「選挙の自由妨害罪」とは何か? 該当する行為や罰則を解説
- その他
- 選挙の自由妨害罪
選挙には難しいルールが多いため、正しい制度を正確に理解できている人は少ないでしょう。
足立区ではホームページに「選挙Q&A」のページを開設しており、投票に関するさまざまな疑問に答えています。また、Q&Aをみてもわからないことがあれば、足立区役所にある選挙管理委員会事務局に問い合わせて確認することもできます。
選挙制度に関しては、「どういった行為が違反になるのか?」という点についても理解しておく必要があります。なかでも「選挙の自由妨害」は、厳しい罰則が用意されているので気を付けなければなりません。
本コラムでは「選挙の自由妨害」とはどのような違反行為なのか、実際に適用された例や罰則、警察に疑いをかけられてしまったときの手続きの流れなどについて、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスの弁護士が解説します。
1、「選挙の自由妨害罪」とは?
選挙に関する違反行為といえば、買収や供与などによって不正に票を得ようとする行為が代表的です。
そのため、「選挙の自由妨害罪」という犯罪が存在すること自体を知らない方も多いでしょう。
以下では、「選挙の自由妨害罪」の概要を解説します。
-
(1)日本の選挙制度では自由が保障されている
日本の選挙制度は「自由選挙」です。
自由選挙とは、選挙人の自由な意思によって行われる選挙を指します。
選挙人とは「選挙権を有する者」であり、投票権をもつ一般の有権者のことを指します。 -
(2)選挙の自由を妨害すると罪になる
公明・適正な選挙が実施されるためには、選挙人の自由な意思が侵されてはなりません。
選挙人の自由な意思を侵す行為は、公職選挙法第225条の「選挙の自由妨害罪」に問われます。
具体的には、以下のような行為が、選挙人の自由な意思を侵すものとされています。- 選挙人・公職の候補者・公職の候補者になろうとする者・選挙運動員・当選人に対して暴行もしくは威力を加え、またはこれをかどわかした
- 交通もしくは集会の便を妨げ、演説を妨害し、または文書図画を毀棄(きき)し、その他偽計詐術など不正の方法をもって選挙の自由を妨害した
- 選挙人や候補者などのほか、その関係のある社寺・学校・会社・組合・用水・小作・債権・寄付など特殊の利害関係を利用して、選挙人や候補者などを威迫した
また、同第226条には「職権濫用による選挙の自由妨害罪」も定められています。
国もしくは地方公共団体の公務員などが、故意にその職務の執行を怠ったり、正当な理由がないのに候補者や選挙運動員に追随し居宅や選挙事務所に立ち入ったりするなど、その職権を濫用して選挙の自由を妨害した場合は、職権濫用による選挙の自由妨害罪にあたります。
さらに、国もしくは地方公共団体の公務員などが、選挙人に対してどの候補者や政党に投票したのかの表示を求めたときにも、本罪が成立するのです。
2、実際に選挙の自由妨害罪で検挙された事例
以下では、実際に選挙の自由妨害罪で検挙された事例を紹介します。
-
(1)演説を終えた立候補者に暴行を加えた
市長選において、スーパーの駐車場で演説していた候補者が、演説の直後に近寄ってきた男から襲われた事例です。
男は、候補者の首を絞めたところを周囲の人に取り押さえられ、駆け付けた警察官に現行犯逮捕されました。 -
(2)演説中にマイクを持っていた立候補者の手を押さえた
統一地方選の候補者が歩道上で演説をしている最中に、マイクを持っていた手を押さえた事例です。
検挙されたのは自称会社員の男で「うるさい」と言いながら犯行に及んでおり、当時は酒気を帯びていました。
候補者の関係者が近くの交番に届け出たため、駆け付けた警察官によって現行犯逮捕されたそうです。 -
(3)立候補者名が書かれた看板に穴を開けた
統一地方選の告示日に、候補者名が書かれた看板に穴を開けた事例です。
巡回中の警察官が発見したため現行犯逮捕されましたが、検挙されたのは元県議の男でした。
なお、看板の毀損は「文書図画の毀棄(きき)」にあたります。
文書図画の毀棄は選挙の自由妨害罪にあたる行為の典型です。
また、実際に掲示されている看板などのほか、候補者のウェブサイトを改ざんするなどの行為も本罪にあたります。
3、選挙の自由妨害罪の罰則
以下では、選挙の自由妨害罪に違反した場合に科される可能性のある罰則を解説します。
-
(1)選挙の自由妨害罪で科せられる刑罰
公職選挙法第225条に定められている選挙の自由妨害罪には、4年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金が科せられます。
さらに、公職選挙法違反を犯すと、一定期間の公民権停止を受けます。
選挙の自由妨害罪を含めて公職選挙法違反で罰金の刑に処せられた者は、裁判が確定した日から5年間、選挙における投票や立候補が認められません。
懲役や禁錮の刑を受けると、刑期を終えた日または執行猶予の期間が満了した日から5年間は、投票や立候補ができなくなります。 -
(2)職権濫用による選挙の自由妨害罪に科せられる刑罰
職権濫用による選挙の自由妨害罪には、さらに厳しい罰則が用意されています。
故意にその職務の執行を怠ったり、正当な理由がないのに候補者や選挙運動員に追随し居宅や選挙事務所に立ち入ったりするなどの行為があった場合は、4年以下の禁錮です。
また、選挙人に対してどの候補者や政党に投票したのかの表示を求めたときは6か月以下の禁錮または30万円以下の罰金が科せられます。
そして、通常の選挙の自由妨害罪と同じく、公民権も停止されてしまうのです。
4、警察に逮捕されるとどうなる? 刑事手続きの流れ
先に紹介した事例のように、選挙の自由妨害罪にあたる行為があった場合は、警察に逮捕される可能性が高いといえます。
-
(1)逮捕・勾留による最長23日間の身柄拘束を受ける
警察に逮捕されると、警察の段階で48時間以内、検察官のもとへと送致されて24時間以内、合計で72時間以内の身柄拘束を受けます。
さらに検察官の請求によって勾留されると10~20日間の身柄拘束を受けるので、逮捕・勾留を合計すると身柄拘束の期間は最長で23日間です。 -
(2)検察官が起訴・不起訴を判断する
勾留が満期を迎える日までに、検察官が起訴や不起訴を判断します。
起訴とは刑事裁判を提起すること、不起訴とは起訴を見送る処分です。
検察官に起訴されると、犯罪の疑いをかけられている人は被告人という立場になり、拘置所へと移送されてさらに身柄を拘束されます。
反対に、不起訴になると刑事裁判は開かれません。
身柄を拘束する必要もなくなるため、即日で釈放されます。 -
(3)有罪の場合は刑罰が科せられる
刑事裁判で裁判官が有罪判決を下すと、罰則の範囲内で刑罰が科せられます。
また、選挙の自由妨害罪を犯した人が自分の罪を認めており、罰金が選択される場合は、正式な刑事裁判を開かず書面審査のみで刑が科せられる「略式手続」が選択されることもあります。
略式手続が選択される場合は、正式な裁判が開かれない代わりに必ず罰金が科せられるので、懲役や禁錮に処されて刑務所へと収容される事態は回避できます。
ただし、裁判官に対して自分の主張を述べる機会は失われるので、無罪を主張したいときや罰金額が過大だと感じるときは略式手続を受け入れないほうがよいでしょう。
5、選挙の自由妨害罪にあたるかもしれないと不安なら弁護士に相談を
選挙運動の期間中は、候補者の遊説や運動員の訪問といった活動が積極的に行われるだけでなく、選挙違反を取り締まるために警察が活発な捜査を展開しています。
候補者のポスターを破る、演説を妨害する、候補者のウェブサイトを改ざんするなどの行為をした場合には、周囲の人からその場で取り押さえられたり、巡回中の警察官に犯行の状況を発見されたりして、逮捕される可能性は高いでしょう。
現行犯逮捕されなくても、防犯カメラに犯行の状況が記録されていた、目撃者の情報から追跡捜査が行われた、ウェブサイトへのアクセス履歴が解析されたといった事情がある場合は、犯行の後日に逮捕状にもとづいて逮捕されるおそれがあります。
「選挙の自由妨害罪にあたる行為を犯してしまったかもしれない…」という不安を感じているなら、すぐに弁護士に相談してください。
自分自身の行為が選挙の自由妨害罪にあたるのかどうかを公職選挙法の定めに照らして正確に判断できるだけでなく、弁護士が早期から適切な弁護活動を行うことで、逮捕や勾留の回避や身柄拘束からの早期釈放、厳しい刑罰の軽減といった有利な処分を受けやすくなります。
6、まとめ
選挙に関して、候補者に暴行を加えたり、演説を妨害したりといった行為があると「選挙の自由妨害罪」が成立します。
特定の候補者に攻撃する意思があった場合はもちろん、たとえいたずら半分でも厳しい刑罰が科せられる可能性があるため、身に覚えがある方はすぐに弁護士に相談することが大切です。
ベリーベスト法律事務所では、刑事事件に関するご相談を承っております。
一般にはなじみがなく、法律が定めるルールも難しい公職選挙法の知識や選挙事件についても、刑事事件の知識と経験の豊富が事情を伺ったうえで適切に対処いたします。
選挙の自由妨害罪や、関連する刑事事件に関するお悩みや問題は、まずはベリーベスト法律事務所までお気軽にお問い合わせください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています