会社の金銭を少額でも横領したときは逮捕や解雇になる?
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警視庁が公表している統計によると、令和5年に足立区内で認知された占有離脱物横領は116件、その他知能犯の件数は26件でした。
会社のお金を自分の懐におさめる行為は「業務上横領罪」にあたります。そして、業務上横領が発覚すれば、大々的に実名を報じられてしまう事態は避けられないでしょう。
ニュースや新聞で報じられている横領事件の多くは数千万円・数億円といった巨額を着服して逮捕されたケースばかりです。では、少額の横領なら逮捕されないのでしょうか? 少額なら素直に告白すれば会社からの解雇を免れられるのかも気になるところです。
本コラムでは、会社の金銭を横領したときに問われる罪や事件と解雇の関係について、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスの弁護士が解説します。
1、少額でも犯罪? 会社の金銭を横領したときに問われる罪
売上金など会社の金銭を横領する行為が犯罪にあたるというのは常識でしょう。しかし、立場や状況によって適用される罪が変わるという点は、詳しく知らない方も多いはずです。
会社の金銭を横領したときに問われる罪を確認していきましょう。
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(1)横領で問われる罪と刑罰
会社の金銭を横領したときに問われる罪として考えられるのは、次の2つです。
- 業務上横領罪(刑法第253条)
- 窃盗罪(刑法第235条)
業務上横領罪は「業務上自己の占有する他人の物を横領した者」を罰する犯罪で、10年以下の懲役が科せられます。
仕事の関係において管理を任せられている金銭を、自分の懐に入れたり、勝手に使ったりすれば本罪の処罰対象です。本罪における「業務」とは一般的にイメージする営利目的の仕事に限らないので、たとえば非営利の団体やPTAなどの任意団体の金銭を横領しても罪に問われます。
窃盗罪は「他人の財物を窃取した者」を罰する犯罪です。法定刑は10年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
金銭の管理を任されていない立場で会社の金銭を自分のものにした場合は、業務上横領罪ではなく窃盗罪が適用される可能性が高いでしょう。たとえば、コンビニで接客を担当しているアルバイト従業員が売上金を懐に入れたり、外回りの営業社員が会社の金庫に忍び込んで保管金を盗んだり、といった場合は窃盗罪の処罰対象になる可能性が高いです。 -
(2)横領の罪の成否に金額は関係ない
刑法の条文をみると「業務上自己の占有する他人の物を横領した者」や「他人の財物を窃取した者」と明記されています。いずれも「物」や「財物」とされており、金額などの基準は示されていません。
ニュースなどで報じられるのは数千万円・数億円といった巨額の横領事件ばかりですが、少額なら罪にならないと考えるのは間違いです。法律上の考えに従えば、たとえ1円でも懐に入れれば業務上横領罪や窃盗罪が成立します。
もちろん、ごく少額の被害しか発生していないケースまで等しく処罰されるとは断言できませんが、少なくとも「少額なら罪にならない」などと考えてはいけません。 -
(3)横領が発覚すると解雇されるのか?
会社の金銭を横領したことが発覚した場合、会社から解雇を言い渡される可能性が高いでしょう。解雇には普通解雇・整理解雇・懲戒解雇の3種類があります。
- 普通解雇
病気やケガによる労働能力が低下した、業務に必要な能力が足りないなど、労働者側の債務不履行を主たる理由としたもの - 整理解雇
経営不振の打開や経営の合理化を目指して人員を削減するもの - 懲戒解雇
労働契約の不履行を理由に制裁として下すもの
整理解雇はいわゆるリストラの際におこなわれるものなので、横領とは関係ありません。すると、この場合は普通解雇・懲戒解雇が適法なのかという点が問題になります。
いずれの場合も、就業規則に解雇事由に関する規定として「横領などの罪を犯したこと」や「業務を継続できないやむを得ない事由があったこと」などの条項が存在していれば、横領の事実がある限り解雇は適法となる可能性が高いです。特に会社の金銭を横領したといったケースは、会社の信任を裏切る重大な行為として、懲罰的に懲戒解雇が認められる可能性が高いでしょう。
通常、会社が労働者を普通解雇や懲戒解雇にする場合は、解雇の30日前までに解雇を予告するか、予告せず即日で解雇するには30日分の平均賃金にあたる解雇予告手当の支給が必要です。
ただし、労働者側に一方的な責任があって解雇する場合は、労働基準監督署の認定があればこの定めが適用されない「除外認定」が下され、手当が支給されないまま即日解雇されるかもしれません。
また、就業規則に退職金の不支給規定がある場合は、会社側が「横領が発覚した以上、退職金は支給しない」と主張する可能性があり、支給を受けるのが難しい場合もあるでしょう。 - 普通解雇
2、逮捕の種類と逮捕後の流れ
では、逮捕の種類や逮捕後の流れを確認していきましょう。
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(1)逮捕の種類
逮捕には3つの種類があります。
- 通常逮捕
- 現行犯逮捕
- 緊急逮捕
通常逮捕とは、裁判官が発付した令状に基づいて犯罪の容疑者の身柄を拘束する逮捕で、日本国憲法が定める令状主義にのっとった原則的な逮捕として存在しています。
現行犯逮捕とは、罪を犯したそのとき、その場で容疑者の身柄を拘束する逮捕です。緊急性が高いうえに警察官や目撃者が罪を犯した現場を確認しているので、裁判官の令状を必要とせず、さらに捜査機関に所属していない一般の私人でも逮捕が許されています。
現行犯逮捕できない状況であっても、一定の重大犯罪に限り、逮捕状の発付を受けずに逮捕が認められるのが緊急逮捕です。逮捕の時点では令状を要しない代わりに、逮捕後は直ちに令状を請求し、発付された令状を示すか、令状が発付されなかった場合は釈放しなくてはなりません。
これらは、あくまでも逮捕という厳格な刑事手続きの種類として区別されているだけであり、身柄拘束の期間や罪の重さを左右するものではありません。 -
(2)罪を犯しても必ず逮捕されるわけではない
会社の金銭を横領したケースでは、横領の事実について調査が尽くされたうえで警察に届け出がなされるのが一般的です。すると、逮捕の種類としては現行犯逮捕・緊急逮捕が認められる可能性は低く、ほとんどが捜査を経て裁判官の令状発付を得て通常逮捕される流れになるでしょう。
ただし、横領が発覚したからといって必ず逮捕されるとは限りません。そもそも「逮捕」とは、被疑者の逃亡や証拠隠滅を防ぎ、正しい刑事手続きを受けさせるために身柄を拘束する手続きです。つまり、逃亡や証拠隠滅の可能性がない限り、逮捕は法的に認められません。
罪を自白して素直に供述している、定まった住居を有しており逃亡のおそれがない、すでに必要な証拠収集が尽くされており証拠隠滅の可能性がない、被害者と示談が成立しているまたは示談交渉をしているといった状況があれば、逮捕されず任意の「在宅捜査」として進められる可能性もあるでしょう。 -
(3)逮捕後の流れ
警察に逮捕されると、次のような流れで刑事手続きが進みます。
- 逮捕
逮捕状が執行されると直ちに身柄拘束が始まります。身柄拘束の期間は48時間以内で、警察署の留置場に収容されたうえで取り調べが進められます。 - 送致
事件が警察から検察官へと引き継がれる手続きが送致です。送致を受理した検察官は、自らも被疑者を取り調べたうえで、24時間以内に引き続き身柄を拘束するための勾留を請求するか、釈放しなければなりません。 - 勾留
検察官の請求によって裁判官が勾留を認めると、10日間の身柄拘束が始まります。被疑者の身柄は警察に戻され、検察官による指揮のもとで警察が捜査を担当するかたちです。10日間の勾留で捜査が未了の場合は、一度に限り10日以内の勾留延長が認められます。 - 起訴
勾留が満期を迎える日までに、検察官が起訴・不起訴を判断します。刑事裁判を提起することを起訴、見送ることを不起訴といいます。 - 刑事裁判
検察官が起訴に踏み切った時点で被疑者の立場は被告人となり、刑事裁判の場で審理されます。有罪判決が下されると法律の範囲内で刑罰が言い渡され、期限内に不服を申し立てない場合は事件終了です。
- 逮捕
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3、横領が発覚してしまった! 逮捕を避けるためにできること
会社の金銭を横領したことが会社に発覚した場合、まずは会社との示談交渉を優先させましょう。横領の被害に遭った会社側がもっとも強く望むのは、横領した社員の逮捕や刑罰ではなく「被害に遭った金銭の回収」です。社員が逮捕されたり、刑罰を科せられたりしても、会社にとってメリットはありません。
横領が発覚した時点で、事実を認めて謝罪し、横領した金銭を返すことができれば、示談が成立する可能性があります。横領額が大きく、すでに費消しており全額の一括返済が難しい場合でも、分割で返済する約束を取り付ければ警察への届け出は見送ってもらえるかもしれません。
4、会社の金銭を横領してしまったら弁護士に相談を
会社の金銭を横領してしまった場合は、発覚している・していないに関わらず、弁護士に相談して解決に向けたサポートを受けましょう。
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(1)会社との示談交渉を一任できる
前述のとおり、横領事件を穏便に解決できるもっとも有効な方法は、会社との示談交渉です。謝罪のうえ、横領した金銭の全額を返済するか、あるいは分割でも返済する約束を取り付けることができれば、警察への届け出を回避できる可能性があります。
とはいえ、横領被害の対応に混乱している会社との示談交渉は容易ではありません。「金銭だけの問題ではない」という判断で警察への届け出を譲らないという方針を示すこともあるでしょう。また、そもそも横領をはたらいた時点で会社の信頼を大きく裏切っているので、たとえ深く反省して返済を申し出ても、横領をはたらいた本人からの話は簡単には信じてもらえないことも考えられます。
横領事件の場合、被害金額について会社側の認識している金額と被疑者側が認識している金額が異なることが多いです。そのような場合についても、弁護士であれば、客観的資料に基づき被害金額についての交渉をすすめやすくなります。
そのため、会社との示談交渉は、弁護士に任せることが賢明です。弁護士が代理人として交渉の場に立つことで、会社側も穏便な解決に前向きな姿勢を示す可能性が高まります。 -
(2)逮捕や厳しい刑罰を避けるための弁護活動が期待できる
たとえ横領金額が少額であっても、適用される罪名が業務上横領罪・窃盗罪のどちらであっても、会社の金銭を懐に入れる行為は犯罪です。会社が警察に届け出をすれば、逮捕され、厳しい刑罰が科せられるでしょう。
早い段階で弁護士に相談すれば、会社との示談交渉による逮捕や刑罰の回避が期待できます。弁護士への相談が遅れて対応が後手にまわり逮捕されてしまった場合でも、会社との示談が成立すれば不起訴となり釈放され、刑事裁判が見送られる可能性もあります。
5、まとめ
会社の金銭を横領すれば、たとえ少額でも業務上横領罪や窃盗罪に問われます。警察に発覚すれば逮捕され、厳しい刑罰を科せられることが考えられます。もし、少額でも横領したことに身に覚えがあるなら直ちに弁護士に相談して解決を依頼するべきです。
横領事件の解決は、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスにお任せください。刑事事件の解決実績豊富な弁護士が、会社との示談交渉などを通じて穏便な解決を目指し全力でサポートします。
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