。
しかし、性的な意図がなければわいせつ罪が成立しないと考えた場合、たとえば嫌がらせの目的で衣服を脱がせて辱めたといったケースまで刑罰が軽い別の罪で処罰されるにとどまるという問題が生じます。

現在は、わいせつ罪の成立には必ずしも性的意図を必要としないという考え方が通説になっているため、嫌がらせなどの目的でわいせつな行為をはたらけば処罰される可能性があるのです

3、同性間でもわいせつ罪が成立するケース

一般的に、わいせつ罪は異性、とくに男性が女性に対して行われるケースが多い犯罪です。
しかし、冒頭で紹介したとおり、実際には同性間でも罪を問われる事例も存在します。

以下では、同性間でもわいせつ罪が成立する場合について解説します。

  1. (1)不同意わいせつ罪は性別に関係なく成立する

    犯罪が成立する要件は、法律が定めている条文に照らして設けられています。
    そして、不同意わいせつ罪の条文をみると、どこにも性別に関する記述は存在しません
    つまり、相手や加害者の性別に関係なく、不同意の状況でわいせつな行為がなされれば不同意わいせつ罪が成立するのです。

    「わいせつ」といえば、男性が女性に対してわいせつな行為が行われるケースを想像する方も多いでしょう。
    しかし、男性が男性にわいせつな行為をする場合や女性が女性にわいせつな行為をする場合などの同性間における行為や、女性が男性に対してわいせつな行為が行われた場合にも、不同意わいせつ罪は成立するのです。

    なお、不同意わいせつ罪は婚姻関係を結んでいる夫婦の間であっても成立する可能性があります。
    被害者と加害者の間の関係にかかわらず成立するという点で、非常に厳しい犯罪だといえます。

  2. (2)同性間で不同意わいせつ罪が成立するケース

    同性の間であっても、相手の同意を得られていない状況でわいせつな行為がなされれば、不同意わいせつ罪が成立します。
    具体的には、下記のような行為に対しては不同意わいせつ罪が成立する可能性があるのです。

    • 性的な意図をもって男性が男性の下半身を触った
    • 酒に酔って男性が男性にキスをしたト
    • 女性が女性の胸をもんだ
    • 嫌がらせ目的で女性が女性の衣服を無理やり脱がせた

4、不同意わいせつ罪で科せられる刑罰

不同意わいせつ罪にあたる行為があった場合、まず警察が被害者からの申告を受けて認知して捜査を進め、検察官が裁判所に起訴することで刑事裁判へと発展します。

以下では、不同意わいせつ罪に関して有罪となった場合に科される可能性のある刑罰について解説します。

  1. (1)不同意わいせつ罪の法定刑

    犯罪には、刑罰の種類や上限・下限の範囲を定めた「法定刑」が設けられています。
    複数の罪を犯した、法律上の軽減措置を受けられる状況があるなどの事情で加減されるケースはありますが、基本的に法定刑の範囲を超えることはありません。

    不同意わいせつ罪の法定刑は「6か月以上10年以下の拘禁刑」です。
    最短でも6か月、最長では10年にわたって自由な生活を制限され社会から隔離された状態が続く重罪であると認識しておいてください。

  2. (2)「拘禁罪」とは

    「拘禁刑」は、刑法改正によって新たに創設された刑罰です。

    従来の懲役と禁錮を一元化したものであり、刑務所に収容し、個々の受刑者の性格や身上、犯した罪の種類や重さなどに応じて、改善・更生により効果的な処遇を柔軟に課すことができるという特徴をもっています。
    懲役と同じように作業に従事させる、禁錮と同じように作業には従事させない代わりに改善プログラムを受講させるといった処遇が想定されており、受刑者の再犯防止に高い効果を発揮すると期待されているところです

    ただし、拘禁であっても、懲役や禁錮よりも刑罰が軽くなるわけではありません。
    定められた刑期の間は刑務所に収容されて自由が大幅に制限されることに変わりはないので、金銭を納めることで刑が終了する罰金と比べると厳しい刑罰だといえます
    不同意わいせつ罪には罰金の規定がないので、有罪判決を受けると執行猶予がつかない限り必ず刑務所へと収容されるという点では、重罪だといえます。

    なお、拘禁刑は令和5年10月の段階ではまだ施行されていません。
    令和7年6月17日までのどこかのタイミングで施行される予定であるため、拘禁刑の施行までは、従来の強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪と同じく懲役が科せられます。

5、同性間でわいせつ事件を起こしてしまったら弁護士に相談を

同性間であっても、わいせつな行為を行えば不同意わいせつ罪が成立する可能性があります。
性的な意図の有無にかかわらず罪を問われて刑罰が科せられるおそれもあるため、トラブルになってしまったら弁護士への相談を急いでください。

  1. (1)被害者との示談交渉による穏便な解決が期待できる

    不同意わいせつ罪には、必ず被害者が存在します。
    そのため、被害者に対してわいせつな行為をしてしまったことを深く謝罪し、被害によって生じた損害や精神的苦痛に応じた慰謝料などを含めた示談金を支払うことで、警察への届出を見送ってもらったり、すでに届け出済みの被害届や刑事告訴を取り消してもらったりできれば、逮捕や厳しい刑罰を回避できる可能性を高められます。

    ただし、不同意わいせつ事件の被害者は、加害者に対して強い怒りや嫌悪の感情を抱いているでしょう。
    加害者が直接交渉を進めようとしても、話し合いはおろか、連絡さえ拒まれてしまう可能性が高いといえます
    したがって、被害者との示談交渉は弁護士に依頼することをおすすめします。

  2. (2)事件化してしまっても処分の軽減が期待できる

    不同意わいせつ罪は、被害者からの刑事告訴を要しない「非親告罪」です。
    たとえ被害者からの被害届や刑事告訴がなくとも、捜査機関の判断で事件化できます

    しかし、被害者に対して謝罪や賠償を尽くしたという事実は、検察や裁判所も無視することができません。
    すでに謝罪と賠償を尽くしていれば、検察官の段階で「あえて起訴する必要はない」という判断に結びついて不起訴が得られたり、裁判官が「すでに一定の社会的な責任を果たしている」と評価されて執行猶予つきの判決を得られたりする可能性を高められます。

    また、処分の軽減を目指すためには、再犯防止対策も欠かせません。
    性的な衝動を抑えるためのカウンセリングや改善プログラムを受けるといった対策も有効です。
    弁護士であれば、処分の軽減に有効な対策について、法律の専門知識や同様の事件を扱った経験に基づいて判断することができます。

6、まとめ

同性間であっても、相手の同意を得ずにわいせつな行為を行うと刑法の不同意わいせつ罪が成立します。
わいせつ犯罪への社会的な目は非常に厳しく、警察・検察官といった捜査機関や裁判官も強い姿勢で臨んでくるので、逮捕や刑罰を避けるのは難しいでしょう。
もし、同性間のわいせつトラブルで罪を問われる事態に発展した場合は、できるだけ早く弁護士に相談して、穏便な解決に向けたサポートを受けましょう。

刑事事件の解決は、ベリーベスト法律事務所におまかせください。
わいせつ事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が、逮捕や厳しい刑罰の回避を目指して全力でサポートします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています