反スパイ法とは? 日本に存在する類似の法律で逮捕される可能性はある?

2024年01月23日
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反スパイ法とは? 日本に存在する類似の法律で逮捕される可能性はある?

千住警察署管轄内における、2022年の刑法犯の総件数は522件でした。ここ数年はほぼ横ばいで推移していますが、2021年の481件と比較するとやや増加傾向にあります。

中国では、スパイ活動を禁止する「反間諜法(反スパイ法)」が制定されており、2023年7月に改正法が施行されました。日本では、反スパイ法に相当する法律はないものの、刑法その他の法律によってスパイ活動が実質的に規制されています。

本記事では中国における反スパイ法の概要や、スパイ行為を禁止する日本の法規制などについて、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスの弁護士が解説します。

1、反スパイ法とは?

中国では、スパイ活動の防止や取り締まりを目的とする「反間諜法(反スパイ法)」が制定されています。

中国の反スパイ法では、以下の6項目がスパイ行為として定義されています。

  • ① スパイ組織およびその代理人、または中国大陸内外の機関等が結託して行う、中華人民共和国の安全に危害を及ぼす活動
  • ② スパイ組織への参加、またはスパイ組織およびその代理人の任務引き受け
  • ③ スパイ組織およびその代理人以外の中国大陸外の機関等、または当該機関等と中国大陸内の機関等が結託して行う、国家秘密もしくは情報を窃取・偵察・買収・不法に提供する活動
  • ④ 公務従事者に国家を裏切るよう扇動・誘惑・買収する活動
  • ⑤ 敵に対する攻撃目標の指示
  • ⑥ その他のスパイ活動


上記のスパイ行為をすると、国家安全危害罪により処罰の対象となります。

2023年7月1日に反スパイ法の改正法が施行され、スパイ行為の定義が大幅に拡大されるとともに、規制当局の権限も強化されました。

2、スパイ行為を禁止する日本の法規制

日本では、反スパイ法に相当する法律は存在しませんが、以下の法律によってスパイ活動が実質的に規制されています。



それぞれの法律では、具体的にどのような行為が禁止されているのでしょうか。

  1. (1)刑法

    日本におけるスパイ行為は、刑法上の以下の犯罪に該当する可能性があります。

    ① 内乱罪
    以下の目的で暴動をした者は、内乱罪によって処罰されます(刑法第77条)。
    • 日本国の統治機構を破壊すること
    • 日本国の領土において、国権を排除して権力を行使すること
    • その他、日本国憲法の定める統治の基本秩序を壊乱することを目的として暴動を起こすこと

    内乱罪による処罰の要件は、暴動の首謀・謀議への参与・群衆の指揮・職務への従事・参加です。
    なお、内乱罪は未遂も処罰対象であり(刑法第77条2項)、加えて、内乱の予備および陰謀も処罰の対象とされています(刑法第78条)。

    ② 内乱予備・陰謀罪
    ① 内乱罪の予備・陰謀をした者は、内乱予備・陰謀罪によって処罰されます(刑法第78条)。

    ③ 内乱等幇助罪
    兵器・資金・食料の供給その他の行為によって①内乱罪や②内覧予備・陰謀罪を幇助した者は、内乱等幇助罪によって処罰されます(刑法第79条)。
    したがって、スパイ行為のうち、内乱を手助けする上記行為などは、内乱等幇助罪による処罰の対象です。

    ④ 外患誘致罪
    外国と通謀して日本国に対し武力を行使させた者は、外患誘致罪によって処罰されます(刑法第81条)。
    たとえば、スパイ行為によって得た情報を基に、日本に対する武力行使を外国首脳に対して進言し、それを受けて実際に武力行使がなされた場合には、外患誘致罪による処罰の対象です。
    なお、外患誘致の未遂や予備、陰謀も処罰の対象とされています(刑法第87条、88条)。

    ⑤ 外患援助罪
    日本国に対して外国から武力の行使があったときに、当該外国に加担してその軍務に服し、その他当該外国に軍事上の利益を与えた者は、外患援助罪によって処罰されます(刑法第82条)。
    たとえば、日本に対する武力行使が開始された後、スパイとして武器や弾薬などを当該外国に供給した場合は、外患援助罪による処罰の対象です。
    なお、外患援助の未遂や予備、陰謀も処罰の対象とされています(刑法第87、88条)。

    上記の犯罪についてはいずれも、日本国内に限らず、日本国外でなされた行為についても処罰の対象となります(刑法第2条第2号、第3号)。
  2. (2)特定秘密保護法

    特定秘密保護法は、日本の安全保障に関する情報のうち特に秘匿する必要があるものにつき、漏えいの防止を図るための規制を定めた法律です。

    行政機関の長は、取り扱う情報のうち、安全保障に著しい支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿する必要があるものを「特定秘密」に指定します。特定秘密については保護措置が講じられ、その提供や取得について制限が設けられます。

    特定秘密の取り扱いの業務に従事する者が、その業務によって知り得た特定秘密を漏らした場合は、刑事罰の対象となりますさらに、特定秘密の漏えい行為の遂行を共謀・教唆・扇動する行為も処罰の対象です

  3. (3)不正競争防止法

    企業などの営業秘密を奪う行為(いわゆる「産業スパイ」)については、不正競争防止法により処罰の対象となります。

    営業秘密とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報であって、公然と知られていないものと定義されています。
    営業秘密を不正に取得・使用・開示する行為は、不正競争防止法によって禁止されています。

  4. (4)経済安全保障推進法

    経済安全保障推進法は、経済活動に関して国家・国民の安全を害する行為を未然に防止する安全保障上の重要性に鑑み、安全保障の確保に関する経済施策の総合的・効果的な推進を目的として、2022年に施行された法律です。

    経済安全保障推進法に基づき、政府は経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する基本的な方針(=基本方針)を定めなければなりません(同法第2条)。

    さらに、政府は基本方針に基づき、公にすることで外部から攻撃等を受け、国家・国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明につき、情報の流出を防止するための措置に関する基本方針を定めるものとされています(同法第65条)。これを「特許出願非公開基本指針」といいます。

    上記の規定を受け、政府は2023年4月28日に特許出願非公開基本方針を閣議決定しました。
    経済安全保障推進法に基づく特許出願の非公開制度は、安全保障上の脅威になり得る発明に関する情報を、スパイなどから守るための制度といえます。

3、日本に対するスパイ行為について問われる罪と法定刑

日本国に対するスパイ行為をした場合に、問われる罪と法定刑は以下のとおりです。

内乱罪 ① 首謀者
死刑または無期禁錮

② 謀議に参与し、または群衆を指揮した者
無期または3年以上の禁錮

③ ②以外の諸般の業務に従事した者
1年以上10年以下の禁錮

④ 不和随行し、その他単に暴動に参加した者
3年以下の禁錮

※④を除き、未遂犯も処罰される
内乱予備・陰謀罪 1年以上10年以下の禁錮
※暴動に至る前に自首したときは、刑が免除される
内乱等幇助罪 7年以下の禁錮
※暴動に至る前に自首したときは、刑が免除される
外患誘致罪 死刑
外患援助罪 死刑または無期もしくは2年以上の懲役
外患誘致・外患援助予備・陰謀罪 1年以上10年以下の懲役
特定秘密の漏えい ① 特定秘密の取り扱いの業務に従事する者、または過去に従事していた者
10年以下の懲役(情状により10年以下の懲役および1000万円以下の罰金)

② 特定秘密保護法の規定に基づいて特定秘密の提供を受けた者
5年以下の懲役(情状により5年以下の懲役および500万円以下の罰金)
特定秘密の不正取得 10年以下の懲役(情状により10年以下の懲役および1000万円以下の罰金)
特定秘密の漏えいまたは不正取得の共謀・教唆・扇動 ① 特定秘密の取り扱いの業務に従事する者、または過去に従事していた者による特定秘密の漏えい、または特定秘密の不正取得
5年以下の懲役

② 特定秘密保護法の規定に基づいて特定秘密の提供を受けた者による特定秘密の漏えい
3年以下の懲役

※共謀者が自首したときは、刑が減軽または免除される
営業秘密の不正な取得・使用・開示 ① 原則
10年以下の懲役または2000万円以下の罰金

② 日本国外における不正開示・不正使用
10年以下の懲役または3000万円以下の罰金

4、被疑者・被告人のために弁護士ができる弁護活動

捜査機関から犯罪の疑いをかけられた場合は、速やかに弁護士への相談をおすすめします。

弁護士は主に以下の対応を通じて、被疑者・被告人を刑事手続きから早期に解放し、重い刑事処分を回避できるようにサポートいたします。

① 不起訴に向けた弁護活動
検察官に対して潔白を主張する、または刑罰を科す必要性がないことを訴えて、不起訴を求める弁護活動を行います。

② 公判手続きに関する弁護活動
検察官によって起訴された場合には、公判手続き(刑事裁判)における代理人として、無罪や情状酌量を求める弁護活動を行います。

③ 家族との窓口
身柄拘束されている被疑者・被告人のために、家族などとの窓口を担当します。弁護士は、被疑者・被告人と原則的にいつでも時間の制限なく接見できるので、家族などとの窓口になることも可能です。

捜査機関に取り調べを求められた方や、ご家族が逮捕されてしまった方は、お早めに弁護士へご相談ください。

5、まとめ

日本には中国のような反スパイ法はありませんが、国家安全保障への脅威となるスパイ工作員は、刑法その他の法律によって処罰されます。外国人によるスパイ行為や、日本国外におけるスパイ行為も処罰の対象です。

もし捜査機関から犯罪の疑いをかけられてしまったら、重い刑事処分を避けるため、速やかに弁護士へ相談することをおすすめします

ベリーベスト法律事務所は、刑事弁護に関するご相談を随時受け付けております。取り調べを求められた方や、ご家族が逮捕された方は、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスにご相談ください。

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