飲食店で迷惑行為をしたら威力業務妨害罪で逮捕される? 損害賠償はどうなるかも解説
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令和5年は、1月に少年が回転ずしチェーンの店舗のしょうゆ差しをなめる姿を撮影した動画が拡散した事件を皮切りにして、飲食店での迷惑行為を撮影した動画がSNSにアップされる事件が相次ぎました。同年6月には、上記の回転ずしチェーンは少年に対して6700万円の損害賠償を請求する訴えを提起しましたが、その金額の高さは議論を呼んでいます。
仲間と集まって楽しく飲食をしていて、つい調子に乗り過ぎてしまいお店に迷惑をかけてしまう、という経験がある方もいるでしょう。少々の悪ふざけ程度であれば謝って許してもらえるでしょうが、飲食店としての評判をおとしめてしまったり、客足や売り上げに悪影響を及ぼしたりするような悪質な迷惑行為をはたらいた場合には「威力業務妨害罪」として刑事責任を問われるおそれもあります。
本コラムでは、飲食店などにおける迷惑行為が犯罪になってしまうケースを取り上げながら、適用される罪や科せられる罰則、損害賠償を請求された場合の対応などについて、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスの弁護士が解説します。
1、飲食店などで迷惑行為をしたときに生じる責任
まず、飲食店などに対して行った迷惑行為に発生する「刑事責任」と「民事責任」について、概要を解説します。
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(1)罪を追及されて刑事責任が課せられる
迷惑行為が単なるマナー違反にあたる程度なら、とくに大きな問題にはなりません。
しかし、刑法などの法律に照らしてその行為が犯罪にあたる場合は、警察に被害届や刑事告訴がなされ、罪を追及されることになります。
捜査の結果、罪を犯したことが証明されて、刑事裁判で有罪判決が言い渡されると「刑事責任」が確定します。
そして、刑務所へと収監されたり、罰金を徴収されたりするなどの刑罰を科せられることになるのです。 -
(2)損害を与えたことへの民事的な賠償責任が生じる
迷惑行為によって客足が遠のいたり誹謗中傷などが原因で売り上げが減少したりするなどの損害が発生してしまった場合には、「民事責任」として、お店に対する損害を賠償しなければなりません。
民事責任は、警察などの捜査や刑事裁判に関わる刑事責任とは別のものです。
たとえ刑務所に収監されたり罰金を徴収されたりしても、それによって損害を賠償する責任が相殺されるわけではないのです。
2、飲食店への迷惑行為で「威力業務妨害罪」などに問われるケースとは?
飲食店などへの迷惑行為が犯罪に該当する事例には、さまざまなものがあります。
たとえば、店内で暴れて従業員などに暴力をふるえば「暴行罪」や「傷害罪」、店舗の物を壊せば「器物損壊罪」、勝手に物を持ち出せば「窃盗罪」に問われます。
そして、店内で騒ぎを起こしたり、あるいは事後的に店内で悪ふざけをしている様子の動画をSNSなどで公開することで業務に混乱を生じさせる行為をすると、「威力業務妨害罪」などに問われる可能性がある点に注意しましょう。
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(1)威力業務妨害罪とは?
威力業務妨害罪とは、刑法第234条に定められている犯罪です。
「威力を用いて他人の業務を妨害した者」を罰する犯罪で、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。
本罪における「威力」とは、殴る・蹴る・脅す・物を壊すなどの乱暴な行為に限りません。
法律的には「相手の自由意思を制圧するに足りる勢力」と解釈されているので、たとえば店舗のメールアドレスに「毒を仕込んだ」などと送信して休業させたり、しつこくクレームの電話をかけたりする行為も本罪の処罰対象となるのです。
また、実際に業務が妨害されたかどうかは、威力業務妨害罪の成立要件ではありません。
したがって、業務が妨害された事実がなくても、妨害される危険があったなら本罪は成立するのです。 -
(2)威力業務妨害罪と偽計業務妨害罪の違い
威力業務妨害罪と近い存在となるのが、刑法第233条の「偽計業務妨害罪」です。
偽計業務妨害罪は「虚偽の風説を流布したり、偽計を用いたりして他人の業務を妨害した者」を処罰の対象とします。
「虚偽の風説を流布する」とは真実ではない情報を広める行為を指します。
たとえば「あの店は消費期限を過ぎた食材を使っている」などのデマをSNSで拡散するといったケースが考えられるでしょう。
「偽計」とは他人をだます・誘惑する・他人の錯誤や不知を利用するといった行為であり、たとえば嫌がらせ目的で「○○という店が火事だ」とうその通報をして消防隊を出動させるといったケースが当てはまります。
威力業務妨害罪との違いは「威力を用いるか、それとも虚偽の風説の流布や偽計を用いるか」という手段が異なるという点です。
ただし、迷惑行為がどちらに該当するのかを区別する実益は乏しいので、同じようなケースでも威力業務妨害罪が適用されたり、偽計業務妨害罪が適用されたりすることがあります。
なお、どちらが適用されたとしても、法定刑は同じなので罪の重さに違いはありません。 -
(3)実際に業務妨害の罪で刑事責任を問われた事例
近年、とくに問題となっているのが、飲食店の客や従業員が悪ふざけをした様子を動画として撮影してSNSなどで公開する迷惑行為です。
このような行為は、「バカ」と「Twitter」をかけあわせて「バカッター」と呼ばれたり、アルバイト従業員によるテロ行為という意味で「バイトテロ」と呼ばれたりしていますが、単なるいたずらや悪ふざけでは済まされないケースが増えています。
たとえば、令和5年3月には、冒頭で述べたのとは別の回転ずしチェーン店で客席に置かれていたしょうゆ差しの注ぎ口を直接なめる様子を投稿した客の男が、威力業務妨害罪の容疑で逮捕されました。
また、冒頭の回転ずしチェーン店でも、令和元年2月にアルバイト従業員がごみ箱に捨てた食材をまな板に戻して調理する様子を撮影・公開して、偽計業務妨害罪の容疑で書類送検されたという事例が存在します。
「SNSで投稿して目立ちたかった」「ほんの悪ふざけだった」と言い訳をしても、犯罪に該当する以上は刑事責任を追及される危険があると心得ておくべきでしょう。
3、迷惑行為をしたら損害賠償を請求される?
飲食店などへの迷惑行為をはたらくと、刑事責任だけでなく民事的な賠償責任も発生することになります。
以下では、実際に飲食店などへの迷惑行為をはたらいた場合にはかならず損害賠償請求を受けるのかどうか、賠償を求められる場合にはどの程度の金額を請求されるのかについて解説します。
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(1)店側から慰謝料や実損の賠償請求を受ける可能性は高い
迷惑行為があったからといって、かならず店側が損害賠償を請求するとは限りません。
真摯に謝罪すれば、厳重注意や再来店の禁止といった処分で済まされる可能性もあるでしょう。
ただし、近年では迷惑行為が動画で拡散され話題になったあとで大手飲食店チェーンの株価が大きく下落するなどしたことから、「謝ったとしても許されるような問題ではない」という風潮が強くなっています。
さらに、大手チェーンが高額な損害賠償を請求した事例が報道されることで、中小の飲食店の間にも「慰謝料や実損の賠償を求めることが可能」という知識が広まっていると考えられます。
したがって、大手の対応にならって損害賠償を求めるケースは今後ますます増えていくと想定できるでしょう。
飲食店などへの迷惑行為は、民事的な賠償請求を受ける可能性が高いと心得ておきましょう。 -
(2)賠償額は和解によって決まる
迷惑行為に対する賠償額は、民法上は不法行為と損害との間で因果関係が認められるかという観点から評価されます。
ただし、民事の損害賠償は実際に払ってもらわないと意味がないので、最終的にいくらをどれくらいの期間で話すかは、交渉で決まることも多いです。話し合いでも折り合いがつかず賠償額が決まらない場合は、裁判官に判断を委ねることになるでしょうが、それは最後の手段になってきます。
4、飲食店などで迷惑行為をしてしまったら弁護士に相談を
飲食店などで迷惑行為をしてしまった場合は、刑事責任・民事責任の両面を追及される危険が高まります。
できるだけ穏便な解決を目指すなら、ただちに弁護士に相談してください。
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(1)店側との示談交渉で刑事事件化を回避できる可能性が高まる
迷惑行為をしてしまったあと、できるだけ早い段階で弁護士に相談して解決を依頼すれば、和解を目指して店側との示談交渉を進められます。
早期に和解が実現できれば、警察への被害届や刑事告訴を回避できる可能性が高まるでしょう。
すでに被害届や刑事告訴がなされたあとでも、お互いが和解すれば「すでに被害者は加害者を罰してほしいという意思をもっていない」という評価につながり、捜査の終結が期待できます。
もし起訴が避けられず刑事裁判が開かれる事態になったとしても、示談交渉を進めて和解を目指したという事実は反省を示す材料として有利にはたらくでしょう。
ただし、迷惑行為に怒りを感じている経営者や責任者との示談交渉は容易ではありません。
示談交渉は加害者本人やその関係者ではなく公平中立な第三者である弁護士を窓口にしたほうが、効果的に交渉を進めやすくなります。 -
(2)損害賠償額を抑えるための交渉も期待できる
迷惑行為によって店側が損害を被った場合は、損害賠償請求を受けるおそれがあります。
大きな損害を与えてしまえば、支払うことが不可能なほどの損害賠償額を請求される可能性もあるのです。
損害賠償額をできるだけ抑えるためにも、弁護士による示談交渉が有効です。
弁護士であれば、請求された賠償額に対して実害をふまえながら妥当な金額を算定して、和解につなげることができます。
5、まとめ
飲食店などに対して迷惑行為をはたらくと、威力業務妨害罪などの刑事責任を問われるおそれがあります。
また、捜査を受けて刑罰が科せられるだけでなく、店側が被った損害について賠償するように請求される可能性も高いでしょう。
やっている側はいたずらや悪ふざけのつもりでも、飲食店などにとって迷惑行為は死活問題につながります。
厳しい対応が予想されるので、穏便な解決を目指すなら弁護士のサポートが必須です。
飲食店などに対する迷惑行為でトラブルに発展してしまったら、まずはベリーベスト法律事務所にご相談ください。
経験豊富な弁護士が、刑罰の回避や損害賠償額の軽減を目指して、全力でサポートします。
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