HHCが法律で規制対象に! 指定薬物と大麻取締法、薬機法
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足立区ではホームページで危険ドラッグなどを使用しないように注意を喚起しています。また東京都でも薬物乱用についての相談窓口を設けるなど対策を講じています。しかし、ニュースなどで、「薬物の所持や使用で逮捕された」という言葉をよく耳にするように、依然として薬物乱用が根絶されたとはいえない状況が続いています。
令和4年は、大麻同様に「ハイになれる」と注目されていたうえに、合法の範囲だった「HHC」が急スピードで規制対象に加えられました。それでは、「HHC」とはどのような薬物なのでしょうか?
本コラムでは「HHC」に関する法律の規制や罰則、違法な薬物に関して容疑をかけられてしまった場合に取るべき対応などを、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスの弁護士が解説します。
1、「HHC」とは? なぜいきなり規制されたのか?
まずは「HHC」がどのような薬物なのかを確認していきましょう。
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(1)HHCは危険ドラッグのひとつ
「HHC」とはヒドロキシヘキサヒドロカンナビノールの略語です。
カンナビノールという用語が混じっているので察しがつく方もいるかもしれませんが、大麻由来成分の「カンナビノイド」を化学的に加工した薬物で、摂取すると大麻に似た感覚をもたらします。
大麻が脳に強い刺激を与えるのは「THC」という成分のはたらきですが、これはテトラヒドロカンナビノールの略語で、HHCは近い効能が確認されている危険ドラッグのひとつです。
「危険ドラッグ」は、かつては合法ドラッグ・脱法ハーブなどの名称で呼ばれていました。
もちろん、このような名称で呼ばれていた当時も法律の規制を受けていましたが「合法」「脱法」といった表現で誤解が生じやすかったため、平成26年7月から「危険ドラッグ」と呼ぶことで統一されています。 -
(2)保健衛生上の問題から規制対象に加えられた
HHCは令和4年3月17日付で危険ドラッグとして規制対象に加えられました。
HHCが規制された理由は、言うまでもなく大麻に近い効果があり、保健衛生上の問題があると判断されたからです。
通常、薬物に関する規制が加えられるときは、薬事・食品衛生審議会の意見を聞いたうえで厚生労働大臣の名において決定します。しかし、HHCのように薬物を使用した本人はもちろん、社会公衆の健康を害するおそれがある場合は、この手続きの省略が可能です。
早急に規制を加えないと多数の人の健康被害につながるため、突然の規制となりました。
2、指定薬物を規制する薬機法|禁止行為と罰則
HHCを規制するのは「薬機法」と呼ばれる法律です。
今回、HHCは薬機法が定める「指定薬物」に加えられたことで規制対象となりました。
薬機法が定める指定薬物とはどのような存在なのか、指定薬物に加えられるとどのような規制を受けるのかをみていきましょう。
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(1)「薬機法」とは?
「薬機法」とは、正確には「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」という名称の法律です。平成26年の改正を機に改称されましたが、正式名称が非常に長いため「薬機法」という略称が用いられています。
薬機法の主な目的は、医薬品・医薬部外品・化粧品・医療機器・再生医療製品を対象に、その品質や有効性、安全性を確保することです。
さらに、保健衛生上の危害の発生や拡大を防止するために必要な規制をおこなうという目的もあり、健康被害につながるおそれのある薬物を指定・規制する機能をもっています。 -
(2)「指定薬物」とは?
薬機法第2条15項によると、指定薬物とは「中枢神経系の興奮もしくは抑制、または幻覚の作用を有する蓋然(がいぜん)性が高く、かつ人の身体に使用された場合に保健衛生上の危害が発生するおそれがある物」という定義がされています。
なお、「指定薬物」として規制を受けるのは薬機法の対象となる薬物だけなので、同様の効果があったとしても大麻・覚醒剤・麻薬および向精神薬・あへんなどは指定薬物には含まれません。これらはそれぞれ個別の法律によって規制されています。 -
(3)指定薬物に関する禁止行為と罰則
指定薬物の製造・輸入・販売・授与・所持・購入・譲り受け・医療などの用途外の使用は、すべて薬機法第76条の4によって禁止されています。
業としてこれらの禁止行為を犯した場合の罰則は「5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはこれらを併科」です。また、営利などの目的がなく個人的な目的で禁止行為を犯した場合でも「3年以下の懲役、もしくは300万円以下の罰金、またはこれらを併科」という罰則の対象となります。
いずれの場合でも非常に厳しい罰則が用意されているので、安易に手を出してはいけません。
3、薬物使用などを規制する代表的な法律
HHCを含む危険ドラッグと呼ばれる指定薬物を規制するのは薬機法ですが、先述のとおり、大麻や覚醒剤などは別の法律によって規制されます。
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(1)大麻取締法
大麻の所持・栽培・譲り受け・研究のための使用・輸出入を規制するのが「大麻取締法」です。
ただし、本法によって規制されるのは大麻草およびその製品であり、大麻草の成熟した茎や種子とその製品は規制を受けません。
なぜなら、成熟した茎や種子は有害なテトラヒドロカンナビノールを含む量がごく微量だからです。
なお、種子は香辛料などにも使用されるため、ごく微量ながらも体内から大麻成分が検出される可能性があります。薬物乱用との区別が難しいので、ほかの薬物では禁止されている「使用」が規制に含まれていません。
ただし、令和4年9月、厚生労働省は専門家委員会を開き、使用罪を創設するよう、大麻取締役法の改正方針をまとめています。今後の動向に注意が必要です。
栽培・輸出入には7年以下の懲役、所持・譲り受け・研究のための使用には5年以下の懲役が科せられます。 -
(2)覚醒剤取締法
覚醒剤を規制するのは「覚醒剤取締法」です。
従来は「覚せい剤取締法」という表記でしたが、令和2年4月の改正によって一定の条件を満たしている場合の原料の輸出入や譲渡などの規制が緩和されると同時に名称の表記も変更されています。
覚醒剤は極めて毒性が強いうえに依存性も高いので、厳しい規制が設けられています。覚醒剤そのものの輸出入は全面禁止、許可を受けていない者の所持・製造・譲渡・譲り受け・使用も禁止です。
問題となる代表的な行為は所持・使用ですが、10年以下の懲役という厳しい罰が予定されています。 -
(3)あへん法
あへんの輸出入、けしの栽培やけしがらの所持・譲り受け、これらの吸食は「あへん法」によって禁止されています。あへんは、鎮痛剤として強い効果があるなど医療的な価値が高い一方で、精製方法によっては強い害をもたらす危険な薬物です。
令和2年中の検挙数は15人とわずかですが、国際的にも使用が禁止されており、日本でも強く規制されています。
けしの栽培、あへんの採取、あけん・けしがらの輸出入の罰則は1年以上10年以下の懲役です。あへん・けしがらの所持・譲り受け・吸食には7年以下の懲役が科せられます。 -
(4)麻薬及び向精神薬取締法
モルヒネ・コカイン・MDMAなどの麻薬、抗うつ薬や睡眠薬といった向精神薬は「麻薬及び向精神薬取締法」の規制対象です。
これらの取り扱いには所定の手続きを経て免許を受ける必要があり、薬物の種類によって輸出入・製造・製剤・小分け・譲り受け・交付・施用・所持・廃棄など、禁止行為や罰則が異なります。
たとえば、MDMAの所持は7年以下の懲役、向精神薬の譲渡目的の所持は3年以下の懲役です。
4、HHC規制で逮捕が心配なら弁護士に相談を
薬物犯罪は逮捕の危険性が高いという特徴があります。
令和3年版の犯罪白書によると、令和2年中に検察庁で処理された事件のうち、大麻取締法違反では61.1%、覚醒剤取締法違反では70.8%が逮捕の絡む事件でした。
これは特別法犯全体の逮捕率が33.5%であることに照らすと、極めて高い数字です。
再犯性が高く、さらに入手ルートを明らかにするためには関係者の接触を止める必要があることから、違反行為が発覚すると逮捕されやすいと心得ておきましょう。
また、薬物に関する規制は、改正を経て強化を繰り返しています。自身の行為が規制の対象になるのか、禁止行為にあたるとして逮捕の危険があるのかなど、わからないことも多いはずです。
薬機法による指定薬物に加えられたことで「HHC」の所持や譲り受けは処罰の対象となります。秘密裏に捜査が進められることで、突然逮捕される事態に発展するかもしれません。
これまでにHHCや薬物を使用していたり、所持や販売していたりした方で、逮捕や刑罰に不安を感じているなら、弁護士に相談しましょう。
5、まとめ
これまでは大麻に代わる合法薬物として注目されていた「HHC」は、新たに薬機法の指定薬物に加えられました。
危険ドラッグの取り締まりは強化される一方なので「知らなかった」では済まされません。
所持や譲り受けが発覚すれば逮捕を含めた厳しい処分を受けるおそれがあるので、規制内容を十分に理解したうえで、禁止行為を犯さないように注意する必要があります。
以前にHHCの所持や譲り受けをしていたので逮捕や刑罰に不安を感じている、今後はどのような扱いになるのかわからない点があるなど、HHCを含めた指定薬物に関するお悩みがあれば、弁護士への相談をおすすめします。ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスへご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています