執行猶予中の生活に制限はある? 取り消される行為を弁護士が解説

2024年08月29日
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執行猶予中の生活に制限はある? 取り消される行為を弁護士が解説

足立区が公表している統計情報によると、令和5年足立区内において認知された刑法犯の件数は4222件で、前年同期比で558件増加しています。

自身が刑事事件を起こし、起訴され有罪判決を得ても、執行猶予となるのであれば、特に生活に支障はないのでしょうか。執行猶予が認められるためには一定の条件があり、執行猶予期間中の生活はこれまでとは異なります。

本コラムでは、執行猶予制度について、執行猶予が認められる条件、執行猶予になった場合、今後の生活がどうなってしまうのかなどについて、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスの弁護士がわかりやすく解説します。


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1、そもそも執行猶予とは

まず、執行猶予はどのような制度で、どのような場合に認められるのでしょうか。
ここでは、執行猶予制度の概要と、執行猶予となる条件などについて解説します。

  1. (1)執行猶予とは

    執行猶予とは、有罪判決による刑の執行を一定期間猶予し、その間に罪を犯さないことを条件として、刑罰権を消滅させる制度のことです。

    たとえば、刑事裁判において被告人に「懲役2年」の有罪判決が言い渡されると、強制的に刑務所に入れられて、刑に服することになります。

    これに対して、執行猶予付判決の場合は、「懲役2年、執行猶予3年」というふうに判決が言い渡されることになります。この場合、すぐに刑務所に入るのではなく、3年間は懲役刑の執行が先送りされ、社会に戻って生活を送ることができるのです。

    それでは、猶予期間3年が過ぎるとどうなるのでしょうか。

    刑法には、「刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う」と規定されています(刑法第27条)。

    つまり、執行猶予期間中に再び罪を犯さず、猶予期間を経過すれば、言い渡された刑罰を受けることはなくなるのです。

    このように、有罪判決を受けた場合であっても、被告人に社会復帰できる道を残し、再犯を防いで更生させることが、執行猶予の目的です。

  2. (2)執行猶予が認められる条件

    執行猶予が認められるためには、一定の条件があります。

    まず、執行猶予の対象となる人は、以下のいずれかに該当する者でなければなりません

    • 前に禁固以上の刑に処せられたことがない者
    • 前に禁固以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日または執行の免除を得た日から5年以上の刑に処せられたことがない者


    そして、上記に該当する者が、「3年以下の懲役若しくは禁錮」または「50万円以下の罰金」の言い渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から「1年以上5年以下の」執行猶予が認められる場合があります(刑法第25条1項)。

    また、以前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、以下の場合は執行猶予が認められる可能性があります。

    • その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者(同条2項)。
  3. (3)保護観察付執行猶予について

    刑の執行猶予が認められた場合、同時に保護観察が付されることがあります。

    保護観察付執行猶予とは、執行猶予期間中、保護観察所のもとで、遵守事項を守るように指導・監督を受けるとともに、生活環境などについて援護を受けることをいいます。

    以下のようなケースでは、必ず保護観察が付されることになります。

    • 再度、執行猶予を受けた場合(刑法第25条の2第1項後段)
    • 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その形の全部の執行を猶予された者が再度執行猶予を受ける場合
    • 薬物使用などの罪を犯した者が、刑の一部の執行を猶予された場合(薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部執行猶予に関する法律第4条第1項)


    なお、現行法のもとでは、保護観察付執行猶予中に再び罪を犯した場合には、執行猶予を言い渡すことができませんでした。しかし、令和4年6月13日に刑法が改正され、保護観察付執行猶予中であっても、一度に限り、再度の執行猶予の言い渡しができるようになりました。なお、この改正は、令和7年6月1日より、施行されることになっています。

2、執行猶予中の生活に制限はある?

執行猶予期間中の生活はどのようなものなのでしょうか。
ここでは、執行猶予期間中に日常生活に発生する制限や、一定の義務などについて解説します。

  1. (1)執行猶予中の生活の制限

    執行猶予中であっても、普通に生活する限り、特に制限はありません
    結婚・離婚、引っ越し、就職・転職などは自由に行うことができます。旅行についても国内旅行であれば問題なくできます。

    ただし、海外旅行の場合には、新しくパスポートを取得するのに時間がかかったり、前科があることで渡航先から入国を拒否されてしまったりする可能性があります。

    また、公務員、弁護士、医師など特定の資格を必要とする職業については、執行猶予期間が満了するまでの間、就くことができません。

    会社に就職している場合、たとえ執行猶予が付されたとしても、刑事裁判で有罪判決を受けていますので、重大な非違行為として、会社を懲戒解雇されてしまう可能性もあります。

  2. (2)保護観察付であれば、保護観察官との面会が必要

    保護観察では、犯罪をした人が、実社会の中でその健全な一員として更生できるように、生活状況を把握しつつ必要な指導をし、住居や仕事の確保などの支援が行われます。保護観察は、高い専門性を有する国家公務員の保護観察官や保護司を始めとする、さまざまな民間協力者が協働して実施しているのです。

    保護観察付の場合、まずは保護観察所に行って担当の保護観察官から保護司を紹介されます。その後は月に1〜2回程度、保護司の自宅に通い生活状況を報告します。性犯罪や薬物犯罪をして保護観察になったケースでは、定期的に保護観察所に行って、保護観察官から再犯防止プログラムを受けることになります。

  3. (3)執行猶予期間が終わった場合

    執行猶予付判決を言い渡され、再び罪を犯さず、期間が満了したときは、刑の言い渡しの効力は消えます

    なお、期間が満了しても、裁判所から通知などはされないため注意が必要です。

    判決確定日がわからず執行猶予期間をいつから数えるのかわからない場合や、執行猶予期間が何年間だったかわからない場合には、ご自身で判決書謄本を請求して確認する必要があります。
    判決書謄本には判決日や判決内容が書かれているため、執行猶予期間の満了を計算することが可能です。

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3、執行猶予が取り消される行為は?

執行猶予については、該当すると必ず取り消される「必要的取消」と、該当すると裁判所の裁量によって取り消される可能性がある「裁量的取消」の2種類があります。

① 必要的取消
必要的取消が行われるのは、以下のいずれかに該当する場合です(刑法第26条)。

  • 猶予の期間内に更に罪を犯して、禁錮以上の刑に処せられたとき
  • 猶予の言渡し前に犯した他の罪について、禁錮以上の刑に処せられたとき
  • 猶予の言渡し前に他の罪について、禁錮以上の刑に処せられたことが発覚したとき


② 裁量的取消
裁量的取消が行われるのは、以下のいずれかに該当する場合です(刑法第26条の2)。

  • 猶予の期間内に更に罪を犯し、罰金に処せられたとき
  • 保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守せず、その情状が重いとき
  • 猶予の言渡し前に他の罪について、禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部の執行を猶予されたことが発覚したとき

4、執行猶予の獲得を目指すなら弁護士に相談を

ここでは、刑事裁判において執行猶予の獲得を目指す場合、弁護士に相談すべき理由や解説してメリットを解説します。

  1. (1)執行猶予を獲得するためにサポートしてくれる

    弁護士に依頼することで、執行猶予を獲得するために必要となるサポートを受けることができます。

    刑事事件に詳しい弁護士であれば、執行猶予がつく見込みがある事案か否かを的確に判断したうえで、適切な弁護方針を立てることができます。
    執行猶予を付けるべきかどうかは、犯罪の重さや情状が重要な考慮要素となります
    情状については、被告人の犯行動機に酌むべき事情があった、計画的ではなく偶発的な犯行だったなどの場合には、被告人に有利な犯情であると言えるでしょう。

    弁護士に相談することによって、被告人に有利な事情を刑事裁判で主張・立証してもらうことが期待できます。

  2. (2)相手側との示談を促してくれる

    弁護士に刑事事件のサポートを依頼すれば、代理人として被害者との示談交渉に対応してくれます。

    執行猶予付きの判決が得られるかどうかは、被害者の処罰感情や被害感情も重要な要因となります。刑事事件を起こし、被害者がいる場合には、被害者に謝罪したうえで被害弁償を行う必要があるでしょう。

    しかし、刑事事件の加害者が被害者と直接示談交渉をしようとしても、恐怖や怒りの感情から示談を拒否される可能性があります。また、相手の連絡先を知らないケースにおいても、警察官や検察官が加害者に対して、被害者の連絡先を教えてくれることはありません。
    弁護士であれば、代理人として示談交渉することを被害者が受け入れてくれたり、被害者の許可があれば、警察官や検察官から被害者の連絡先を教えてもらえる可能性があります。

    被害者との示談が成立した場合には、執行猶予が得られる可能性も高まるため、被害者との示談においても弁護士へ相談されることをおすすめします

5、まとめ

執行猶予期間中、日常生活を送ることには大きな問題はありませんが、会社にバレると仕事を失うなどのリスクがあります。

まずは、有罪判決を回避できるように、できるだけ早く弁護士に相談したうえで、適切な対応をとるべきでしょう。刑事事件を起こして困っている場合や、警察に逮捕されそうな場合は、早期に弁護士への相談をおすすめします

ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスには刑事事件の経験豊富な弁護士が在籍しておりますので、刑事事件でお困りの方はぜひお問い合わせください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています