客引きと呼び込みはどのような違いがある? 捕まらない方法とは
- その他
- 客引き
- 呼び込み
- 違い
警視庁が公表している客引き・スカウトの検挙状況によると、令和3年に客引きやスカウトで検挙された人数は、415人でした。検挙人員は、平成24年の886人をピークに減少傾向にありますが、それでも毎年一定数の人員が検挙されています。
キャバクラなどの風俗店や居酒屋などの飲食店に勤務している人の中には、店外での客引きや呼び込みをした経験がある方もいるかもしれません。繁華街では、よく目にする光景ですが、実は、法律や条例によって禁止されている行為にあたりますので、逮捕されたり、刑罰が科されたりするリスクがあります。
今回は、飲食店に勤務する方が犯しがちな客引きや呼び込みのリスクなどについて、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスの弁護士が解説します。
1、客引きを規制する法律
客引きはどのような法律・条令によって規制されているのでしょうか。
-
(1)風営法
風営法とは、正式名称を「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」といいます。
風営法では、キャバクラ、スナック、ホストクラブなどの風俗店や居酒屋などの飲食店において、以下の行為をすることが禁止されています(風営法22条)。- 営業に関し客引きをすること
- 営業に関し客引きをするために道路などで立ちふさがりまたはつきまとうこと
風俗店ではない普通の居酒屋であれば問題ないと考えている方も多いですが、普通の居酒屋であっても、深夜0時以降に客引きをした場合には、風営法違反となります。
風営法に違反して客引きをした場合には、6か月以下の懲役もしくは100万円以下の罰金またはこれらが併科されます(風営法52条1号)。 -
(2)各都道府県の迷惑防止条例
各都道府県では、迷惑防止条例を制定しており、その中で客引きを規制しています。
たとえば、東京都の迷惑防止条例では、進路に立ちふさがったり、身辺につきまとったりするような態様での客引きは、不当な客引き行為として禁止されています(東京都迷惑防止条例7条7号)。
東京都の迷惑防止条例に違反して客引きをした場合には、客引きをした人に対しては、50万円以下の罰金または拘留もしくは科料が科され、客引きをさせた使用者に対しては、100万円以下の罰金が科されます。
また、常習性が認められる場合には、客引きをした人に対して6か月以下の懲役または50万円以下の罰金、使用者に対しては、6か月以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます。
なお、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスのある足立区では、東京都迷惑防止条例とは別に、足立区独自の客引き行為等の防止に関する条例を制定しています。同条例では、足立区内での客引き行為だけでなく客待ち行為なども禁止しており(各行為の詳細は定義参照)、条例に違反した場合には、指導、警告、公表、過料(5万円以下)のペナルティーを定めています。足立区の客引き行為等の防止に関する条例は、令和5年4月1日から施行されています。
2、客引きと呼び込みの違いは?
風営法や迷惑防止条例では、「客引き」が禁止されていますが、客引きとはどのようなものなのでしょうか。また、客引きと呼び込みではどのような違いがあるのでしょうか。
-
(1)客引きとは
客引きとは、相手を特定してお店の客として来るように勧誘する行為をいいます。具体的には、特定の通行人に執拗につきまとってお店への入店を勧誘したり、特定の通行人の前に立ちふさがったりしてお店の案内をする行為が客引きにあたります。
-
(2)呼び込みとは
呼び込みとは、不特定多数の人に向かってお店への入店を勧誘する行為をいいます。たとえば、店の前で「いらっしゃい、いらっしゃい」などと声をかける方法や不特定多数の人にティッシュ・チラシなどを配る勧誘行為が呼び込みです。
呼び込みに関しては、規制の対象からは外れる態様が多いため、基本的には、自由に行うことができます。しかし、呼び込みの際に特定の通行人に対して、値段交渉などをすると、違法な客引きにあたる可能性もあります。このように声かけの態様によって、呼び込みか客引きかは相対的に決まってくる側面がありますので注意が必要です。
3、呼び込み中に警察から声をかけられたら
呼び込み中に警察から声をかけられてしまった場合には、どのように対応すればよいのでしょうか。
-
(1)適正な呼び込みであれば問題ない
風営法や迷惑防止条例で禁止されているような客引き行為に至っていなければ警察に声をかけられたとしても注意喚起の意味合いしかなく、特に問題はありません。警察官に対しても、「違法な形にはならないよう注意しています」と説明をすればよいでしょう。
突然、警察官から声をかけられると動揺して逃げてしまう方もいるかもしれませんが、それは避けてください。その場から逃げてしまうと、警察官もやましいことがあると思い追いかけてきます。逃走する過程で、他人に怪我をさせたり、警察官の追跡を妨害したりすれば、傷害罪や公務執行妨害罪などで逮捕されてしまう可能性もあります。
自分自身の行為にやましいところがないのであれば、堂々と対応することが重要です。 -
(2)自分での対応が難しい場合にはお店の責任者に連絡
居酒屋では、新人のアルバイトなどに店外での呼び込みをやらせることがあります。居酒屋に勤務して間もない方だと、警察に声をかけられたとしても、何が問題なのかわからず、うまく対応できないこともあります。
そのような場合には、自分ひとりで対応するのではなく、お店の責任者や先輩従業員などに連絡して、対応を任せるというのもひとつの方法です。普段から呼び込みをしている飲食店では、警察から声をかけられるのに慣れている人もいますので、そのような人に対応を任せた方がその場をうまく乗り切ることができます。 -
(3)捕まらないために執拗な呼び込みは避ける
繁華街などでは、定期的に私服警官などが見回りをしています。私服警官は、通行人のふりをして違法な客引きをしていないかどうかをチェックしていますので、普段から執拗な呼び込みをしないように気を付けることが大切です。
万が一、私服警官に対して、違法な客引きをしてしまうと、現行犯として逮捕されてしまうリスクもありますので注意が必要です。
4、逮捕されるとどうなるのか
違法な客引き行為をしたことで逮捕されてしまった場合には、その後、どうなってしまうのでしょうか。以下では、逮捕後の流れについて説明します。
-
(1)逮捕
違法な客引きによって逮捕されると、警察署の留置施設で身柄が拘束されることになります。逮捕中は、基本的には警察署の外に自由に出ることはできず、家族との面会も制限されてしまいます。
逮捕された時点で面会することができるのは、弁護士だけです。その後の取り調べに適切に対処するためにも早急に弁護士を呼ぶことをおすすめします。 -
(2)取り調べ
警察での逮捕後は、身上経歴や客引き行為をした経緯などについての取り調べが行われます。取り調べで供述した内容は、供述調書に記載されます。
供述調書は、被疑者の言葉が一言一句正確に記載されているわけではありませんが、一度認めてしまうと覆すことは困難です。そのため、供述調書に署名押印する際には、内容が自分の主張とずれがないかよく確かめてから行うことが大切です。
なお、逮捕には法律上時間制限が設けられており、警察は、逮捕から48時間以内に被害者を釈放するか、検察に送致しなければなりません。 -
(3)検察への送致
警察から送致を受けた検察でも警察と同様に取り調べが行われます。検察官は、送致後24時間以内に被疑者を釈放するか、引き続き身柄拘束をするかを決めなければなりません。
-
(4)勾留
検察官が引き続き身柄拘束をする必要があると判断した場合には、裁判所に勾留請求を行います。裁判所が勾留を認めた場合には、そこから10日間の身柄拘束が行われます。
なお、勾留は延長されることがあり、裁判所が勾留延長を認めた場合には、さらに10日間身柄が拘束されることになります。逮捕時点から合計すると最大で23日間も身柄拘束が続くことになります。 -
(5)処分の決定
検察官は、勾留期限までに、被疑者を起訴するか不起訴にするかを判断します。不起訴処分になればその時点で釈放され、前科が付くこともありません。
なお、客引き行為による風営法違反または迷惑防止条例違反では、罰金刑が定められています。本人が罪を認めている場合には、略式起訴となり、罰金を支払って前科がつくと同時に釈放されることもあるでしょう。 -
(6)刑事裁判
検察官によって起訴された場合には、刑事裁判が行われます。起訴前に勾留されていた被疑者は、起訴後は被告人としての勾留が続きますので、引き続き身柄が拘束されます。
ただし、起訴後は、保釈請求が可能ですので、裁判所が保釈を許可すれば、保釈保証金を納めて身柄を解放してもらうことができます。
5、まとめ
繁華街でよく目にする客引き行為ですが、近年は、客引き行為に関する違反行為の取り締まりが強化されていますので、悪質な態様での客引き行為をしていると、逮捕されてしまう可能性も十分にあります。
適正な呼び込みをするのはもちろんのこと、万が一、違法な客引き行為で逮捕されてしまった場合には、すぐに弁護士に相談することが大切です。従業員やご家族が違法な客引きを理由に逮捕されてしまったという場合には、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスまで、すぐにご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています