公金横領罪とは? 業務上横領との違いや該当する事例について解説

2023年09月05日
  • 財産事件
  • 公金横領罪
公金横領罪とは? 業務上横領との違いや該当する事例について解説

国や自治体の所有に属する金銭は「公金」と呼ばれます。公金は、その目的の達成に限定して用いられるべきものなので、当然、公金を扱う職員などが自由に使うことは許されません。

ここで気になるのが、国や自治体からの補助金や給付金を受けながら運営しているNPO団体が扱う金銭も「公金」にあたるのかという問題です。しばしば、NPO団体における資金の使い道についても「公金横領罪ではないのか?」といった批判をされることがあります。ただし、そもそも「公金横領罪」という犯罪は法律で規定されておらず、公金横領罪だと批判される事例の多くは実際には「業務上横領罪」にあたります。

本記事では業務上横領罪の成立要件やNPO法人の関係者による横領が発覚した実例などについて、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスの弁護士が解説します。

1、「公金横領罪」とは?

公金横領罪という犯罪は存在しませんが、公金を横領することは「業務上横領罪」にあたる可能性があります。

  1. (1)公金横領罪という犯罪は存在しない

    「公金横領罪」という名称の犯罪は、刑法にもほかの法律にも存在しません。
    また、公金を保護の対象に限定して横領した者を罰する犯罪も存在していません。

    メディアやSNSなどでは、公金を扱う公務員や公金による支援を受けている団体や協会などは、とくに健全や潔白を求められる立場なので、一般企業で起きた横領事件や不正支出と区別する意味で「公金横領罪」と指摘されることはあります。
    しかし、法律的には存在しない、あくまで造語であることを理解しておいたほうがよいでしょう。

  2. (2)公金を横領すると業務上横領罪に問われる

    公金横領罪という犯罪は存在しませんが、公金を横領する行為は刑法第253条の「業務上横領罪」に問われます

    業務上横領罪とは、業務上自己の占有する他人の物を横領した者を罰する犯罪です。
    たとえば、「企業の集金担当者が客から支払いを受けた現金を自分の懐に入れる」行為などが業務上横領罪にあたります。
    そして、民間企業の管理するお金のみならず、自治体や省庁などが管理する「公金」を横領することも、業務上横領罪で処罰される対象になります。

    業務上横領罪の法定刑は10年以下の懲役です。
    刑法第252条の横領罪、いわゆる「単純横領罪」の法定刑は5年以下の懲役ですが、業務上横領罪は単純横領罪の加重類型ですので、単純横領罪よりも業務上横領罪は厳しい刑罰が設けられています。

2、業務上横領罪が成立する要件とは?

以下では、業務上横領罪の構成要件について解説します。

  1. (1)業務性があること

    業務上横領罪と単純横領罪を区別する重要な要件が「業務性があること」です。

    ここでいう業務とは「社会生活上の地位にもとづいて反復継続して行われる事務」を指し、営利業務か非営利業務かは問いません。
    一般的な会社員や公務員などの「仕事」にあたる業務はもちろん、NPO法人などの非営利団体や学校のPTAといった任意団体の事務も「業務」にあたります

  2. (2)自己の占有する他人の物であること

    本罪が保護するのは「自己の占有する他人の物」です。
    具体的には、「業務上の地位や関係を前提に、他人から保管や管理を任されている財物」となります。

    他人から財物の保管や管理などを任される立場を「委託信任関係」といいます。
    団体の責任者や金銭の会計事務を担当する職員などは委託信任関係があるため業務上横領罪によって処罰される対象になりますが、単に機械的な作業として金銭を扱うだけの窓口係員などは本罪の処罰対象には含まれない、と考えられています。
    もっとも、委託信任関係がなければ「窃盗罪」など別の犯罪が成立するので、犯罪にならないわけではないことに注意しましょう。

  3. (3)横領行為があること

    「横領行為」とは、委託の任務に背いて、その者につい権限がないにもかかわらず、自己の占有する他人の物を自分の物にしたり、自分の物のように自由に処分したりする行為のことです。

    「自分の懐や預金口座に入れる」「自宅へ持ち帰る」「勝手に消費する」といった行為が本罪によって処罰される可能性があります。

3、NPO法人の関係者による横領が発覚した実例

以下では、NPO法人の関係者による横領が発覚した実際の事件を紹介します。

  1. (1)成年後見人として管理していた口座から金銭を着服

    令和4年12月、成年後見人の紹介業務を担っていたNPO法人の元理事長が業務上横領罪の容疑で在宅起訴されました。
    成年後見人の立場を悪用し、財産管理を任されていた7人の口座から合計約2500万円を払い戻すなどして横領したとのことです。

    成年後見人は、判断能力が不十分な人が不利益を被らないために、家庭裁判所の手続きを経て適切な財産管理や契約行為の支援などを行います。
    業務上横領罪における「業務」は非営利業務であっても該当しますので、本件のようにNPO法人の業務で成年後見人であったとしても、その立場を利用して横領を行えば業務上横領罪が成立するおそれがあります。

  2. (2)NPO法人の運営資金を着服

    平成25~26年にかけて、役員や会計事務を担当していた二つのNPO法人から運営資金を着服した男が、業務上横領罪の容疑で逮捕されました。
    着服した金銭は趣味や家賃の支払いなどに充てられており、犯行を隠蔽(いんぺい)するために複数回にわたって横領を繰り返していたとのことです。

    この事件では、被害弁償のめどもなかったことから裁判官は「犯情は相当悪質で、被告人の責任は重い」として、懲役2年8か月の実刑判決を言い渡しました。

4、横領が発覚したらかならず逮捕される? 穏便に解決する方法

公金に限らず、管理や保管を任されている金銭の横領が発覚してしまった場合、横領した人としては「逮捕されるのだろうか?」ということが不安になるでしょう。

以下では、もし横領が発覚してしまった場合に、逮捕を避けて穏便に解決する方法についても考えていきます。

  1. (1)横領が発覚しても逮捕されるとは限らない

    横領が発覚したからといって、かならず刑事事件に発展して逮捕されるわけではありません。
    「逮捕」とは、犯罪の容疑がある人について、逃亡や証拠隠滅を図る事態を防ぐために身柄を拘束し、正しい刑事手続きを受けさせるために行われる強制処分のひとつです。
    国民としての権利を強く制限する手続きであるため、裁判官が審査したうえで許可したことを示す「逮捕状」の発付がなければ、逮捕は認められません。

    任意の出頭要請に真摯に対応し、事情聴取に素直に応じている、証拠品の提出など捜査に協力する姿勢を示しているなど、逃亡や証拠隠滅を図るおそれが認められない場合は、逮捕されずに在宅事件として捜査が進む可能性があります

    もっとも、在宅事件になったからといって、起訴や不起訴の判断において有利になったり、罪が軽くなったりするわけではありません。
    在宅のまま検察官が起訴に踏み切るケースもあるので、逮捕されなかったとしても不起訴になることが確定しているわけではありません。

  2. (2)代表者・責任者でも横領にあたる可能性がある

    自身がNPO法人などの代表者や責任者でも、私的に運営資金などを着服したり流用したりすれば業務上横領罪に問われるおそれがあります。
    この点は、営利目的の一般企業と同じです。

    団体や会社の運営資金などは個人の財産ではないので、代表者や責任者でも自由に使ってはいけません。監査などの機会を通じて不正が発覚してしまうと、刑事告訴され、刑事事件になる可能性があります。
    また、自治体に発覚すれば、公務員には告発義務があるため、関係官庁への報告とあわせて告発される可能性があることも認識しておいてください。

  3. (3)横領トラブルを解決したいなら弁護士のサポートが必須

    業務上横領罪にあたる行為があった場合は、解決に向けて素早くアクションを起こさなければなりません。
    対応が遅れると、警察に被害届が提出されてしまうなど、告訴・告発される可能性が高まります。

    すぐに弁護士に相談しましょう。

    弁護士に依頼すれば、穏便な解決に向けたサポートを受けることができます。
    横領事件をもっとも穏便に解決する方法は「示談」です
    「横領額に相当する弁済を尽くす」「横領額が大きい場合は財産状況を開示して分割での弁済を誓約する」などの対応を取りながら、警察への届け出を見送るように、弁護士が窓口となって被害者(団体など)と交渉します。

    また、もし刑事事件に発展してしまった場合でも、弁護士は取り調べにおける対応をアドバイスしたり、加害者にとって有利となる事情を示す証拠を集めたりするなどの弁護活動を行います。
    団体・協会との示談がまとまり、加害者本人の深い反省や「二度と罪を犯さない」という誓約が認められた場合には、検察官が起訴を見送って不起訴としたり、刑事裁判でも執行猶予付きの判決が言い渡されたりする可能性を高められるでしょう。

5、まとめ

「公金横領罪」という犯罪は存在しませんが、公金を扱う業務のなかでNPO団体の資金などを着服すれば業務上横領罪に問われます。たとえ代表者や責任者であっても、団体の資金を着服すれば業務上横領罪に該当しますので、刑事事件に発展するおそれがあります。
いちどでも横領をしてしまった方は、すぐに、弁護士に相談してください。

横領トラブルの解決は、ベリーベスト法律事務所にお任せください。
業務上横領をはじめとして刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が、穏便な解決を目指して全力でサポートします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています